第200話 落ち着かない
思わず助けを求めて執事を見る。
視線を合わせない澄ました執事の顔からは、使用人はいてもいない存在なのですよ、という心の声が読める。おのれ……っ!
「ジーン、からかわれているだけだ。この場合は私が自由に家に帰れることだけ覚えていればいい。私もあとは流している」
俺の落ち着かない視線に気づいたのか、アッシュからフォローが入る。頼むから流すところ考えてくれないか?
「ああ……」
って、アッシュパパはスルーしてたら押し倒されたんじゃ……。ちょっとホッとしかけたけど、安心ができないッ!
「はは。精霊銀を
筆頭公爵家がリリスの母方で、今回のことで実権を完全に握ったんだそうだ。公爵家がやらかさない限り、これから先の王はずっとお飾りになる。
こうなると押し倒したのも政略の匂いがぷんぷんする。筆頭公爵家がリリスを通して武の公爵家も手に入れた、みたいな。ただ団長と呼ぶリリスの声が少し嬉しそうなので、それだけでもなさそうなことが救い。
「本当にあの男前な状態からここまで変わるとは。――中身が全く変わっていないことにも驚いたけれど」
感慨深そうにアッシュを見るリリス。
うん、肩幅とか三分の一くらいになったんじゃあるまいか。これで――いや、なんでもない。
「これで胸があれば」
リリス、俺が控えたことをズバリ言うのはやめろ!
その後はざっくり国がどういう状況でどうなったかを聞き、その時にあった事件で俺が聞いても問題ないものをいくつか聞いた。
影響は現役世代から子世代まで幅広く、一部では暗殺や
井戸や川に毒を流すのは、周辺国からだいぶ非難され信用を落とすことだけど、時々行われる行為でもある。信用を落とすと、それを理由に他国が攻め込んで来たりするので、滅多に使われないはずなんだけど。
あと執事の息子はそのまま続投。なんか、お勉強はできるけど判断力はないタイプらしく、適切な指示を出す人間がいれば優秀なんだそうだ。脳筋パパとは相性が悪そうだけど、リリスがいれば――って、ますます乗っ取りフラグが。
「それにしても、レオラが騎士として守りたいと言うし、冒険者だと聞いていたから、団長のような尊敬できる偉丈夫を想像していたのだが」
そう言って俺を見るリリス。
アッシュパパムキムキか!? あとなんかちょっと
「魔物は最近何を狩ったんだい?」
「赤トカゲだな」
他にも狩ってるけど、最近は赤トカゲです。叩き斬るだけでいい魔物より技術がいる。叩き斬るだけでいい魔物というのが、普通はズバッといけない魔物だということはこの際置いておく。
「ま、レオラがいれば安心だろう。少々融通がきかんが、護衛としても優秀だ。商人だとも聞いているからな」
弱い判定された気がするが、事実とは違うので気にしない。リリスってもしや強さが男のバロメーターか?
思ったより執事やアッシュが俺のことを伝えていないっぽいので、ちょっと困惑。アッシュが自由になったのは
そんなこんなで顔合わせの食事会が終了。食事の味がよくわからなかった!
リリスは俺の思う貴族らしさと、親愛と、気さくさと、毒舌が入り混じった不思議な女性だった。
多分俺の方も値踏みされたんだと思うが、リリスの中でどんな評価が下されたかはわからない。
それにしてもこう、俺の中の貴族の令嬢のイメージがだんだん怪しくなってきたのだが、こっちが普通? 暗殺者とか戦闘力高そうとか肉食系とか……ううん?
家に帰ってリシュにまず嗅がれる。今日は念入りだが、きっとリリスと会ったからだろう。
色々疲れたので、俺の方もリシュを念入りになでて癒される。リシュの毛は今の時期、ちょっと冷やっとする。指で毛を
柔らかいのは走っていても、実際には地面に触っていないからだろう。忘れがちだけど、リシュは精霊だ。あと狼型だった気もする。
リシュはリシュなんでなんでもいいけど。
食事の味がよくわからなかったので、お茶漬けを食べる。ご飯は半分にしてさすがに少なめ、でもちゃんと焼き鮭と焼きたらこを一片ずつ、白ごまを少々と海苔を揉んでぱらぱらと。気分でちょっとだけ山葵。
さらさらと食べたら、ようやく落ち着いた。
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