第161話 頼りになるのは
「ソレイユ様、とりあえず菓子袋を動かすのをやめてください」
金色にたしなめられる俺。
「キールも」
「ごほん」
銀色も金色にたしなめられ、咳払いして菓子袋を視線で追うのをやめる。
「その菓子の入手先を必ず突き止めてやる……」
悔しそうにつぶやく銀色を、かわいそうな目で見る俺と金色。
金色は製作者が誰だか気づいてるのかそれとも「菓子ごときで」って思ってるのかどっちだ。銀色と違って味はするけど、特に執着はないみたい。
「じゃあとりあえず、領主探そうか」
「は?」
不思議そうに俺を見てくる二人。
「俺は領地経営とか詳しくないし、いざとなったら全部振り捨てて逃げる気満々。領民からしたらやだろうそんな領主」
「すでに歓迎されておりますよ」
「最初の状態より悪くなりようがないしな」
そう言えば島ごと離散しそうだったなここ。
「中原の無法地帯を想定されているのかもしれませんが、ここでは商売で失敗しない限り大丈夫ですよ。大義名分なく攻めるようなことをすれば商売からはじかれます」
「商売で落としいられれるのはあるだろうがな」
「なるほど、領地を売るハメになることはあっても、兵が攻めてきて虐殺されるとかはないのか」
「絶対とは言えないですが」
「まあ、あっても屋敷にいるヤツ対象で一般人は平気だろう」
「よしわかった、仕事を代行してくれる人探そう」
「……結局探すのですか」
だって領主って住民同士の諍いの裁判官やったりめんどくさそう。必要な仕事ってなんだ? 国というと三権分立、立法・行政・司法か。
法律は今までのこの島のを元にちょっと変えればいいだろう。行政は税の徴収とか身分証発行したりとか、公共施設作ればいいのか? ローマ帝国は
……いかん、混乱してきた。
「とりあえず今あるこの島の法律を教えてもらおうか」
法律は基本は帝国法という大昔の大帝国が使っていたものを元にしている国がほとんどだ。だがそれ以外に都市では商人法や都市法、農村ごとの慣習法、何より領主が定める領法がある。
「住人から聞き取りをしたところ、80年は前の法を仲間内で都合の良いように解釈を変えて適用していたようです。ずいぶん長い間干渉がなかったようです、城壁が放棄された後は旨味のない土地ですからね」
用意していたのか、金色がメモを渡してくる。――すごく大雑把! しかも謎の法律もある!
「なんだこの夏至に木ノ実のタルトを食うなってのは」
「大昔の大樹信仰を禁じた法ですね」
「夏至は大樹信仰において重要な祭りで、木ノ実の菓子を食って各家庭で祝ったらしい」
アホかと思ったけど理由があったようだ、なるほど間接的に信仰を禁じてるのね。
「これは残すか?」
銀色が指で一文を指す。
「なになに? 娘が美人の場合、結婚前夜に領主に侍る……。アホか!!!」
思わずメモを机に叩きつける俺。
風圧で壺ランプの火が揺れる。この島の明かりは壺の途中に皿をくっつけて、灯芯を挿したようなかんじのものだ。魚の油が使われていて、けっこう臭う上に
「まあちょっと考える。領主代理できそうな人の心当たりってある?」
「男はともかく女でいいなら、娼館にでも行ったらどうだ?」
「なんで娼館……」
「貴族が
「有名な娼館に直接運ばれることもあるけどな」
生臭い話になってる!
「どっちか代理する気ないか? 両方でもいいけど」
「動きにくくなりますのでお断りいたします」
「柄じゃない」
おのれ!
「ああ、数は少ないけど元御令息もいるぞ」
「ただ、そちらに顔を出すとあらぬ誤解を受けることとなります」
おのれ、金銀! ニヤニヤしおって!
「だから菓子袋は……っ!」
ちょっとジャラシを見た猫みたいになった銀色と、困る金色を見て
「娼館が嫌なら奴隷商ですね」
居住まいを正して金色が言う。
「ナルアディードはあらゆるモノを扱っているんですよ」
金色にそそのかされて、ナルアディードの奴隷商へ。奴隷狩りも奴隷商もカヌムより都会では禁止されてるもんだと思っていたけど、どうやら違ったらしい。
ただ俺が初めて見た、奴隷売買よりはマシであるらしい。初めて見たの、肉の部位で売られてたからな。色々無理だった。
ましだったが、早々に退散。
日本人にあの雰囲気は無理!
「突然ですが領地経営についてご教授お願いします。あと領主のスカウト先を教えてください。一つこれで、ぜひ。あ、アッシュはこれね」
差し出すワインとプリンアラモード。
「……ノート?」
眉間に指を当てて執事の名前を呼ぶディノッソ。
「経緯不明でございます」
通常運転の執事。
「む、手を付けるのが勿体無い」
よし、アッシュは了承っと。
公爵令嬢に教えてもらえれば百人力だ。
「……何をやってるか聞いていいか?」
「内緒」
半眼で聞いてくるレッツェに答える俺。
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