第153話 お手入れ

 昨日は夕飯が控えていたので飲みすぎることもなく解散。家族そのほかからこの集まりを叱られないように、おかずとお菓子の手土産を押し付けて送り出した。


 こっちは明日の方が雨がひどくなりそうな気配なので、おかず多めで。その後片付けをして、家に【転移】。


 夕飯はちょっと色々食べてしまったので、秋鯖あきさばの切り身を焼いて焼き鯖茶漬け。茶漬けといいつつ注ぐのは出汁で、ゴマ・三つ葉・刻み海苔をたっぷりと。鯖をほぐしながら食べる。


 直ぐに血抜きして塩と酒で下処理をしたので臭みはなく、脂ののった鯖に三つ葉がさわやか。


 あご出汁も欲しいな。トビウオどこかに売っているだろうか? 日本のトビウオと同じ種類なのかどうかという問題もあるけど。


 カヌムの水はミネラルが邪魔して昆布とかのうまみ成分がほとんど染み出さない。代わりに肉や魚介類と、野菜などにじっくりと火を入れてつくるブイヨンにはカヌムの硬水が向いてる。


 やっぱり土地にあった料理が美味しいな。うちは軟水なんで日本料理、暖炉で煮込む系はカヌムの森で汲んでくるのが正解かな。


 鯖茶漬けを食べ終えて、エクス棒をガジガジしていたリシュと遊ぶ。外に出ているときはテンションが高いエクス棒だが、燃費が悪いのかネジが切れたように反応がない。一回、よだれ垂らしたまま出てきたことがあったので、多分爆睡してるんだろう。


 明日、晴れたら森に行きたいけど、カヌムは夕方雨が強くなってた。こっちはもう上がったけど、山脈一つ向こうなんで天気はだいぶ違う。


 精霊に名前をつける作業をして、読書。最近ちょっとバタバタしてたんで今日は1日ゆっくり過ごした。午前中寝たにも関わらず、いつもの時間に眠くなって布団にはいる。


 朝はリシュと散歩、エクス棒はリシュが咥えて運んでいる。昨日は俺があちこちつつきながら歩いたので交代だ。


 野生のプルーンが長い棘の中に白い花を咲かせている。小川のそばには水仙の群生が満開、いい匂い。


「リシュ、水仙は毒だから食うなよ?」

エクス棒を咥えているのでうまく匂いを嗅げずにいるリシュに念の為注意する。


 で、最近サボってたんで森と畑の手入れです。やっぱりカヌムは雨っぷり、あっちの森はお預けだ。


 木に絡んだツタを払い、地面に陽が届くように枝を払う。邪魔な木を切ったり、逆に山なんで土が流れないように木を植える。作業的には地味なのだが、陽の光が好きな精霊が木のウロから外に出て飛び回ったりして楽しい。


 切り出した木は適当に短くして薪用に乾かす。ツタはカゴの材料になるので【収納】、暇な時に使いやすいように整えよう。


 午後は畑。


 じゃがいもを植えるために畑を耕す。柔らかい土が好きとのことなので念入りに。次に植える苗を育てるための種まき、これは畑に直じゃなくて別な素焼きのポッドに。


 ブロッコリーももう終わりだが、いくつかはタネを取るために花を咲かせている。菜の花みたいな黄色い花がちらちらと。収穫した方の残りの葉っぱ部分は家畜たちに与える。


 飼っていると鶏の尻とか可愛く見える。


 家畜の世話をして、小屋の掃除と藁の交換。家畜の糞は肥料にできるけど、半分広い場所で放し飼いなので家畜小屋内のもの以外は、家から離れてるし大自然に任せている。なお、臭ううちは発酵しきっていない証拠なので、肥料としてはダメ。


 家畜の寝床の藁と枯れ草と枯れ葉を集めて置いたものを混ぜる。ぬかを入れてあるので、そのうちいい肥料になるだろう。結構重労働だけど、身体能力様様だ。


 あらかた終えたところで、その辺に生えていたヒナゲシとタンポポの葉を採取。花が咲いてしまうと硬くなるけど、今頃の葉は柔らかくてこちらではよく料理に使われる。


 チコリに改造……じゃない、改良中の野菜をぶちっと。俺の知ってるチコリは白菜みたいに薄黄色なのだが、これはとても葉緑体満載の緑色、大きさも手のひらくらいしかなくって、葉も巻きかけなので中途半端に開いて緑のバラが地面に散らばってる感じ。


 持ち帰った野草は今日の夕飯。野性味溢れるサラダには、ゆで卵とチーズをざく切りにして散らして、それにラムチョップを二本。スープとパンをつけて完成。


 今の季節に美味しい草を食べて育った子羊がスプリングラムと呼ばれて美味しい。小さいと脂身が少なくてパサついてイマイチなこともある、大きいとちょっと育ちすぎで成獣よりの味に。


 そういうわけで食料庫のラムは中くらいのサイズのお肉。


 手づかみでがぶっとやって噛みちぎる。仔羊の骨付きロース、大きくなった羊より臭みも癖もない。骨がついてるとより肉を食ってる! って気になるよね。


 リシュにも骨つき肉と水。俺はデザートにカラメルソースをちょい苦めにした焼きプリン。


 さて、明日は天気がよければ魔の森に行って、エクス棒と遊ぶ。そのあとはナルアディードの島に顔を出して、進捗を見てこよう。


 そろそろ大工や石工の職人たちも集まり出して、建材もちょっとづつ届いている頃合い。森の聖域用に多めに頼んだ建材があるので、それが届いてるかも確認しないと。


 建材や家具の素材を買うのは目立ってしょうがないので、今のうちに色々発注して【収納】しておこうという魂胆なのだ。


 まあ、島に家さえ建ってしまえばそこに届けるようにはできるんだけど。色々買っても変じゃないくらいには土地も家も広いし。ナルアディードでは手に入らないものはないとまで言われてる、色々買い物を楽しもう。


 輸送の時間がかかるのが難点だけど、人目を気にせず済んで嬉しい。

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