第159話 ガサガサ

 エクス棒でコンコンガサガサしながら森を進む。


「楽しそうで何よりだが、あんま音立てんなよ?」

レッツェに叱られました。


「はーい」


 進むことが目的じゃなくって、魔物か獲物を探すのが目的なのでまあ当然だろう。この辺の魔物は五人の集団に自ら寄ってくるほど強くはないし、寄ってこないだけの頭もある。


 先発組は大雷鳥おおらいちょうと魔物化した山鶉やまうずらを数羽とってきた。大雷鳥はきじ七面鳥しちめんちょうの合いの子みたいな鳥、アガサ・クリスティの小説の中でポアロが食べ損ねた赤雷鳥もいるのかな? 


「……珍しいな」

「ん?」

手で止まれと指示して、小声でレッツェ。


「子鹿……ツノがあるな」

ディーンが目を細めてレッツェの視線の先を確認してる。


 どうやら子鹿の魔物らしい。特定の魔物を除いて滅多に子供を産まないから、子鹿の魔物は珍しい。ついでに美味しいらしい。


「ちょっと距離があるね!」

小声でもアクセントが力強いクリス。


 距離がある上にひらけた場所にいるので、近づくのは難しいかもしれない。


「この距離では外す」

アッシュがそう言って難しい顔をする。


 さっき水の刃を飛ばす練習をするのを見たのだが、魔力をたくさん込めると飛距離は伸びるけどまっすぐ飛ばずぶれるようで、正確に当てられるのは十メートルちょっとくらいのようだ。


 子鹿までは三十メートル以上あるだろう。


「俺は届くかな?」

レッツェがそう言って剣を抜く。


 二、三本出たツルのうち、するすると伸びてゆく一本のツル。もっとわさわさ出せるけど、一本だけの方が距離は稼げるらしい。


「あ、ダメだ。これ以上吸われたらやばい」

どうやら魔力不足の様子。


「私の魔力を貸そう!」

そう言って剣に触れようとしたら、残ってたツルが引っ込んだ。


「……ダメのようだね?」

「そうなのか?」

レッツェ専用武器ってわけじゃないと思うのだが。


「ん?」

試しに手を伸ばしたら、ツタが一本絡んできた。元気のなかったツタが勢いを増して子鹿にむかい、絡め取る。


「製作者だからだろうか?」

「単に懐いてるかどうかじゃね?」

アッシュとディーンがツタを眺めて言う。


 なんかさわさわと葉が動いて心なしか嬉しそうなツタ。


「――私も後で水やりさせてもらっていいかね?」

「そういう問題なんだろうか」

クリスがおずおずと聞き、レッツェはなんか渋い顔。


「精霊剣は、精霊との相性。好かれているかどうか、そういう問題なのだと思う」

「まあ、諦めろ」

アッシュが真面目な顔で言い、ディーンが笑いながらレッツェの背中を軽く叩く。


 子鹿はディーンがとどめを刺して美味しい肉に。


 その後、ツノありの大雷鳥も出たのだがディーンが丸焦げにしたので持ち帰れず。


「うーん、火は威力はあんだけど素材がなあ。普段は魔力込めねぇで、いざって時だな。強敵に立ち向かう機会を目指して練習はすっけど――王狼、格好よかったなあ」


 剣の練習をするというか、ディノッソの剣の使い方を真似る練習始めそうだぞ、こいつ。子供がヒーローの技のモーション真似るみたいな何か。


「私のこの剣は、洞窟や迷宮での光源に良さそうだね。敵に目くらましとして使うには、自分も目を閉じて敵から目を離すことになるからなかなか難しい。レイスやアンデッドに効くかは未知だけど、ロマンだね!」

癖のある剣を贈ってしまったと思ったが、ロマンなのか。


 一回ずつ魔物相手に精霊剣を試した後は、思う存分コンコンしろってことでコンコンしてます。


「お?」

ガサガサと木の根元の落ち葉をかき分けていたらキノコ発見。


「リーユか。そういえば季節だな」

「ああ、前にキノコもらった時、次に採ってくるって言ってたやつ?」

【鑑定】結果はアミガサダケの仲間だそうだ。


「そそ。こいつも美味しいぞ、生では食えねぇけど」

ディーンがそう教えてくれたけど、むしろキノコの生食文化に慣れない俺だ。


「似たキノコにエルプというのがあるけど、そっちは香りがイマイチで値段も安い。こっちは高く売れるぞ」

レッツェがガサガサやって、新しいリーユを見つけながら。


 なるほど、ちょっと他より盛り上がってる落ち葉のところをガサガサすればいいのか。レッツェの探し方を参考にガサガサ。


 リーユは蜂の巣のような網目模様の傘で中が空洞、傘と柄がくっついているというか、中心から傘が出てるんじゃなくってそのまま外側が伸びて傘になってるかんじ。エルプは柄の中心から傘が広がっている。 


 エクス棒でコンコンじゃなくガサガサして、リーユを探す。途中飛び出してきたガマガエルの魔物をドスッとやりつつ、結構な収穫。


「エクス棒便利だな」

「いいだろう?」

座り込んでがさがさしなくて済むし、魔物が飛び出してきても対応可能!


 リーユを山ほどと子鹿を抱えて戻る。


「なるほど、そういえば季節でございました」

執事がお茶を沸かして待っていてくれた。


「あらあら、大収穫ね〜」


 帰ったら俺がリーユのクリームパスタを作って、シヴァが山鶉のパイ包みを作ってくれることになった。


 全員で食卓を囲みたいところだが、生憎そんな広さはないので、できたら取りに来てもらうことに。


 もう二階の客室潰して、食堂みたいにしちゃおうかな? どうせ泊まりに来るやついないし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る