第180話 経済を回してる
唐突に作業場に精霊が多い理由に気づいてしまった。家は番号じゃない名前の精霊と、火の粉の精霊とか家の中で生活していると生まれる細かいのしか入れない仕様。
俺が薬を作るために後から増設した作業場、外扱いか! 家の中も本来すぐに消えてしまうような細かいのもそのまま留まるどころか、なんか大きくなったのもいるし、家での作業は危険だ。
鍛治や染色する場所なんかはカヌムにはないからしょうがないけど、少なくとも薬は変な効果ついたら怖いからカヌムで作ろう。作業場は調剤場所として作ったのにおかしいな?
「これは大丈夫です」
「何がだ」
出す時に独り言が漏れたらキールに突っ込まれた。
先日話した通り、ソレイユについでに販売してもらうために魔石を持ってきた。
一番多いのはオオトカゲから出た翡翠だ。カヌムで伊達に引きこもってたわけじゃなく、せっせと大福をこねながら磨いたやつだ。ちがう、せっせと磨いたやつだ。大丈夫、変な効果はついてない。
翡翠は綺麗なままなものもあるけど、大抵表面が茶色くくすんでしまっているので、磨いて緑色を出した。綺麗な緑色で透明度が高いものが高く、綺麗な色が出なかったものも粉にして腎臓の薬として売れる。
「翡翠ね。腰に当てておくと腰痛に効くっていう迷信のせいで年配の方に人気ね」
そう言いながら俺が適当にランク分けした箱の翡翠をチェックするソレイユ。
粉が本当に腎臓に効くなら、腎臓を悪くすると背中や腰の痛みが出るので迷信の由来はそのせいかもしれない。そしてこっちの魔石は精霊のせいでファンタジー効果がですね……。日本の常識で効くわけないと思ってると本当に効いたりするので馬鹿にできない。
「これ反則……じゃない、一つだけ販促を持ってきた」
中国の腰につける
細かい作業だったので家の作業場で作った。精霊がやってきて腰痛軽減効果がついた。困ってカヌムに退避した。細かい作業をする道具がなかった。ついでに飽きたので残りは磨くだけにした。
以上のような経緯で一つだけ反則ができた。
「あら、いいでき」
「ほんの少しだが本当に腰痛を軽減するから、他の商品の販売促進に腰痛持ちに貸し出していいぞ。販売は禁止、どうしても勝負したい時は売ってもいいけど、一つしかない」
完成前にカヌムに移動したので効果は弱い。
「本当なら、売り様によって普通の屋敷くらいは建つわね……」
ソレイユの反応は、半信半疑といったところ。おそらく城の改修に参加している誰かで試し、確認をとるだろう。
「で、こっちは毛皮」
袋に適当に詰めてきた毛皮を出す。
「こちらは暑いから毛皮は――ちょっと! これ袋に適当に詰めていい毛皮じゃないわ! 手伝って」
ソレイユが金銀に手伝わせて机の上に綺麗に伸ばす。森の奥で狩った三本ツノの銀狐の毛皮が二枚だ。マントにできるほどでかい。
ナルアディードからあちこちに輸出されるとはいえ、なにせ暑い場所。普通の毛皮の取引は、北の民族の島の方が盛んでそっちに集まる。ただ、防寒用とかの日常品ではなく、珍しい毛皮はこっち。
「これの売り上げは俺の口座に入れといて。ソレイユの商会の手数料はちゃんと取れよ。あとこれ精霊金、商会設立おめでとう」
「精霊金……」
「商会の目玉にしてもいいし、自分の結婚に使ってもどっちでもいいぞ」
精霊金は取れる量が少なく、馬鹿高い。
武器防具にすれば強いんだろうけど、使い方は現在、金持ちの婚約や結婚など、特別な宝飾品に。特にずっとつけてる結婚指輪や、イヤリングにされることが多い。大金持ちになると腕輪とかネックレスも作るみたいだけど。
特に侯爵以上は面子もあって、金か白金の精霊石の宝飾品が用意できないと結婚が伸びるそうだ、と最近知った。
――過去、金脈の大部分が精霊金化した場所が見つかり、大金持ちになった男の話とか、その精霊金で黄金の鎧を作った王様の話も伝わっている。滅びの国に向かう海に、その鎧が沈んでいるという伝説がある。
俺が渡したのは常識的に考えて、親指の先ほどの大きさにとどめた。そもそも坑道では魔金がそんなに採れなかったのもある。でも魔金や魔銀が置いておくだけで精霊石になるなら、ものすごく効率のいい金儲け手段だ。精霊、置いてあるものが変わらないとすぐ飽きそうだけど。
「主人はいったい……?」
「
不審そうなアウロに手をひらひらと振ってみせる。ディノッソには、王狼の名前を出していいといわれているが、とりあえず名前は出さない方向で。
「金ランク冒険者か? どうやって――」
「キール、個人的な仕入れのルートを聞くのはよくないわよ。高価なものだし、これらは商業ギルドで鑑定を入れさせてもらうわ。その方が信用にも宣伝にもなるし――ありがとう」
追求しようとするキールをソレイユが止めて、礼を言ってくる。
その後は、城塞の修復具合を案内されながら説明を受ける。
「中庭を囲む建物の修復はほぼ終了しました。あとは扉を含む建具や設備を入れるだけです。鍛冶場は修復のためにも先に稼働したいです」
今は簡易小屋で簡単な鍛冶作業をしている状態だ。
「腕のいい鍛冶職人をスカウトできる?」
「少しツテを頼ってみましょう」
アウロのツテってちょっと不安になるのは俺だけか? 聞き返したいがさっきのことがあるので聞けない……っ。
「来月にはソレイユの友人も含め、何人かの面接を入れたいのですが予定はいかがですか?」
「最初の条件を守ってくれる人なら、人物はソレイユがいいなら俺はいいけど」
「もちろんこちらでも面談はいたします。それに少なくとも本館の奥回りを担当するものは、直接契約していただいた方がよろしいかと思います」
「わかった」
予定を話しつつ、移動する。
今度はメインの建物に入った場所、吹き抜けのホールだ。
「あのやたら綺麗に切れてる場所は窓でいいんだったな?」
「うん」
キールが言ってるのは、俺が夜な夜な石壁を『斬全剣』で斬って開けておいた場所だ。
「石工がトレーサリーをつけたいそうですがどうされますか?」
まて、トレーサリーって何だ? さらっと言わないでくれ頼む。
「どんなものだ?」
聞いたらキールについていった先で、石工に絵図を見せられた。あれだ、ヨーロッパの教会とかにあるやつ。工法の都合上、石積みの家は大きな窓の上はアーチ状になる。そのアーチ部分に石細工の模様が来て、縦格子がはいるあれだ。
なお、そのアーチの必要性を理解せずにぶった切ったため、無事だった壁が何箇所か崩れた模様。すまぬ、すまぬ。そうだよな、上に来る石が大きな長い石一個ならともかく、つなぎ目が来てたら崩れるよな。
窓に配する石や鉄でできた仕切りや飾りのことをトレーサリーというのだそうだ。
「博識だなキール」
「ふん」
「石工に聞いただけでございますよ」
……アウロはキールと仲がいいのだろうか、悪いのだろうか。イマイチ関係がわからん。
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