第225話 水路開通

 ナルアディードの島に来ている。


 塔の上、城壁の先に屋根と広場の一部――出来上がりかけている街を眺める。


 広場に面して『精霊の枝』、茶屋兼軽食屋、飯も出す酒場兼宿屋、カードゲーム室をつけたお高い宿屋、ちょっと高めのものを扱う市場、食料や生活雑貨を扱う市場、入り口の階段でも催しができる劇場。他は下が店舗にできる家屋が少々。


 まだ出来ていないところもあるけど、これで水を流してもっと緑を増やせば綺麗な街になると思う。


 市場は狭いけど、島の大きさからしたらこんなものだろう。高めの方は出入り口に徴税官の居るスペースがあって、買った人にも税がかかるこちら風。


 食料や生活雑貨を扱う方は、出店料を取る方式で買う方は無税。日極め、月極めで貸し出すスペース、だんだん貸出料が高く、広く設備もしっかりしたものになる感じ。船荷からも税はとるし、全体的にはお安め設定。


 隣に兵士の詰所兼銀行っぽい何か。両替メインで、俺が知ってる銀行業務と、朝借りて少しの利子をつけて夕方返す烏金からすがねと呼ばれるものも扱う。借りた金で朝何かを仕入れて振り売りし、夕方売り上げから返すという使い方だ。


 街のあの辺は薬屋かな? 


 海の側はまだ完成には程遠い。下の住人のだいたい半分は広場近くに移り、半分は改装のために一時的に引っ越しということで、広場付近が優先されている。


 水路は完成している、今日は水を流す日だ。


 井戸を中心として花模様のようなアラベスクのモザイク。これは俺が精霊に手伝ってもらうというズルをしつつ作った。もともと殺菌効果があるガラスだが、清浄だとか清潔を好む精霊が好きな模様だ。


 石工が作った、階段から井戸までの真っ白な通路。


「じゃあ魔石を設置するぞ」

「はい、我が君」


 立会いはソレイユとファラミア、金銀。アウロの俺への態度に二人がずっとドン引きしているけど、俺もどうしていいかわからないのでスルーしている。ファラミアも表情はそんなに動いてないけど、床を見つめている。俺のせいじゃないのに視線が痛い。


 前回放り込んだら驚かれたので、今回はそっと魔石を置く。すぐに井戸から水が溢れ出し、ガラスでできたモザイクを覆い尽くして、開口部から塔を流れ落ち水路へと至る。


「すごい……」

「これは」

ソレイユとキールが声を漏らす。そして、なぜか嬉しげなアウロ。


 水中のガラスのモザイクというのもオツなもの。開口部にある段差より少しだけ高い通路に水が緩く打ち付ける。


「おお、順調」

城の水路を水が流れてゆく。ちょっと嬉しくって面白い。


 俺の塔、城の中庭、水道橋をクリアして街の広場へ。まだ何もないけど畑予定地にも。畑への分岐には、予定通り小さなモザイクを設置して水に栄養をプラス。こっちの水路には、すぐに苔が生えたり藻が生えたりするだろう。


「井戸の水を見せられた時も驚いたけれど、これは圧巻ね。本当に美しい街になるわ」

「今後の移住者の募集計画は少し変更だな」

うっとりした目で街を眺めるソレイユと、ちょっと驚いたようだけどすぐに平常に戻ったキール。


 そして街の様子よりもファラミアはモザイクにうっとりしてる?


「魔石は大きめを二個、小さめを二個セットしてある。小さいやつの効果が切れたら大きめをセットしてくれ。全部いっぺんに止まらないよう、効果に時差があったほうが安心だからな。魔石は火系じゃなければ大丈夫だけど、できれば水系で」


「承知いたしました。テオフに定期的に用意させて、私かキールが確認と設置を行います。二人とも困難な場合はソレイユに」

アウロが胸に手を置いて軽く頭を下げる。テオフは白い髪の魔石師だ。


「ん? 確認は鐘を鳴らすついででいいんじゃないのか?」

細い階段の上は時刻を知らせる鐘がある。


「ここに下手なやつを入れられるわけがないだろう。時の鐘は『精霊の枝』に作った」

「ここの鐘は特別な日に鳴らすことにしました」

キールとアウロが言う。いつのまにそんなことに。


「まあ、管理してくれるならいいけど」

井戸の浅いところは魔石から力を送る魔法陣があるだけで、十メートルほど潜らないと上に汲みあげる魔法陣は見えず、水を湧かす魔法陣のプレートは井戸の底。


 金銀に言われて魔石を入れる浅い穴は深い穴に変更されているため、一回入れると取り出すのは難しい。水が湧き出す井戸に、水流に逆らい潜って、埋め込まれた魔法陣プレートを取り出すのは困難だと思う。


 それでもやはり溢れる水の仕組みを知りたがる輩は多いのだろう。俺だってこんなのがあったら仕組みが見たい。


「ああ、そうだ。これ八方につけといてくれるか?」

「何でしょうか?」

アウロが適当に入れてきたズタ袋を受け取る。俺の担当はアウロになったんだろうか? 


 袋を開けて布に包まれたものを取り出し、開くアウロ。中身は光の精霊の寝床あかりだ。


「何だ? これもガラスか?」

「相変わらず綺麗な手仕事ね」

キールとソレイユがアウロの手の中を覗き込む。


「これは――」

話す前に小さな光の精霊が蛍のようにすーっと飛んできて、ガラスの丸いところに詰まる。飛んできて詰まる、詰まる。


 一人一部屋じゃないんだこれ。小さいといっぱい詰まるのか。


「そういうわけで、今昼間だから目立たないけど、明かりです」


「何がどうそういうわけなの!? これ精霊灯よね!?」

ソレイユが叫びながら卒倒しかけてるのをファラミアが支えている。

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