第152話 枝のある国

「だいたい流れはわかった」

ため息をつきそうな顔でコーヒーを一口飲むディノッソ。


「わかってもらえたか」

「流れはな!? 前提がおかしいからな!?」


「まあ、ジーンは望んだモノを手に入れただけっちゃだけだな」

「うん」

そうです、レッツェの言うとおりです。


「何でそれを望んだとか、途中で変だと思わなかったのかとかいろいろツッコミどころはあるがな」

肯定しておいてすぐ落とすのやめろ。


「流れがわかったとこで、俺から二つ質問」

ディノッソが指を二本立てる。


「うん?」

「カダルって?」

「俺の守護精霊」

ディノッソが頭を抱える。


「まさか秩序の精霊じゃねぇよなって、聞きたいけど怖くて聞けねぇ……」

なんか小声でブツブツ言ってる。


「そのカダルであってる」

「トドメ刺してくんのやめて!?」

がばっと顔を上げて叫ぶディノッソ。


「二個目は?」

「何で名前がコンコン棒EX!? 絶対厳かな雰囲気だったろう!?」

なんかやけくそっぽいな。


「いやもう、コンコン棒を手にいれるのに精一杯で。お陰様で理想の棒が手に入りました」

「誰のお陰だ!? まさか俺たちじゃねぇよな?」

「そろそろノートが戻ってこれなくなるからやめてやれ」

レッツェの言葉に執事を見たら、机に突っ伏していた。執事にあるまじき姿。


 王の枝は誓った、あるいは願った理想のために精霊を選別する。軍事的に強いことを願えば、火や鉱物の精霊が多くなるし、実り豊かな国を願えば大地の精霊が多くなる。そして人が揃って思うのは黒い精霊がいないこと。


 黒い精霊は普通の精霊が変わるものなので、全くいないってことはないけど、だいたい逃げ出してく。ついでに黒い精霊が撒き散らす細かいのも浄化されるそうだ。


 結果、人間が街で魔物化する率が格段に低くなり、魔物も狂乱している時はともかく、好んでは近づかないらしい。


 精霊の枝はその劣化版、枝から精霊が生まれることはないけど、精霊がたくさんつどえば生まれるものなので、うまくやれば王都よりも繁栄することも。


 精霊の枝のない『精霊の枝』は、精霊憑きの人間が頑張って擬似的にその効果を出している。管理している人間の能力に左右され、魔石を消費するので維持費が大変。


 ついでに魔物に対して効果がイマイチらしく、対処が壁を作ったり、兵を配備したりとこちらも人力だ。まあ、辺境は氾濫があると一番先に当たる場所なんで、どこも壁はつくってるけど。


 王の枝を持っていることが確定しているのは姉のいるシュルムトゥス、俺がバスタブや大工の皆さんにお世話になってるパスツール、ナルアディードの本国でカヴィル半島にあるマリナ。


 多分持ってるだろうと噂されてるのが、北の民族の地と、シュルムと滅びの国に挟まれた海の上にある島国イスウェール。


「結構持ってるとこあるな」

「中原の帝国が崩れてからは、民族同士で争ってたりすっから効果範囲が狭いんだよ。それぞれ理想が違うから、精霊の枝を渡しても弱体化するだけだし」

ああ、少ないのは精霊の枝か。


 確かに四センチボディで理想がクリアできるなら、一回もらったら王の枝のほうは長持ちしそう。


「多いっつっても十に満たないからな? 中原だけでも300カ国以上はあるからな?」

ディノッソが釘を刺してくる。


 そうなんです、こっちの国は日本の市より小さいような場所の領主が国だっていいはってたりするんでむちゃくちゃ国が多いんです。枝持ってる国も県くらいの大きさのとこがあるし、分割されまくり。


 特に中原は国が興ったと思ったらすぐ征服されて消えてたりで、名前を覚える気が全く起こらない。 


「だいたい理解した気がするけど、特にその効果はいらないなぁ」

「ご主人自身が精霊ホイホイだし、魔物も問題ないし。一応、偏りなく精霊は呼べるけど、オレはご主人の願い通りコンコンするぜ!」


「あ〜。それが平和でいいだろうな、出自はバラすなよ?」

レッツェが頬杖をついて気の無い言葉を吐く。


「王の枝の多くは宮殿の奥深くに納められ、様々な魔石で飾られてございますのに……」

ちょっと復活した執事。


 かぐや姫が求婚者に取りに行かせた蓬莱ほうらいの玉の枝みたいだなおい。


「オレは外の方がいいな! でも魔石は大歓迎だぜ!」

「じゃあ頑張って魔物つつこうか」

「魔物もそれでつつく気かよ!」


 ディノッソがしばらく騒がしかったが、ようやく落ち着いた。


「難しい話が終わったところで、酒とツマミだ」

本日は氷があるのでハイボールやロックも作れるけど、トランプをするのでまずは飲み慣れてるワイン。


 ツマミはニシンの酢漬けとオリーブの実、窯で焼いた芽キャベツ、チーズと生ハム、スモークサーモンとチーズ、厚焼き卵、牡蠣のスモークのオイル漬け、ミニトマトとモッツァレラチーズ――それぞれを串で刺したピンチョス。


 手が汚れないし、好き嫌いを見るのに便利。食べ慣れないものだしまくってるから、口に合うかやっぱりちょっと心配なのだ。


「あんまり食ってくと子どもらに羨ましがられて叱られるんだよなあ」

ディノッソがぼやきながらも一番に手を出す。


「ああ、パウンドケーキ土産に持ってくか?」

「頼む! うを、ぴりっとくるな」

青唐辛子の酢漬けとアンチョビとオリーブの実のピンチョスを食べたようだ。


 ディノッソは俺の出すものは何でも口にするかんじ。レッツェは火が通ってそうなものを選び、他のものについてはけっこうおっかなびっくり。執事は人が食べた様子を見てということが多い。


「あーくそっ! 5を止めてるの誰だよ?」

「ほっほっ。こちらはエースまで到達しましたので、キングからですな」

「え〜! 慣れるの早いよ!」

「単純なルールだからな」


 七並べなんだが、エースかキングまで到達した列は、7から順番ではなくエースかキングから並べだすことに変わるルールでやっている。10を止めてたら、エースまでいっちゃったよ。


 エクス棒はポテトチップスをむさぼり食べたら、寝る! と一言残してただの棒になった。上の方がテカテカしてたのでおしぼりで拭いてたら、なんか執事が切なそうでした。

 

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