第151話 試練の内容

「なんかノートが酷そうなんだが……」

ずっと床に座り込んでるのもなんなので椅子に移動したのだが、執事が机に肘をつき手に額を乗せて俯いている。


「こんなかで一番王家に近いというか、国のドロドロに片足突っ込んでるからな」

ディノッソが執事を同情の眼差しで見る。


「過去、王の枝を巡っては――いえ何でもありません」

俯いたまま何かいいかけて黙る執事。


「俺の認識だと王の枝の伝承は、荒れた国や疲弊した人々を憂えた英雄が、精霊の導きによって、霧の湖を目指し、試練を超え、精霊の木に理想を立てて枝を願う、っつーんだけど。ジーンはまずどうやってその場所にたどり着いたんだ?」

コーヒーカップを手にレッツェが聞いてくる。


 ここにいる三人は無事、コーヒーに慣れた。アッシュはカフェオレやラテ系なら飲んでくれる。


「カダルに、この世界で一番硬い木の枝ってどのくらい硬いのか聞いたら教えてくれた」

「精霊の導きの手順は踏んでるけど、目的が違うだろ。その目的で試練クリアはおかしくねぇ?」

「普通に進んで普通に着いたんだからしょうがないだろ」

机に立て掛けたエクス棒にポテトチップスをやる。


 エクス棒は精霊のくせにジャンクフード系やスナック菓子が好きな模様。


「……先代に出た王命で、若い頃王の枝を探しに出たことがありました」

「え」

執事の突然の告白。


「精霊の導きを得た、理想に燃える若者の護衛でございます」

「その若者が王様?」

「いえ。その若者は旅に出る財力も、国を治める知識もなく、あったのは理想だけ。その理想に沿う王を選んだのでございます」


「枝を渡された王が、枝を得た者が精霊の木に誓った理想を守ればいいんだよ。守らなかった場合は枝が消えるだけだ」

レッツェが説明してくれる。


 確かに寒さに弱い人はたどり着けないだろうし、王の資格が物理的な強さで左右されてしまうことになる。


「なるほど、だから王になり、王を見出す資格を得た者なのか」

コンコン棒の木に最後に言われたことを思い出す。


「おい、ちゃんと伝えられてるじゃねぇかよ」

「いや、突然王とか出てきて、何の王なのかと思ってた。穴をつつく選手権の王者とか」

「そんなわけあるか!」

ディノッソがツッコミを入れてくる。


「まあ、王はたとえ本人が凡庸でも周囲の人を使うのが上手ければいいってわけだ。で、枝は手に入れられたのか? そんな話は聞こえてこねぇけど」

レッツェが執事の話の続きを促す。


「いいえ、国は枝を手にいれることは叶いませんでした。そして、二度と行けますまい。まず導きの場所は年を通して気温が低く、食料や暖をとるための薪のことを考えますとどうしても【収納】持ちが必要になります」

「ああ、ここに来てエンの捜索を再開したのはそれが目当てか。シュルムの勇者召喚に他の国動きが活発になってる、対抗して王の枝を手にいれるつもりなのかもしれねぇな」

ディノッソが言う。


 【転移】と【収納】持ちの俺はバレたらやばい。


「その後、ようやく白い森にたどりつきましたが、次に毒の霧に行く手を遮られ、その中で強力な魔物と戦うことを強いられました。何人かの仲間が亡くなり、そこで若者は理想を投げ出したのでしょう。気づけば凍えてはいるものの普通の森の中でした」


「精霊の木を目指さないならネタバラシしてやってもいいぜぇ?」

ポテトチップをパリパリやりながらエクス棒が言う。


 三人が目指すつもりはないと答えたのでエクス棒によるネタバラシ。


「基本、これを知ってるやつが一人でもいたら白い森は現れないからそのつもりでな。まず、森じゃあ弱いもの、自分とは違うものを守るかどうか試されてる。切り捨てたものの数だけ、霧の中に特別な魔物が現れるんだぜ?」

笑いながらエクス棒が言う。


「次に試されるのは欲、食料だったり薬だったり――必要な何かを手にいれるために他者から奪うか。これも霧の中の環境に反映されるんだ」

「なるほど、他者に優しくなけりゃいけないのか」


「いいや? 弱いものを捨てて奪ってその上で全部倒して進んでもいいのさ。気に入ったやつならともかく、精霊は人の生き死になんか気にしないぜ!」

ディノッソが納得しかけたが、すぐにエクス棒が否定した。


 なかなか世知辛いかんじなんですけど。


「試練の過程は国のあり方をみるかんじなんだ。それで贈る枝の属性つーか、枝に寄ってきたり、そばで生まれやすい精霊が決まるんだよ」


「なるほど、我々は白い木を壊しすぎ、そこに住む精霊を見捨てた、それで倒すべき魔物の数が増えたのですね。確かに国の運営も切り捨てた分、敵も増えますな」

執事が少し納得した顔。


「まあ、白い木を壊さねぇで進むって、難易度高くて普通は無理だと思うけど。人数多いと攻撃を避けるだけで触っちゃうだろうし」

ちらっと俺を見るエクス棒。


「ユニコーンはあれか、魔物と戦って疲弊していれば、薬は欲しいだろうし、飢えていれば食料もいる。その時、他から奪うか、味方に我慢を強いるか。ちゃんと選んで進めるか試してたのか」

俺は選びもせず眺めてただけだが。


「うん。その点ジーンは弱い者を傷つけず、その上で白い森の魔物は殲滅してたし、準備万端で薬も肉も必要としなかったんだぜ! 強くて備えが完璧! しかもなんか快適! さすがオレのご主人!」


「なんか快適って……。で? ジーンは精霊の木に理想聞かれてなんて答えたんだ?」

ディノッソが聞いてきたのだが、言わなきゃダメかこれ? ここまでの話でさすがにあの答えはないわなって反省したんだけど。


 みんなの視線が俺に集まる。言わなきゃダメな流れ!


「直径四センチくらい、長さは三メートルちょいで、固くて折れないヤツ」

エクス棒に目をやって、三人の顔を見ないように言う俺。


「……」

「……」

「……」

黙る三人。


「そのエクス棒様はどうなさるおつもりでしょうか?」

「晴れたらとりあえずウサギ穴つつきに行こうかなって」

「やめて差し上げろ」

執事の質問に答えたら間髪入れずにディノッソが止めてきた。


「えー! 穴はロマンだよな!」

だがエクス棒も行く気満々。


「やばい、俺の中の歴代の英雄王がなんか棒でコンコン始めそう」

レッツェが額に手を当てた。


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