第160話 領主

 コンコン棒EXを持って狩りに付き合ったり、足りないものを作ったり、島に木を植えたりしてたら、あっという間に夏になった。


「リシュ、水門開けたからこっちの方が涼しいぞ?」

日差しが届かない部屋の隅にいるリシュを呼ぶ。


 湿度がなくからりと晴れた日、俺には快適なのだがリシュにとっては暑いようだ。弱るってほどではないけど、冷たい床の感触を最大限楽しもうと手足を伸ばしてペッタリ腹をつけて伏せている。


 部屋の下を通る水路の点検を終えて、午前中に水門を開けた。分厚い石なので少し時間がかかったけど、他の場所よりもひんやりしてきた。


 暑さを避けてリシュの散歩の時間がどんどん早くなっていっている。昼寝するからいいんだけど。


 さて、今日はカヌムの二階の仕上げだ。置いてあるものは【収納】で簡単に退かせるし色々楽なんだけど、自分の計画性のなさで壁を作ったり壊したり我ながら落ち着かないことこの上ない。


 暑さは島、俺の家、カヌムの家の順。カヌムの家はどちらかというと寒さが厳しいので、暖炉周辺以外は板張り。三階は無人で暖炉な関係でタイル張りだけど、作業した後の掃除も楽だし。


 元々あった暖炉は調理用に横に広く奥行きも長く、腰の高さで燃やせるように改造。暖炉の向かいに作業台、暖炉と作業台の間は掃除が楽なように石のタイル。


 俺が客室用にあとからつけた小さな暖炉はそのまま、茶を沸かせる程度の装備。きっとこの近くは執事の指定席になるな。


 専用の台に乗せたワイン樽をどーん、ビールの樽をどーん。壁際にベンチを設置して机を配置、向かいに椅子。――水道欲しいなあと思いつつ、でかい水瓶設置。薪置き場は広めにとって安くなったら買いだめよう。


 一階から移動させた食器を棚に飾る。一階の見られては困るものを移す目的もあったのだが、完全に飯屋だな。アッシュとの食事会どうしよう? 正直、元の一階の雰囲気の方が良かった。屋根裏は完全に遊ぶ部屋だ、しかも寝室続きだし。


 中庭を挟んだ二階の寝室、いやその上の三階の部屋をちょっと改装しようか。雨の少ない季節に入ったことだし、森の聖域にも手を入れよう。資材は潤沢だし!


 さて、森に建てる家は大体決まってる。島に行って資材をとってくるとしよう。


 で、島なんだが。


 なんか銀色と金色がすっとんきょうな話を持ってきた。


「土地と土地にいる人を買う?」

「今は借りているような状態でございましょう?」

まあ、そう言えなくもないか?


「ここの領主から土地と民を譲り受けて独立ってことだな」

「半年後にご子息のご婚礼、下に令嬢が四人もおられる」

「……金か」

頷く金銀。


 国家という単位が発生する過渡期の終わり。大抵の領主は国という枠組みに貴族として組み入れられている。


 自由な商売を掲げるナルアディード周辺は商人の方が強いもんだから、まだ領主単位で残ってるんだよね。ある意味商業国家と言ってもいいんだろうけど、商いに関係ない領主はいらない、みたいな? 


 目端が効いて港を持ったとか船を持った領主とかは別だけど、この島を持っていた領主はこの島以外の港が作れるような、海に面した土地は他の領主に切り取られてるし、むしろちょっと邪魔というかスルーされている。


 自由騎士な俺も野良領主の一員だったりするんだけど。


「商館が潰れて、船が何艘なんそうか売りに出ている。どうしても欲しいらしい」

「なんだ、そのまま結婚資金に回すのかと思った」

なんかあの領主、商いに向いてないきがするんだけど。


「船があれば財産としては十分でしょうし、うまくやれば船の代金ローンを払いつつ儲けられますからね」

「あれに商才があるかは知らんが、あの一族にとって港と船は悲願に近い」


 薄暗い納屋の中でこんな会話をしてると、すごく悪巧みしてる気分になるんだがどうだろう? 金色と銀色がまた胡散臭いし。


「最初は船の代金丸々要求するふざけた真似をしてきたが、スルーしてたら船の前金に足りない金額まで下がった」

「あれが潰れて他の領主が取って代わった場合、揉めることもありますから。独立しておくのは悪い話ではないと思います」


「あー。この辺戦はないけど、なんか商いで失敗して立ち行かなくなりそうだもんなあの領主」

「その時に手助けするよりは金がかからなくていいだろ」

銀色の言うとおり、新しい領主と交渉とか面倒だから存続させるために資金援助する羽目になるだろう。


 新しい領主との交渉時は、この島もだいぶ変わってるはずだし、価値を見出してごねられると面倒。


「わかった、金を出してやってくれ」

また出費だよ!!!!


 藍玉を少しずつ買いだめてもらってるし、赤字にしない自信はあるけど、計画外の出費があると俺の行き当たりばったりな計画が浮き彫りになってる気がするからやめろ。


 無計画は家だけでいい。いや、これも家の一貫か。


「はい、ご領主様」

「ご随意に」

金銀が頭を下げる。


「え。領主なの俺?」


「自動的にそうなるかと」

肩に手を当てて、かがんだ姿勢のままにっこり笑って言う金色。


「今の話の何を聞いていた?」

銀色が冷たく言い放つ。


 扱いがひどい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る