第167話 ソレイユ
ナルアディードで買い物。スパイス類を買いつつ、どこから何が運ばれているか確認するのが目的だ。
ナルアディードはドラゴンのいる南の地域や霧を超えた西域、南を経由するけど東域とも交易がある。こちらからは羊毛製品を中心に、あちらからは香辛料や穀物、珍しい織物、花など。
一番人が多いのはこの中央大陸だけど、各地にも聖域や、精霊、ドラゴンや聖獣と呼ばれる比較的意思の疎通ができる力の強いものに守られた国が点在する。まだ行ったことがないから、そう思ってるのは中央大陸に住む人だけかもしれないけど。
で、それらを買い付けにくる各国の商人や貴族が集まり、
ナルアディードには色々なものが溢れている。
そういうわけで何だかわからない雑貨を眺める俺。鉄の
蜜蝋は高く、獣脂蝋燭は安いが臭うし
獣脂蝋燭を使う家庭では芯を切るのは大抵子供の役割で、握って使うような小さなハサミだけど、夜会とか人前で使われる芯切り用のハサミは装飾が格好よくて、やっぱり銀器が人気なのだそうだ。
この店のおやじの話では、王都の劇場で芯切り係が大活躍中だという。絶対に火を消さないように芯を切らなきゃいけないのだそうだ。音楽は生音、照明は芯切り係なのかと思うとちょっとこっちの劇がどんなものか見に行きたい。
島にもなにか娯楽施設を作りたいところだな。
「格好いいなこれ」
「こっちのグレープシザーも人気だよ」
店の親父のいうハサミ、
格好良かったので芯切りハサミを一本買う。
ナルアディードは基本まとめ買い前提、客は国に帰って商売する人だったり、でかい屋敷用に大量に買い付けに来てる人のほうが圧倒的に多い。
大口の取引が主だが、商業都市として有名で観光地にもなってるので、俺が今利用したような大店から出た半端ものを扱う小店もあるのだ。
さて、俺の島に渡ろう。今朝畑にいたイシュとパルに相談した結果、少し計画の変更があるし。
と、思っていつもの舟屋に来たんだが、なんか取り込み中。爺さんが赤紫色した髪のぼんきゅっぼんな美女と言い争ってる?
「だからこの舟は預かりものだ」
爺さんがキセルを向けた先には俺の舟。
島に入れるような小舟が出払い気味というか、資材を運ぶために活躍中なので出払っている。
宝飾品の類は身につけていないけど、シンプルなワンピースは体のラインを強調するように流れ落ちていて、良い布を使っていることがわかる。あと裸足だ。
「あらどうしてもダメなのね。じゃあ、泳いでゆくわ」
いや、結構島までありますけれども。
「勝手にしろ」
爺さんが言ったら、女がスパッと脱いだ! 爺さん不動! メンタル強い!
「何で島に行きたいんだ?」
たとえ女のハッタリでも俺のメンタルがダメです。胴体にあるコルセットだっけ? あれとパンツだけなんだもん。
「領主に雇ってもらうのよ。使用人を年末までに数人集めてくれって頼まれたけれど、自分が立候補するわ。少し間があるけど、その間養ってもらえるくらいの貸しもあるし――あなたがこの舟の持ち主ね?」
「ああ」
長文話す前に服を着てくれないだろうか?
舟屋の船着場の明かりは海に開いた開口部からの光と、陽の光を反射する海のキラキラだけなんで薄暗いけど胸が丸見えだ。
「問題がある人は雇われないんじゃないか?」
「問題はなくなるから平気よ」
人を集めるよう頼んだのはアウロかキールか、二人に頼まれた島人か。どっちにしても半年以上養ってもらえる貸しってなかなかだな。
それにしても今現在こうで、消える問題って? 思わず爺さんを見る。
「その娘はカルバ商会の副会頭、会頭の養女のソレイユ。会頭は病気で寝たり起きたりだ、最近放蕩バカ息子が帰って来てソレイユと結婚するとかいう噂が流れてたな」
俺の偽名と同じ名前か。ソレイユってこっちでどうだか知らんけど、男性名詞じゃないのか?
「今はバカ息子が好き勝手しているけれど、ひと月もすれば商会は会頭も了承の上、他に吸収されるわ。それと同時にカルバの家から籍を抜く手続きも了承される、バカ息子の言うことを聞く必要もなくなるわ。これ以上詳しくは言えないけど、私はひと月逃げ切れば自由よ」
結婚については家長の言うことに従う地域が多い、バカ息子が寝たきりの親を抑えて好き勝手、ソレイユを嫁に〜みたいな感じ?
「商売に未練はないのか?」
爺さんがソレイユに聞く。
「あのバカ息子に好き放題されるよりは、潰してそのまま引き継いでもらった方が商会員のためよ。それには私は邪魔ね」
「思い切りのいいこったな」
目を細めてキセルをうまそうに吸う、どうやら爺さんは気に入ったようだ。
「わかった、島に連れてこう。とりあえず服を着ろ」
下着姿のまま無駄に姿勢がいいのやめてください。いや、手で隠されてもちょっと困るけど。
なんかグラマラスで漢らしい使用人候補をゲットのようだ。
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