第156話 剣のお試し披露
「ルタ、よろしく」
本日は森で精霊剣のお試し。あまり街に近いところや、冒険者がよくいるところでやるわけにもいかず、馬で適当な場所に移動するのだ。
気候が良くなってきたので、アッシュとの昼食会と遠乗りを兼ねて外でお弁当ということも何度か。乗馬はちょっと上達したような気がするけど、基本はやっぱりルタ任せだ。
「相変わらずだね、ルタは!」
クリスの言うようにルタは毎回俺の気配を感じて、馬房を破ったり、柵を乗り越えて俺が受付に挨拶を終える前にやってくる。
ルタを預けている金に、最近また修繕料を上乗せした。
「いい日和だ」
アッシュが嬉しそう、あんまり表情が変わらないけど馬に乗るのは好きなようだ。
木々に埋もれた
特にどこまで行くとは決めていなかったので、適当なひらけた場所で馬から降りた。ちょっと休憩してからお試し。
「ルタ、魔物は少ないみたいだけど、出ないわけじゃないから気をつけてな」
ぶるるっと軽く鼻を鳴らして顔をよせてくるルタ。
汗を拭いてやって、水を飲ませ、塩分補給用の岩塩設置。
「相変わらず甘やかしてやがるな」
馬の世話を終えたディノッソが呆れたように言う。
「うむ。そのうち蹄鉄も作るようになるのではないかと思っている」
アッシュまで同意した。
「普通だろう」
ルタが同意するように上唇と鼻先にしわを寄せ、歯を見せる。顔をもたげて笑っているような表情。
「あー。普通の馬だったらなんか臭うのかと思うとこだが、コイツは完全に笑ってやがるな」
ディーンが半眼でいう。馬のこれは普通、猫のフレーメン反応とおなじものだ。
「相思相愛でいいこった」
自分の馬の手入れを終えて、焚き火の準備のためか石を拾い始めたレッツェ。
「薪、拾ってくる」
お仕事しなくちゃね。
「私、お水汲んでくる!」
「おしっこ!」
「お……、いたっ!」
双子がティナにゲンコツを食らっている。一緒に行動せずに散ってゆくのはトイレタイムだからだ。さすがに子どもたちにはディノッソかシヴァがついてってるけど、この辺りの魔物は強くない。
俺もトイレを済ませ、エクス棒で草や
戻った時にはすでに火をつけるばかりになっていた。焚き木がそこそこ集まったところで着火。火打ち石で一発で火種を作れるレッツェってすごいと思う。
執事は野外だというのに相変わらず優雅にお茶の用意。道具は外用で繊細とは程遠いのに、こっちもさすがだ。
こっちはあまり水をそのまま飲むということがない。水筒は持ってきてるけど、中身は度数の低いアルコールなことがほとんど。
火が熾せるなら白湯かお茶を飲むかである。お茶はピンキリ、レッツェが前に現地で採取したよくわからん草の茶はスースーして泥臭くて勘弁していただきたかった思い出。体を温めるのにいいらしいんだが、まずいものはまずいのだ。
「さてじゃあやるか。俺からでいいか?」
水分補給と休憩が済んだところで、ディノッソが立ち上がって言う。期待に満ちてキラキラして頷いてるディーンが若干気持ち悪いが、だんだん慣れてきた。
全体的に黒、剣の先と装飾が施されたガード――日本刀でいう
ディノッソが剣を軽く振り、大気を斬り分けるたび刀身から炎がこぼれる。
「はっ!」
ディノッソが魔力をこめたらしく、手元から刀身へ伸び上がるような炎と、円のように広がる炎。
「おお! 格好いい」
「派手だなおい」
「美しい!」
ディーン、レッツェ、クリスの3人がそれぞれの言葉で賛辞を送る。
「お父さん格好いい〜!」
「かっこいい〜〜!」
「かっこい〜!」
「お父さんはカッコイイのよん」
剣を肩に担いで、上機嫌でおどけて子どもたちにウィンクをかますディノッソ。
「あらあら、嬉しそうね。お母さんのはこんな感じだわ」
ディノッソは一人稽古のように剣を振るったが、シヴァはその場で振り下ろしただけ。
振るったのは氷属性の優美だが鋭く尖った剣。白い刀身からこちらも氷の粉がこぼれ、キラキラと輝く。
そのまま魔力を入れたらしく、刀身から冷気が吹き出し、薄い氷が現れてすぐに割れる。割れた欠片は薄く鋭い氷の刃。
シヴァがほんわかした笑顔なままなところがまた。
シヴァのもう一振りと執事の剣は能力のお披露目なし。
「ノートもパスなのか?」
「暗器でございますので。効果を披露するにはそぐわないかと」
ディーンの言葉にさらりと答える執事。
そうだな、暗器って武器ごと能力ごと隠しておくものだな。存在と効果が周囲に知れてちゃ価値が半減する。
あれ? シヴァのもう片方も暗器扱いなのか……。確かにエナジードレインというか、レイスにも効くから精気を奪い取るんじゃなくって、運動エネルギーを奪い取る? よくわからんけど精神体にダメージ与える系の剣だ。
執事とディーンのやりとりを見ていた笑顔のシヴァと目があって、ちょっと明後日な方を向く俺の姿。
「次、私!」
ティナが広いところに進み出る。
「えーい!」
両手でハンマーを振りかぶるとドーンと大きくなって振り下ろす時には、小柄とはいえ持っているティナより大きいくらい。振り下ろされたヘッド部分が地面をへこませたところで大きさが元に戻る。
「何故膨らむ。いったいどういう理屈だあれ?」
「知らん!」
「ぶっ! おい、製造者!」
レッツェに答えたらディーンが吹き出した。
「可愛らしいと思う」
「私も同意するよ!」
アッシュとクリス。
「ずれてる、感想がずれてる!」
ディーンがうるさい。
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