第155話 青色

「おお。着々と集まってるな」

島では納屋に着々と材木などが運び込まれ、積み上げられていっている。


「この他、雨ざらしになっていいものは現場近くに運んでもらっております」

金銀の説明を聞きつつ見て回る。


 まだ石を加工したり、材木を加工したりの下準備のほうが多いので、目に見えて進んでいるようには見えないけど、崩れた壁などは撤去され元々あった城塞の船の発着場の修繕が始まっている。


 島の桟橋も直したけど、重いものとかは直接入れられた方が楽だし。無事な壁や床は整えて利用する方向なので、一から作るよりは期間は短いはず。日当は低めにして、出来高報酬は高めにしてる、早くきれいに作ってくれたら職人も儲かるので頑張って欲しい。


「住民には予定の場所に石積みを作らせている」


 島は山というか大部分が白い石灰岩の崖みたいな場所が多い。そこに火山灰が降り積もってできた土が乗ってる感じ。平らな場所が少ないので、土留めに石垣を作って斜面を崩して平地を作ってもらってる。


 木はほとんどないから腐葉土は期待できないけど、栄養はあるし水はけがいい。道理でこのへん葡萄畑が多いはずだよ。でも、最低限の自給自足はできるようにしたいので、頑張って土地の改造をしよう。


 家から見た風景的にもおっきな木が欲しいし。


「ところで、十番納屋に入っているあの大量のガラスは……?

「ああ、窓用に。赤い布がついてるのは指定場所に使ってくれ」

一応、ガラスの入っている納屋には鍵をかけてある。


「あの大きさ、歪みの少なさ。恐ろしい金がかかってそうだな」

「いったいどのような資本をお持ちなのでしょうか……」

頑張って作ったんですよ。


「金をかけるのはいいが、こっちの夏はこれでもかというほど暑いぞ?」

「それは大丈夫」

銀の言う通り、こっちの建物の窓は小さめで、戸付き。陽の光を入れるというより、換気のためについてるっぽい。大きなガラスが作れないのもあるんだろうけど。


 でも出来上がったガラスは断熱効果の付与がすごいので。あと、ヴァンに手伝ってもらったものに至っては、断熱に加えて石壁より丈夫という反則的なガラスになっている。目印に赤い布をつけているのはヴァンのガラスだ。


 家に温室を作ることを考えてたのにダメっぽい。いや、中に暖炉をつければ暖かいままなのか? 後で考えよう。どちらにしろこの島の方では暖かいので温室は必要がない。


「予定より捗ってるし、職人も多いな」

「後で賊などに図面が渡らぬよう、区画ごとに作業を割り振る予定です」

「引き渡し後に、格子をつけて通路を塞いだりな」

いや、そこまで厳重にしなくていいんですが。


「ありがとう、これ報酬」

さすが忍び込む側の本職だなと思いつつ、お金とお菓子袋を渡す。


 相変わらず銀色は金袋に見向きもせずにお菓子袋をさっと確保。本日のお菓子はゴマのスティックパイ。


「この菓子を二倍に増やすことは可能ですか?」

金色がちょっと困惑気味に微笑んで言ってくる。


「なんだ? 食い過ぎは太るぞ?」

菓子で飯を済ますのは反対です。


「一つ分けたら、アウロも味がしたそうだ」

「良いものかそうでないのかまだ判別がつきませんが、興味深い。私の分の報酬を少々下げていただいても構いません」

「俺の分も同じだけ下げていい」


 ああ、二人分か。いや、そもそも今までも二人分のつもりで渡してたんだけどな。うすうす銀色が独占してるのはわかってたけど。


「それくらいなら別にいいけど」

肩掛けカバンに手を突っ込んで、菓子袋を取り出す。


「二袋あるから一袋は島の子どもたちに分けて」


 今のところ色々早まりそうなことを除いては計画通りいっている、いいことだ。


「これからどうするんだ?」

「ナルアディードに戻って、ちょっとそぞろ歩いてから戻る。生地を少し買いたいな」

夏用の服を作りたい。


「ついてゆく」

なぜか銀色がついてくるといい、船頭の手配。まあ、村の老人なんだけど。


「少々自分の食い意地を抑えられるか自信がない」

おい。大人!


 どうやら子どもたちに配る菓子袋の誘惑に打ち勝つためだったらしい。金色もすごく微妙な顔してるぞ、おい。


 銀色とナルアディードを歩く。しょうがなくのはずだったが、既にナルアディードの隅々まで把握しているっぽくて、案内に抜けがない。


 優秀だな。なんか、精霊付きの誰かが焼いたクッキーですぐ買収されそうだけど。

 

 今の流行りはドレスと靴の素材、宝飾品、食い物。なんかどっかの勇者がご所望だそうで、周辺の国々もご機嫌とりで取り寄せてるらしい。


 そう言うわけで珍しい布やレースは天井知らずの値がついていたけど、普通の布はソコソコの値段で種類が多かった。


「こっちの青ってくすんでるな」

「鮮やかな青は精霊憑き染色師しか出せません。鮮やかな染料に心当たりがあるのならば、ひと財産ができるかと」

銀色が人前では言葉遣いがおとなしい上、俺の荷物を持つという態度の変わりよう。


「そうなのか?」

「絵画の青を出すラピスラズリは金より高価ですし、青をまとう絵の中の人物はほとんどが貴人です。鮮やかな青の服は憧れられますが、絵画に使う青は鉱石が故に布の染料には使えませんし、染められる染色師も少ないので余計ですね」


 精霊憑きの染色師が染めると今のくすんだ青も、絵画の中のような発色のいい青になるそうで、むちゃくちゃ高価なのだそうだ。


 しかもその染色師を教会が囲ってたりする。各精霊を表す色があって、その色にこだわってるんだそうな。だいたい教会のお偉いさんの服に使う生地を専属で染色してることが多く、ますます世間には出回らないらしい。


「いや、普通に藍が売ってるのを見かけたんだが」


 はい、固形にされた藍を鉱物だって思い込んでることが判明。服の染料として使おうという方向には全く思いいたらなかったようです。固形にされてかちかちなのは輸送に便利だからだと思うぞ?


「藍を広めたらその染色師の収入に響くか」

「いえ。その藍とやらで精霊憑きの染色師が染めれば、もう一段良いものができるのは確実ですので」

なるほど。


 でもなんか教会とか組織が絡んでくると面倒そうだな。冒険者や貴族には鮮やかな色が許されてるし、平気かな? 平民に許されてないというのは建前で、高いから買えないが正しい気もするけど。


 それにしても思い込みって怖いね! というか、何に使うのか調べてから輸入しろよ。じゃがいもも観賞用の花の認識がまだ強いし。

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