第222話 娼館通いの理由

 本日の朝ごはんは、焼き鯖切り身、だし巻き卵、タコの酢の物、蒸し鶏とオクラとみょうがの梅あえ、おひたし、ふっくら炊き立てのお米とお味噌汁。 


 朝から気温が上がってきたのでさっぱり目。でも味噌汁は熱々のアサリの味噌汁で、あさつきをたっぷり散らす贅沢。


 昨日は冷えるプレートを設置した箱に詰まっていた大福をむにむにさせてもらったし、いい一日だった。今日という日も楽しいといいな。


 山歩きと畑の手入れの日課を終えて、塔へ【転移】。リシュも連れてきたいけど、狭いし棚の材料とか転がっていて危ないから完成してからだな。


 棚の組み立て、ベッドフレームの仮設置、冷えるプレート増設……。暑かったんだよ! 分厚い壁で覆われてる塔だけど、さすがに暑い。この塔は南東の日を遮るものがない崖にへばりついてるようなかんじだし。


 ちょっとプレートの上で涼んで、棚の組み立て作業再開。プレートは天井につける方がいい気もするけど、天井はすでに綺麗に仕上げてもらってるし、後からつけて落ちてきても困る。


 ああ、石壁に直描きするか。ちょっとでこぼこしてるのは『斬全剣』で平にしてしまおう。石組みの境を避けないといけないけど、小さいのをいくつか描けば模様っぽくなるし。ただ、大きいのをどーんと描くより面倒だけど。


 よし、これ以上暑くなる前にやってしまおう。


 木製の脚立きゃたつを二つ用意して、横移動できるように板を渡す。後はもうガリガリと。トカゲくんが見にきたり、細かな精霊が寄ってきたり。コピー能力が欲しいと思いつつひたすらガリガリ。


 細かな精霊がきたんで、書き損じなければ性能のいい冷房プレートになるはず、なるはずだから頑張る。


 魔石の設置はどうしようかな? やっぱり下でできたほうがあとあと楽だな。って、また描くのか!


 他の部屋は壁を木のパネルで覆って大きく魔法陣を描いたり、魔法陣をガリガリした石のプレートを絵画のように壁にかけたりして済ませることにした。


 むらなく冷えるのはこの倉庫部屋だけになるが、まあいい。薬とか色々置いとく予定だし、ちょうどいいだろう。


 あかりは砂の神殿で学習してきた、光の精霊の寝床。寄ってきた精霊に名付けるという反則も少々。光の中でも熱を伴う精霊には遠慮してもらう。


 天井近くまである棚が並ぶ部屋。塔はもともと狭いので、壮観と言うほどではないけど雰囲気があっていい感じに仕上がった。


 さっそくいくつか並べる。


 キンカ草で作った薬の入った瓶、赤トカゲから作った軟膏、薬師ギルドで教えてもらった薬。


 サザンウッドの実を砕いた毒消し、燃え殻と油を混ぜた毛生え薬、セランダインのオレンジ色の汁を白ワインに混ぜたもの、あちこちに植えられてちょいちょい使われてるベトニー。


 オオトカゲのツノでつくった針、皮で作った四角い防水布、小瓶に入れた魔石を一種類ずつ。一応、作業台も作ったけど、ここは俺のコレクションルームだ。時々眺めてにやにやしよう。


 日々ごそごそやっていると、どうやって居ることを知るのか、時々アウロがやってきて、飲み物を置いてゆく。タイガーナッツと呼ばれるショクヨウガヤツリの塊茎を絞って蜂蜜を混ぜたものらしい。


 見た目は豆乳っぽくって、蜂蜜のおかげか甘いが後味は不思議とさっぱり。アウロ曰く、夏バテに効くそうだ。当然こっちには冷蔵庫なんかないから温いんだけど、冷えるプレートの上に乗せておくといい具合。最近はもう少し冷えるプレートが作れないか試行錯誤中。


 あれか、塔に閉じこもって居るから熱中症を心配されてるのか。すまんな、玄関ホールは暑いままだけど、他は涼しいんだ。


 悪いので時々サンドイッチやら、クッキーを返す。クッキーはエダムチーズっぽいコクがあるけど最後に酸味が来てさっぱりな印象が残るチーズと塩、甘いもの苦手用クッキー。


 そう言えば人の名前や地名がついた、サンドイッチや、アールグレー、ダージリンはどう訳されてるんだろうな? 通じればまあいいんだけど。


 それにしても、過剰に世話を焼いたり、ちょっかいかけてくることもなく、でも心配していることは行動でさらりと伝えてくるアウロが、当初と別人みたいなんだが。中身入れ替わってないか? 大丈夫?


 塔の改造に勤しみ、レッツェがカーンを案内するのにくっついて行き、アッシュとルタと遠乗り。そんなことをしてたらディーンたちが帰ってきた。


「綺麗なお姉さんはどうだった?」

「おう! 極楽だったぜ」

「あそこは別天地だからね、日常の憂さや魔物との戦闘で積もったおりのようなものが消え去るようだよ!」


 あー。そう言えば魔物――悪意を持った黒い精霊を倒すと、黒い細かいのが飛び散って戦闘を重ねると積もり積もって狂うんだっけ? 


 細かいのはいいものも悪いものも普通はすぐ消えるものだけど、冒険者は消える前に次の魔物を倒してってことが多いから、どうしても溜まる。クリスが言う澱というのは、その黒い細かいののことだろう。


 城塞都市の娼館行きに二人が積極的なのは、その辺をなんとなくわかってるからか。あれ? レッツェ大丈夫? 執事は?


 ディノッソ家は家族団らんで癒されてそうだし、アッシュは甘いもので癒されてそうだけど。


「いやもう、エンダちゃんの胸が最高で!」

前言撤回、ディーンはただの女好き。


「リードはどうした?」

「あー」

俺の質問に視線を彷徨わせるディーン。


「ユニコーンとは別なものを見て、ちょっと落ち込んでたけど平気だよ。私の弟はそんなに弱くない」

笑って言うクリス。


 あんまりリードに構ってる風でもないのに、クリスはなんかいい兄ちゃんだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る