第226話 人口比

 精霊灯は魔石から吸い上げる魔力を細くすれば、精霊が見える人――もしくは精霊の契約者だけが明るく見える部屋が作れる。エスの地下神殿の通路がそれだ。


 俺が作ったのは魔力を多めに出して、ライトの魔法とまではいかないけど、過剰摂取で光ってもらうやつ。こっちのパターンの方が普通で、細く調整するより簡単だった。というか、調整が難しすぎ!!!!


「水、水だけでも目立つのに……」

ソレイユが弱々しく言葉を紡ぐ。


 どこまで目立って大丈夫かチャレンジ中です。


 そしてソレイユを介抱しながら、視線を水中のモザイクに彷徨わせるファラミア。


「モザイクが気になるのか?」

「はい。水が満たすまではここまで気を惹かれなかったのですが……」


 ああ、執事のは「雪のの精霊、クイン」だっけ?


「水の中……水に沈む?」

俺の言葉にピクリと反応するファラミア。


「水に沈むガラス……、いやガラスはないか」

ちょっとイメージに合わないし、黒いガラスというのはこの世界にはたぶんない。


「水に沈む黒水晶?」

「……!」

目を見開いて固まるファラミア。


「なるほど、それがファラミアに混じった精霊の本性か」

「ファラミアの?」

ソレイユが聞いてくる。


「姿を変えてる精霊って本性を言い当てられると、ちょっと固まるんだって。黒は黒でも黒水晶の精霊なんだな」

人間を騙すために姿を変えてる場合がほとんどで、本性を偽る姿は精霊にとっては負担らしいけど。


「私は――」

「ファラミア」

今度はソレイユが愕然としているファラミアを支えている感じ。仲良いな。


「ファラミアが黒水晶? では今までは……」

隣で眉をひそめ、考え込むキール。


「我が君」

ちょっとアウロはキラキラした目で見てくるのやめろ。


「この後はまた契約だろう? 移動しようか」

たまたま当てただけなんで、過剰にキラキラされると落ち着かない。


 で、物思いに沈みそうな面々を追い立てて移動。新たな従業員ちぇんじりんぐとの契約が待っているのだ。


 で、今回は完成した広間で対面。


「多すぎじゃないか……?」

いやもう、本当に。


 新たな使用人と村人AからGとの契約。チェンジリング多すぎじゃないか俺の島? 比率はこんなものなの? 俺がカヌムの街で気づかないだけか? 街ではあまり出歩かないので自信がない。人口比が不安です。


「不穏分子は排除した後ですが、不都合がございますでしょうか?」

アウロが笑顔で聞いてくる。笑顔、笑顔だけど、あるって答えたら、直ぐにこの人たちを島から追い出しそうな気配がなんかこう……。


「いや、別にないけど。城勤じゃなければ契約はいらないんじゃ?」

あからさまにホッとした空気が漂う。ちょっとアウロさん、この人たち何か脅してる?


「精霊混じりは精霊の部分に付け込まれることがございますので。先に契約をしておけばある程度防げる上、契約が破棄されれば何かあったことだけはわかります」

村人――じゃない、街の住人希望者の契約内容は、故意に街に損害を与えないこと。


 俺に危害を加えないこととか、他にいくつか項目があったんだけど削った。俺は契約主になるので、ある程度守られるしね。普通でいいです、普通で。


 それにしても神々が出てきたのって、金銀とマールゥの時。たまたま眷属の精霊が混じっていたか、もしくはアウロとマールゥは精霊主体か? 


 後者っぽいな。あんまり変わらないから、どうでもいいけど。


 で、入れ替わりで今度は普通に顔合わせ。こっちはソレイユが商業ギルドの普通の契約をしてるのだが、警備さんや城の使用人には、俺の顔を覚えてもらわないと自由にフラフラできない。


「俺が領主のソレイユ。代理もソレイユだし、公の場以外ではニイでいい」

紛らわしいし面倒なのでニイで。


「我が君、仕える者が名を呼ぶことはないかと」

アウロがそっと伝えてくる。


 でも、もう島の子どもたちとか、おっちゃんおばちゃんには浸透済みだ。諦めてもらおう。


 俺がリクエストした職業の方々もいる。待望の家畜番。でももうなんか、ディノッソのところからもらってきた家畜たち、俺の山に馴染んじゃって手間もかからないんで、よくなっちゃったんだけど。


 一番手間がかかると思ってた豚は森に放しておけばよくて、食肉加工どうしようと呟いたらなぜかキノコの場所を教えてくれるようになったし。山羊二頭は草刈り要員だし、鶏から牛まで放し飼いだ。


 時々森でそのまま寝てるやつもいるけど、夕方になると家畜小屋に戻ってくる。何より可愛い。


 この島の家畜は新しく買おうと思いながら握手。次に鍛治職人。


「あれ? ド……地の民?」

紹介されたのが地の民だった。


「おお? 地の民われらを知っておるか!」

「ああ」

最近三人ほど会いました、暑苦しかったです。


「北のほうに住んでいるものかと思っていたんだが」

ヒゲがこの気温で暑そう。


「ワシは寒がりでな、暖を求めて彷徨さまよいついたのがここよ。我らを知る者と会えて嬉しいぞ、久しぶりに故郷を思い出した。ワシは黒鉄の竪穴のワシク」

ワシはワシ……。寒がりなはぐれドワーフ。単体なのに濃い。


「よろしく」

黒鉄の竪穴というと、ガムリの同胞? 聞こうかと思ったけど、なんか長くなりそうな気配がするので黙っておきます。

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