第201話 日常
朝は早起きをしてリシュと散歩、そして色々収穫。山の中に実ったスモモ、杏。
エクス棒で木の枝をガサガサしてスモモを落とす。時々、黄色いのも落ちるけど、完熟したものが簡単に落ちる。普通は布を広げてその上に落とすのだが、少々ズルをして風魔法で受け止める。
ついでに一緒に落ちてきた枝や葉を吹き飛ばせるし便利。精霊が一緒に吹き飛ぶ遊びをして、きゃっきゃと喜んでいる。
「エクス棒、その右のやつ頼む」
「おうよ!」
エクス棒は、コンコンガサガサする以外にも収穫棒として大活躍。桃とかビワとか、枝を揺らしても落ちてこない背の届かない高い枝になる果実をお願いしている。
エクス棒は果物にあんまり興味がないので、収穫物の代わりにハンバーガーで。
真っ赤なスモモは最初の年もジャムにした、今回もたわわに実ったのでたくさん収穫。塩水にちょっとつけておいてそのままかじっても甘酸っぱくって美味しい。杏はジャムと砂糖漬け。
リシュがスモモの匂いをくんくんと嗅いで、酸っぱい匂いでもしたのか、くしゅんとくしゃみをして尻餅をついている。
イチジクは夏になるものと秋になるものを植えてある。葉もチーズを包んだりするので、重なっていて日が当たらないようなのを時々間引きながら【収納】してある。
ビワはタルトにしよう。もぐっとその場で味見をすると、味が濃くていい出来。時々味の薄いビワってあるよな、薄いくらいなら酸っぱいほうがましだが、これは味が濃くって甘い。
ズッキーニは花の下に実がついているのが雌花。茎に花が付いているのが雄花。味に大きな差はないけど、生でサラダにする場合はサクサクとした食感が美味しい雌花。雄花は雌花に比べると傷みにくく扱いやすいのでフリット向き。
ちょっと前に小麦も収穫したし、トマトやキュウリの支柱も立てた。十一月頃にパスタ用硬質小麦の種まきをして、だいたい収穫が今頃。大変だし、あんまり植えてないけど、小麦も稲も一面に生えてる風景にはちょっと憧れる。
この辺では刈り入れを終えた後は休ませてというか、羊くんの牧草地になるのだが、俺の飼ってる家畜は頭数が少ないので大豆を植えた。小麦、大豆、水田の輪作。
ちょっとずつ色々なものを、時にはズルして風魔法で剪定や収穫をしつつ、日々お手入れに励む。精霊も俺がやることのパターンを覚えたのか、遊びながら手伝ってくれる。時々、時期外れの果物や花が出現してびっくりしたり。
さて、そろそろクリスたちが出かける時間だから、見送りがてら弁当でも届けよう。リードが混じってるから使えるものの縛りがきつい。
無難なところでハムとチーズのサンドイッチ、ミートパイと酒あたりか。あ、白色雁の唐揚げ入れたろ。
【収納】しておけば時間経過しないとはいえ、さすがに
いっそ島経由で売るか? 精霊の影響を受けた
どれくらいで勇者がちょっかいだしてくるだろうか? 勇者の強さが予想がつかない。勇者が強くなれば、光の玉も強くなるので俺に関わる確率は下がると思うんだけど。
光の玉とは【縁切】しているけど、それだけじゃなくって「覚えていられない」。
力を俺のために使われると守護される、これは縁ができるのが嫌で断った。ただ、巻き込んだペナルティがないというのも――と他の神々に言われて、「俺を覚えていられない」「俺を巻き込んだことを思い出すような状況をつくらない」というのを玉自身にかけさせた。
ルゥーディルとカダルの助言で、光の玉が自分の失敗をスルーする気質も利用している感じ。残念ながら、こっちの世界での事象にしか影響が出ないので、姉たちの記憶から日本での俺を消すことは出来ない。
ただ、光の玉のそばにいる勇者も当然影響を受ける。ついでに逃げてきた精霊から、光の玉が自分の眷属だけはチェンジリングや勇者から守っていると聞いた。
力を失う前の光の玉は、召喚に臨むくらいには強く、そのころの力の
周囲のものは光の玉とその眷属から偏った影響受けまくりなのだが、その影響の中には光の玉自身が気づかない「俺を巻き込んだことを覚えていられない」「俺を巻き込んだことを思い出すような状況をつくらない」が混ざっている。
守護してもらった神々の力と相まって、徹底的に関わらない方向。
どんどん強くなるがいい、勇者よ。俺の平和のために!――でも人任せはドキドキするから俺も強くなる方向で努力中。畑作業も、もの作りも神々の強化にはなることだし、せっせと頑張る。
なんだか腹がたつからリシュを光の玉より強くしたいし。でも可愛いままでいてほしい気持ちもある。
リリスが食い尽くしたというパンを執事に届け、クリスたちに弁当を届ける。
「宵闇……ジーン、わざわざ作ってくれたのかね!」
「ああ。出かける前だというのに昨日、剥いちゃったからな」
洗濯は料金とは別に心づけを渡して、最優先でやってもらい夕方には戻してもらったけど、着替えがないまま旅立たせるところだった。
「ありがとうございます、昨日いただいた料理もとても美味しかったです」
リードが褒めてくれた。
「おお、唐揚げ!」
ディーンが包みを開けてすでに一つつまみ食い。
「あれ、レッツェは行かないのか?」
レッツェだけ荷物がない。
「俺は城塞都市で手入れするような武器もねぇし、ついてく意味ないだろ」
「綺麗なお姉さんのお店に行くのかと思ってた」
視線をそらすディーンとクリス。
行くんだな? 綺麗なお姉さんのお店に。
「う、金は頑張って貯めてる! でも息抜きもしたい!」
何かからかわれるかと思ったら心の叫び。
忘れてたけど、そういえばディーンは俺に精霊剣の支払いがあった。
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