第150話 枝

「お前の武器が決まったって?」

「うん」

三人がほぼ同時にやってきて、階段を上がりながらディノッソが聞いてくる。


「ここで出すなよ? 階段落ちはごめんだ」

「部屋に入ってからにいたしましょう」

レッツェと執事が驚くの前提なのだが……。


 階段を上がりきって、三人と相対する。相変わらず微笑を浮かべている執事、腕を組んで口を引き締めているディノッソ、どこか諦めた様な顔をしているレッツェ。


「では」

もったいぶってエクス棒を取り出す俺。


「枝?」

「棒か」

「棒でございますか」

エクス棒は精霊の気配を消すと、四十センチくらいの先の方が枝分かれした棒で、枝に見えなくもない。緑黒色――字面の割に木の樹皮を指す場合はほんのり緑の明るい灰色だ――で滑らかな樹皮の白樫しらかしのような枝だ。


 普段は先に葉っぱの包みみたいな芽がついた状態で、こっちは俺でも普通の枝じゃないのがわかる。形状的に変だから。


「その辺で拾ってきたのか?」

拍子抜けした様な顔で聞いてくるディノッソ。


「違う。今紹介する」

手に入れるために寒さに耐えて、日数もそれなりにかかっている。


「紹介……?」

レッツェが眉をひそめると同時に、灰色だったのが白く色を変え、棒の先の細かい枝から葉が伸びて、くるくるとつぼみの様に枝の先を包む。


「おう! オレはコンコン棒EX! エクス棒って呼んでくれよな!」

ポンっと音がしそうな勢いで葉が開くと、いい笑顔のエクス棒が現れる。


「……」

「……」

「……」


「俺にも見えるし、声が聞こえるんだが……」

数秒の間の後、レッツェが声を絞り出す。


「おう! オレってば高位精霊だかんな!」

「俺が今まで打った剣では歯が立たない程度には固いんだ」

『斬全剣』なら斬れるかもしれないけど、そうするまでもなくコンコン棒の木からもらえた。


「私はノートと申します。エクス棒様でようございました……」

「俺はディノッソ。これなら変わっちゃいるが、命がけで狙ってくる物好きはいねぇだろ。ついでにジーンの腕力の理由になるしな」

ホッとした様子の二人。


「強い精霊でも大多数の人間が必要としない属性の存在もございますからな。ジーン様が喜ばれている様で何よりでございます」

「俺たちの心の平安のためにも末長くよろしく!」

「おう!」

元気よく答え、何故かガッツポーズを取るエクス棒。


「レッツェだ。ところでどこで出会ったか聞いていいか?」

レッツェが少し遅れて自己紹介。


「北東の凍った湖を越えて、鋭利に尖ったような頂きを持つ山の麓だな。白い森のなんか霧の先だ」

「ただの霧だったのはご主人くらいなもんだぜ?」

「ん?」


 首をかしげると、エクス棒がちょいちょいとこっちに顔を寄せろという仕草をしてくる。


 あの霧の場所は壊れやすい木を壊して、精霊が食われた数だけ強い魔物が出るそうです。あとユニコーンに何かしてると、足元が毒沼に変わったり毒霧に変わったりするそうだ。えげつない。


「おい、ノート!」

ディノッソが突然座り込んだノートに驚く。


「まさかお前、コンコン棒くれたのって、湖の中に生えて白く輝く木からだったりするのか?」

引きつった笑顔のレッツェ。


「ああ。金色で白く輝く花、いや白くて金色に輝く花が咲いてるやつ」

「ああもう、精霊の木じゃねぇかよ!!」

俺が答えたらレッツェが天井を見上げた。半泣きに見える。


「……王の枝」

床に踵をつけて並べた膝に額を押し付ける様にして座り込んだノートが声を絞り出す。


「待て、待て。冷静になれ、これが王の枝だったら困る!」

片手で顔を覆って言うディノッソ。顔が赤いんですが、なんでだ。


「王の枝?」

「おう! 試練を超えた奴に与えられる、オレは王が求める枝だ!」

王だからおう! なのか?


「……王の枝があると、そこに精霊が生まれやすく、集まりやすくなんだよ。勇者召喚やったシュルムトゥスが大国として揺るぎないのはそいつがあるせいだ」

レッツェが執事の隣に座り込む。


「あ〜。無茶な魔法使ってるって聞くのに精霊が移動しないのはそのせいか」

一つ納得する俺。


「ついでに申し上げますと、『精霊の枝』は今では少なくなっておりますが、正式には王の枝から小枝をもらいうけ、安置した場所でございます……」

床に近い場所から執事の声が上がってくる。


「小枝?」

「おう、伸びるぜ!」

葉の一部、葉柄ようへいだと思っていたのは細い枝だったらしくエクス棒の言葉と合わせて、そのうちのひと枝が伸びた。


 あれ、伸び縮みするのって便利だし俺の希望かと思ってたけど、もともとの能力? よく考えると確かに願ってないな。


「伝説じゃあ、自分が王になるためか、王のために枝を求めた者には問いかけがあるって話だが。なんて答えたんだ?」

ディノッソが聞いてくる。


「問いかけ?」

「精霊の木が問い、求める者が誓うのは理想、その理想を違えると王の枝は消えてしまうと言われます……」

膝に顔をつけたままのノートが補足してくれた。


「えーと。直径四センチくらい、長さは三メートルちょい。……短い方がいいとか思うと消えちゃうのか?」

不安になってエクス棒に問いかける。


「四センチボディ、キープしてるから大丈夫だぜ? でもたまには長くしろよな! 行動の方は今まで通りでいいんじゃね?」

笑顔のエクス棒。


 どうやらどれか一つ守っていればいいらしい。なんか行動でどうこう言ってた気がするけど、まあいいか。握り具合はこれでちょうどいいので変えることはないと思う。


「いや待て、何を誓ってるんだ、何を」


 ディノッソにエクス棒との会話を聞きとがめられたが、正直に言うべきだろうか、これ。

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