第157話 エクス棒
「だから何で伸びる?」
エンとバクの武器を見て、まだ納得していない様子のディーン。
「早々に諦めた方が楽でございます」
執事! 納得と諦めじゃだいぶ心証が違うから!
「俺の剣の効果は王狼の劣化版つーか、俺の魔力が足りないんだろうなこれ」
ディーンは斬るというよりは殴るなので、ディノッソの剣も分厚いけどさらに輪をかけて重量感のある大剣にしてある。
大きさの対比もあるだろうけど、あふれた火はディノッソに比べたらちょっと貧弱。
「ふふ! 私のこの華麗な剣を見てくれたまえ!」
クリスのレイピアは振るうたびに光がキラキラと飛び散る。
「ぐあああああっ」
「うおおおっ!」
予想ができたんで、俺はアッシュを背に腕で目を覆っていたのでノーダメージ。
地面に転がっているのは剣を振るっていたクリスとディーン。子どもたちはディノッソとシヴァにしっかり庇われている。
「火と違い、方向性を持たせられないのは不便ですな」
執事は言わずもがなの涼しい顔。
「感謝する。む、私の番か」
地面でごろごろする二人をスルーするアッシュ。
まあ、俺が家でやらかした焼けるような白い光ほど強くないし大丈夫だろう。でも念の為、後でそっと【治癒】かけとくか。
アッシュが進み出て、剣を振るう。
ボンキュッボンには程遠いけど、キュっとはしたなキュッとは。夏向けの服を渡したら、今までの服を預かってサイズ直ししよう。
刀身を薄く覆った水が飛び、鋭利な刃物のように近くの枝を落とした。
「少しブレた。練習が必要のようだ」
剣を納めて怖い顔のアッシュ、水の刃の軌道が気に入らなかった模様。
「遠距離攻撃っていいよな。しかも素材が損なわれねぇ」
そういえばディノッソの火は素材を台無しにする可能性、ディーンのもだけど。
戦うには燃焼ダメージもあるし、火の方がいいんだろうけど。
「さて、俺か」
レッツェの剣がやる気を見せて、わさわさ緑のツルが出てきた。
「いや、待て。ディーンとクリスから吸おうとするのはやめろ」
伸びたツルが目頭を押さえて座り込んでいた二人にわさわさし始めたのをレッツェが止める。
「その……、剣を振るう必要はないのか」
「ないみてぇだな」
怪訝そうに聞くアッシュに答えるレッツェ。
「気配なく忍び寄る植物のツルですか。なかなか便利そうですな」
「発動は俺の意思だけど、その後はけっこう好き勝手するぞこいつ。俺が魔力を自分で使えねぇからかもしれんけど」
音もなくするすると戻ってきたツルがレッツェの腕に絡みついている。
「よく懐いてるっぽい?」
「ちゃんと水やりしてるからな」
レッツェなら甲斐甲斐しく世話を焼いてそうだ、植木鉢に刺さった剣に。
「最後は俺か」
さて、進み出てはみたもののどうするかな?
「何だ? それもジーンが作ったのか?」
復活したディーンが聞いてくる。
「枝にみえるけれど、削り出したのかね?」
クリスがまじまじとエクス棒を見る。
「ずいぶん整った枝だとは思うが……、削ったようには見えない」
アッシュが言う。
「ふっふっふっ。ただの棒じゃないのだよ、エクス棒!」
「おう! ご主人! 俺はコンコン棒EX! 愛称はエクス棒だ! ただの棒でもいいぜ!」
ただの棒でもいいのか、さすがアイデンティティ。
棒の先から現れたエクス棒に固まる何人か。知ってる三人は顔をそらしてたり、口元を覆ってため息を飲み込んでたりする気配。
「精霊憑きの棒――変わっているな」
アッシュは通常運転。
「わー! 可愛い!」
「精霊だ、精霊!」
「こんなにはっきり初めて見た!」
子どもたちは驚きに目を丸くしていたけど、すぐにわいわい集まってきた。
「おう! 俺様は強いぜぇ!」
えっへんと腕組するエクス棒。
「ノート、エクス棒持ってるから斬ってくれるか?」
「…………エクス棒を、ですか?」
「うん」
「……」
笑顔で固まって動かない執事。
「私が代わるわ。判断に迷うなんて、ノートにしては珍しいわね」
「いや、え? やるのか?」
「あなたもおかしいわよ? ジーンに斬りつけるわけじゃないんだから」
挙動不審なディノッソに不思議そうなシヴァ。
目をそらしているレッツェ。
「さあこい!」
「えい!」
「ああああ……っ」
多分本気ではないのだろう、ずいぶん軽い掛け声と一緒に剣をまっすぐ振り下ろすシヴァ。そして誰かから上がった野太い悲鳴。
「……っ! しびしびする」
エクス棒は傷一つないけど、支えていた俺の手が肘のあたりまで痺れた。
「まあ!」
「心臓に悪うございます」
驚くシヴァに胸のあたりを押さえている執事、座り込んでいるディノッソ、呆れた顔をしているレッツェ。
「こんなかで一番切れ味良さそうな剣なのに、すげぇなおい!」
「ああ。良かった、ディノッソの大剣じゃなくって」
これ以上の
「知らないって幸せだな……」
レッツェがなんかつぶやいた。
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