第147話 ポップコーン

 ダイヤは炭素でできてるだけあって燃える、一定温度を超えたら突然真っ赤に発光してぼしゅっと消えるかんじ。ちょっと楽しい。


 元の世界で一番傷つきにくい硬度を誇るけれど、分子構造にやたら弱い一面があって、そこを叩くと簡単に割れる。


 ガラスが割れるのはガラスをさまして固めるときに、表面に小さな傷が数えきれないほどできるのが原因だって聞いたことがあるので、ダイヤの傷に強い性質をプッシュしてみた。


 窓ももちろんだけど、温室が作りたい。目的を考えるとかなりの量が必要になる。マンゴーとかバナナとかをですね……。独立したものではなく、サンルームみたいに家にくっつければ半分で済むか。


 そういうわけでせっせと作る。カダルが気を使ってくれた通り、作業を手伝ってくれるひとがいると楽なんだけれど。あれだ、これも技術売って作ったのを優先的に回してもらうか。


 心折れかけてる俺だ。


「妙なことを始めているな」

興味深そうに錫に浮くオレンジ色のガラスを覗き込むヴァン。神々はいきなり現れるからびっくりする。


 そういえば、火の属性だったな。他の精霊と違ってハラルファとヴァンはあまりここに姿を見せない。


 興味があるっぽかったのでちょっと手伝ってもらった。素手でまだオレンジ色しているガラスを引っ張り始めたのは予想外だったけど、とても助かった。


「そなた、結構人使いが荒いな……」

そう言って消えたヴァンは、燃える寸前のダイヤを好んで食べた。


 どうやら初めて気に入った食べ物(?)らしく上機嫌だった、どんな味がするのかは知らぬ。また来るって言ってたけど、今までで一番金のかかる食の好みだよ! いかん、ダイヤには安いままでいてもらおう……。


 いやでも、もしかして鉛筆の芯からダイヤができる世界かここ? ちょっと研究しよう。ヴァンは坩堝るつぼに入れるまでもなく、自分で燃やして口に放り込んでたので手間はかからないんだけど。


 後日、せっせと作ったものをそっと倉庫にした島の空き家に運び込んで完了。島は人が増えた、一時的なことだが人口が倍増している。


 石工や大工のみなさんがまず自分の住処を整えているところで、これからまた徐々に職人が増える。せっかく整えるからにはと、一応トイレと下水も整備してもらっている。島民は漁はお休みして、ナルアディードからの食料の輸送や、職人のお世話、下働きと大活躍中。


「人を使うのがうまいな」

「お手本がありましたし」

「今までの先の見えない閉塞感の反動だろう。それに勤勉で粘り強い」


 銀は無愛想な顔だけど、俺が持ってきたポップコーンの紙袋を抱えたままだ。ぽいぽい口に放り込んでもこれなら気にならない。


 もう少ししたら金銀が現場を見た大工や石工と話して、俺の希望を詰めた設計と現実との折り合いを話し合う。地形を知るために島を歩き回ったし、基本の構造は昔の城塞のままなので大きな変更はないはず、と思いたい。


 進捗の確認と、資金の補充を済ませ島を後にする。島民にはともかく、職人にはなるべく会わない様にしているので長居はしない。二人も職人との打ち合わせや、資材の買い付けやら商人との交渉やらで忙しいようだ。


 忙しいついでに安いダイヤを見つけたら買い取ってもらうようお願いした。で、俺は二人に面倒を押し付けて北東を目指す。


 森に【転移】して魔物を倒して進み、立ち止まっては精霊に名付ける。基本はこれの繰り返し。


 森は広葉樹から針葉樹に変わる。寒いけれど、降雪量が少ないらしく、雪はさほど積もっていない。北っていうと雪深いのを思い浮かべるけど、融けないだけで二メートルも三メートルも積もるわけじゃないようだ。


 そういえば日本は世界有数の豪雪地帯だったな。あれ以上は積もらないんだろうか? 


 分厚い氷に覆われ、氷の膨張で入ったヒビが白く模様を作る湖の上を歩く。美しいけれど生き物の気配はなく、精霊が飛び交うだけ。


 氷の精霊と眠りの精霊、冷気の精霊。精霊たちの色も氷の湖の色と同じく、白とどこか透明感のある黒。だんだん色のない世界に入ってきた。


 先ほどまで戦っていた魔物も出現せず、ただ寒さに震えながら氷の上を歩く。透明度の高い氷の分厚さは湖の色と溶けて分かりづらいけれど、白いヒビを見る限り俺の身長よりありそう。


 湖は深く、暗く底が見えない。なにか魔物が住んでいてもおかしくはない――この場合、こっちの世界の魔物という実在のものより、もっとぼんやりした恐怖のことだ。自然は綺麗だけど、怖い。


 寒いから【転移】で家に帰るんだけどな。


「リシュ〜」

わしわしとリシュの胸のあたりを撫でる、いや揉む? やっぱり家はいい。


「ありがとう」

防寒着を脱いで自分の息で凍った首元の氷を払うと、内側にいた火の精霊が暖炉に飛び込んでゆく。


 俺が寒かったんだから火の精霊も寒かったよな。もう少し魔力を流すべきだったろうか? でも送りすぎると燃えるし、難しい。


 暖炉のそばで服を乾かし、自分も火にあたる。コーヒーを入れて一息。


 湖の縁にでた魔物は威力はそうでもないけど、魔法を使ってきた。今まで力押しでくる魔物を相手にしてきたけれど、そろそろ他の戦い方を学習する頃合のようだ。


 氷も夏用にちょっと切り出しておくかな? あの湖の水が飲めるものかどうか【鑑定】してからだけど。


 

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