第149話 リシュと棒
気がついたら氷の湖を渡る前と似た様な風景の中にいた。もう初夏のような森もなく、金色がかった白い花を咲かせる美しい木もない。でも手の中にはコンコン棒EX。
飛びかかってきたサーベルタイガーみたいな魔物を倒し、もう一度周囲を見回して何もないことを確認して【転移】。
「ただいま、リシュ」
暖炉の前のリシュが飛んできて、俺の匂いを嗅ぐ。カヌム以外のところから帰った時は大体嗅がれるのだ。
リシュに嗅がれながら、上着の前を開けて火の精霊を解放する。ダンちゃんが温まるために暖炉に飛び込んでゆく。
一通り嗅いで、今は四十センチくらいの長さになっているコンコン棒EXに気がついたらしく、こっちを見上げるリシュ、そのまま尻餅をついてお座り。
「いい棒だろう」
リシュの前に座り込んでコンコン棒EXの匂いを嗅がせる。
「よう! オレはコンコン棒EX、よろしくな!」
ぽこんと葉が開いて元気よく挨拶するコンコン棒EX。
「こっちはリシュだ」
胡散臭げに匂いを嗅ぐリシュ。
「コンコン棒EXは普段呼ぶにはちょっと長いな? 愛称つけるか。なんて呼ばれたい?」
「偉大なるロッドブランチスーパーコンコン棒EX!」
「よし、エクスにしようか」
長いよ! あと棒とロッドが被ってる。
「えー。せめて棒! 俺のアイデンティティ!」
「じゃあエクス棒で」
「おう!」
「さて、ちょっと風呂に入ってくる」
精霊の現れた場所は暖かかったけれど、芯まで冷えた状態だったのでまだ寒い。エクス棒を椅子に立てかけて風呂にゆく。
体を洗うでもなくダラダラと長湯をして、風呂上がりの牛乳を飲もうとしたら、リシュがエクス棒をかじっていた。
「あ〜、そこそこ。あいででででっ! いや、待ってそれは強い! そうそうそれくらい」
ちょっと焦ったのだが、どうやら大丈夫らしい。無心にかじかじしているリシュとちょっとうるさいエクス棒をそのままに、牛乳を飲んで一息つく。
本日はお茶漬けをさらさらやって早寝! 明日は何か作って差し入れがてら、森に誘ってエクス棒の自慢をしよう。
朝起きたら小雨だった。魔の森はお休みしてカードゲームに誘うコースだなこれ。天気が悪くてコンコンしに行けない。
石窯は暖炉の炭を突っ込んで温度を調整して焼きたいものを焼くか、薪を中で燃やして全て燃え尽きさせ、温度を上げて、徐々に下がる温度を利用しながら、中に入れる物を変えてゆくかのどちらか。
今日は昨日の早寝のおかげで早く起きたから、薪を入れる方法で何種類か作ろう。薪が綺麗に燃えるまで、リシュと散歩。
フードをかぶって山歩き。リシュは濡れないから、小雨くらいなら出かける。雨の森もなかなか風情があるけど、足元が滑って厄介だ。
いい具合に窯の中の薪が炭に変わったのを確認し、火かき棒で料理を入れる場所を作り、一番手のスペアリブとジャガイモを入れる。焼いている間に精霊の名付け。
二番手は丸いパン、焼き上がりを待つ間にリシュと遊ぶ。今日は畑は休み。
その後にピザ、すぐ焼けるので様子を見ながら。最後に壺に入れたひよこ豆と春キャベツ、ベーコンを細切りにして入れたスープを突っ込んで終了。
パンとスペアリブの皿を籠に入れて布巾をかけ、エクス棒を持って準備完了。
「おはよう、これ差し入れ。今日、暇だったらゲームどうだ?」
「ありがとうございます。本日ですと夜ではなく、昼の後でしたら。レッツェ様には私からお伝えいたします」
「よろしく」
天気が悪いし、懐が温かい冒険者なら、依頼を受けていなければ家にいるはずだ。酒場に行く時間には早いしね。
ちなみにまだアッシュは起きていない早朝、この時間に起きてるのは執事とディノッソ家だ。ディノッソは最近、飲んだ翌日とかもうちょっと寝ていることもあるけど、農家やってたので朝が早い。
ディーンたち三人には執事が起きた頃を見計らって届けてくれるのがパターンとかしている。
お披露目前なのでエクス棒を隠しつつ、ディノッソにもオッケーをもらって午後の予定が決まった。
こっちも雨が降っているので、ちょっと寒い。暖炉に火を入れて部屋を暖めておこう。昨日までずっと外歩きしてたし、午前は暖炉の前でだらだらして過ごすことにする。
屋根裏部屋の暖炉に火を入れて、俺はベッドにごろ寝。大福が留守なのが寂しいけど、羽根枕を抱えて読書。鎧戸がしまっているのでランプの明かりだけで眠くなる。
雨が屋根を叩く音を聞きながら朝寝を楽しむ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます