第164話 調べたりお手入れしたり
森の中で基礎と地下倉庫用の穴掘り、一回掘った場所だから楽だ。【収納】があるし、適当でもいいんだけど丸々一軒建ててみたくなった。こっちは
こっちの人は永く残る家を建てる。建て替えは繰り返さず、子孫は家を継いでゆく。一代目が家を建て、二代目が内装を頑張り、三代目が家具を買う。四代目まで住み続ければ立派な家の主人だ。
日本の江戸時代からあるような家もそんな感じだったのかな? 実物に一度泊まってみたかった。
リシュはこっちの方が涼しいからエクス棒をかじってご機嫌の様子。
穴掘りは土をスコップで柔らかく崩して【収納】してしてしまえば楽だ。『斬全剣』でなんとかできそうな気もするけど、使い方を間違えてる気がひしひしとするし、それでやっちゃうと趣がないから使うのは【収納】のみでやっている。
それでもすごく早いし楽だけど。素材を取りに移動したりがないし。
せっせと家を作りながら島のことを考える。アッシュみたいな公爵令嬢、どっかに落ちてないかな? アッシュは真面目に内政に
とりあえず図書館に行って知識を仕入れてこよう。リシュが暑そうだから、何か涼しくする方法も探さないと。
そう言うわけで風呂に入ってさっぱりしたら、図書館です。魔法陣関連のある書棚を探し、該当しそうなのを何冊か抜き出す。
結局俺、思った魔法陣描けないまま放置してたな。馬より大物の黒精霊に出会っていないのもあるけど、力ずくで済んでしまってる。
目を通して、使えそうな魔法陣を写し取り、必要な素材と発動方法をメモする。うーん、覚えきれないし効果は薄くなるけど、発動方法は該当の魔石を設置する程度のものがいいな。
面白そうなのもメモメモ。
紅茶を飲みながら脱線しがちな読書に勤しむ。コーヒーは匂いが強いのでなんとなく遠慮してみた。狭い部屋の高い天井に向かって湯気が登る。
相変わらず静かで本をめくる音が大きく聞こえる。時間の経過がよく分からなくなるのだが、それでも構わない生活だ。
リシュの散歩と寝に帰るくらいで、5日ほど篭ったところで終了する。さすがに畑と果樹の様子もみないと、本格的な夏が来てしまう。
家の周囲は梅の花がいい香りを漂わせたと思っていたら、桃や杏、アーモンドがピンク色の花を咲かせ、林檎や梨が真っ白な花をつけ、花を散らし、あっという間に暑くなった。
山にはスグリがグリーンと赤い透き通った実を下げ、ジューンベリーやスモモも色づき始めている。そのうち真っ赤になるだろう。
そういうわけで、山の野生の果物はいいとして、世話をしている果樹は大きな実をつけさせるため、ガクを摘む。梨や林檎は本当はもっと早く花を摘むべきなんだろうけど、あんまり綺麗に咲いていたので今になった。花が咲いていた方が精霊も喜ぶし。
残ったガクにたまに小さな精霊がくっついている、それを残すように摘む。林檎、梨、蜜柑、オレンジ――摘む、摘む。一人でこの作業やるの泣きそうだが、今日はミシュトがいる。
手伝ってくれてるわけじゃなく、俺の作業風景を眺めたり、クチナシの花の香りをかいだり、日当たりのいい場所をふわふわしているかんじ。でも人がいるのといないのとでは気分が違う。
果樹園にはカダルとミシュトがいることが多く、畑の方にはパル、水辺にはイシュ。ヴァンは何か作っていると見にくることが多く、ハラルファは花が満開の場所でよく会う。
今は葡萄棚の花が咲いているので家のすぐ側で会う、葡萄の花ってだいぶ地味なので最初ちょっと意外だった。ハラルファは華やかな美人だからバラとか派手な花が好きなのかと思っていた。
なお、ルゥーディルは夜に読書してると黙って側にいてびっくりすることがある。俺のそばというよりリシュを眺めているのだけれど。
そのリシュはエクス棒をがじがじしていたと思ったら、いつの間にか木陰にちょと浅い穴を掘ってはまり込んで寝ていた。
「やっぱり暑そうだな、リシュ」
「うん、昔のリシュならこの山ごと凍らせているところね」
リシュを眺めて思ったことを口に出したら、ミシュトが怖いことを言った。
「あら、でも氷一つ出さないのは、ジーンに付き合って季節を楽しんでいるのかな? ちょっと意外」
可愛らしく首を傾げてみせるミシュト。
「今は
うをう! いきなり出てこないでください、ルゥーディル! 気配なくすっと現れるから心臓に悪い。というか。
「明るいところに出てきて平気か?」
「……少々きつい」
この
闇持ちのリシュは外平気なのに。
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