第148話 念願の……
アッシュと執事とお昼ご飯を食べ、男どもの飲み会を断り五日。
「……っ」
氷の枝を伸ばす白い木々の間、頭と背中に柱状化した氷が集合したようなものをつけたフクロウの魔物を避ける。
そのまま蝶の羽を持つタツノオトシゴみたいな魔物を斬り捨て、また飛んできたフクロウ二匹を迎え撃って一息つく。
どっちも大きさは四十センチほどと小さいが、白くて保護色をしているので油断してのこのこ歩いていると痛い目にあう。
タツノオトシゴの方が遅いのだが、コイツの使う泡の魔法が面倒なので先に倒す様にしている。蝶の羽は少し金属質というか、氷か結晶のような質感を持っていてちょっと不思議なかんじ。
ここにきてだいぶファンタジーだぞ? この形の魔物がいるってことはそのままの動物もいるってことだし。
ここの木々はとても脆く、かしゃかしゃと小さな音を立ててすぐに崩れてしまう。この木の精霊なのか、ただ単に住んでいるのかわからないけれど、小さな丸い毛玉みたいな精霊が一本に一匹いる。
木が崩れると無防備に姿を晒し、あっという間に魔物が寄ってきて食べようとする。
周囲の氷と砂糖菓子の中間みたいな木々を壊さず戦うのは難易度が高い。もういっそ木も魔物も全部倒して進みたくなるくらいなのだが、家を壊すのもどうかと思うので我慢して慎重に進んでいる。
俺だって神々からもらったあの家が壊れたら泣くどころじゃないし。ただ、慎重に進むと面倒というより寒くて大変。
最初に知らずに壊した木の精霊は責任を持って名付けて連れて行こうとしたのだが、名付けられず、でもふわふわと周りを漂い離れない。時々、契約する前に相手を見極めるためか、ついてきて気まぐれに手をかしてくれる精霊がいるそうだが、その状態だろうか?
家に一緒に【転移】していいものか迷う。契約していればある程度大丈夫だけど、環境が違うとすぐに消えてしまう精霊もいるからね。氷の精霊を火山に連れてったり――ある程度強ければ別だけど。
そういうわけで家にも戻れず、寒さしのぎにぱーっとやることもできず、コートの中の火の精霊――命名、暖房のダンちゃんに頑張ってもらっている。俺も魔力の調節頑張ったので、今日1日でだいぶ繊細な操作ができる様になった。
白い森の青い泉。
ユニコーンがいる、ユニコーンがいるぞ!? 知ってるファンタジー生物発見! 警戒心が強く、確か心清らかな乙女にしか心を許さない女好きな生物だったはず。誰か乙女、乙女をここへ!
離れたところでちょっと見学。ユニコーンの角は高価な薬の材料になった気がするけど、今は周囲に具合の悪い人もいないし金にも困ってないので、ユニコーンのいる風景を存分に楽しむ。
満足したところで先に進む。乳白色の霧に包まれた場所をしばらく進む、地面も白っぽく全く同じ様で迷子になりそうだ。
地図があるけど、広域なのでこれを見て微妙な方向調整は難しい。ナルアディードで購入した方位磁石は持ってきているけど、これはあの壊れやすい木の森に入った時点で役立たずになっている。
何かものがあれば、それを目標に歩くんだけど、何も見えない。仕方がないので剣の先で地面に線をつけながら歩いていたのだが、戻ってみたらなんか一メートルくらいで消えてるんだよね……。
どうしようかと思ったら、毛玉がふわふわと先導してくれるみたい? 行き着く先が俺の望む場所かはわからないけど、特にあてもないし方策もないのでついてゆくことにする。
毛玉についてゆくと、普通の森に出た。いや、普通というには生命力に溢れた新緑の初夏の森だ。木々の葉は美しい新緑でつやつやしていて柔らかそうだし、枝はしなやかに伸びている。
春っぽい陽気にふわふわと進む毛玉が綿毛っぽく見えてきた。
大きな木々を抜けた先には小さな湖、湖の真ん中には周囲の木々の半分くらいの葉のない枯れ木が一本ぽつんとある。
毛玉が湖の上を渡りその木の中に入り込むと、途端に木は若枝を伸ばし、金色がかった白い花を咲かせ、花からは水がふつふつと溢れる。水滴が凪いでいた湖に波紋を幾十も描き、キラキラと輝かせた。
「資格を得し者よ、そなたの理想は?」
なんか出た!
木の幹からミルク色の衣装を着た、広がる木の根のような背丈より長い髪の女性が出てきた、目も口も閉じたままの美しい姿から声が響く。たぶん神と呼ばれてもおかしくない精霊だ。
これがコンコン棒EXの木……?
「直径四センチくらい、長さは三メートルちょい!」
「……」
「固くて折れないのはデフォルトでついてます、よね?」
「……」
要求を述べたら何か黙ったのでおとなしく待つ。
「――幻想の地を無傷で渡り、白き精霊を殺すことなくこの地にたどり着いた。そなたの言葉ではなく、見せた行動により枝を授けよう」
え? 困るんですけど。
枯れ木の様だった木は今は白く輝いている。その枝が一本音もなく折れ、俺の前に漂い姿を変える。
希望より短く、木刀くらいの大きさ。片方に開きかけた葉と硬い芽がついている。
「おおお!」
握ったら伸びた!
そして縮んだ!
「オレの主人! さっきはありがとう! さっそく、名前つけてくれ!」
葉がついた方が俺の目線にくるまで縮んだと思ったら、ぽんっと葉が開いてなんか小さな精霊が出てきた。
さっきはということは、あの毛玉だった精霊か? ――もう名前は決まっている。
「コンコン棒EX!」
「おう! 今日からオレはコンコン棒EX、よろしくな!」
ちょっとやんちゃな感じの精霊がニカリと笑う。
「王になり、王を見出す資格を得た者よ。枝を枯らすことなく精霊と共に」
盛り上がっていたら、本体の精霊が何かを告げて消え、周囲の風景も白い霧に包まれて消えてゆく。
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