第142話 引き渡し終了

「レッツェのはちゃんと地味に作ったぞ?」

「本当か?」

「本当、本当」


 肉厚の剣鉈。刃は鈍色、背の部分はほとんど黒に見える茶色にやはり黒に見える深緑でつる草の模様が浮き彫りになっている。俺は彫った覚えはないけどね!


「お、地味……。いや、まて。ディノッソとノートが引いてねぇか?」

レッツェが剣を手に取ったところで声のトーンが変わる。


 精霊が見える二人は精霊の力の宿るものに敏感らしい? よくわからん。


「こちら魔力が使えなくてもお願いすれば勝手に魔力を吸い取って発動してくれる剣です」

「それは発動していいものなのか聞いていい? これ俺触ってて平気?」

「大丈夫、体に悪いものじゃないです」

ちょっとエロゲの悪役みたいに触手が出せるだけです。麻痺とエナジードレイン付き。


「お前、デスマス調の時は後ろめたい時だろ!」

「俺に向けるな、俺に! 好みの女騎士とかにするべき!」

「何を付けた、何を!?」

一部の人には浪漫だたぶん。だからこっちに向けるな!


「あ、こら! 巻き込むんじゃねぇよ! 俺を盾にするな!」

背中に隠れて、ディノッソを押し出す。剣を向けられたので黄金の盾を使ったのだ、がんばれ金ランク!


「ほっほっ、コーヒーのおかわりをいただきましょうかな」

三人でぎゃーぎゃーやっている横でサイフォンにコーヒーをセットする執事。無駄にそこだけ優雅。


「大丈夫だ、ちょっとツル草が伸びて対象の行動を奪って生命吸ってくれるだけだ」

ツルンとした何かじゃなくて、ツル草だからセーフだ。触手は冗談です。


「あと使っていて仲良くなれれば、吸った分ちょっと回復してくれる」

「仲良くってなんだ、仲良くって!」

そう言ったレッツェの手を、剣からちょろっと伸びた細いツルの葉がさわっとなでる。


「……っ!?」

「たまに日光に当ててあげてください。あと水やりも」

固まったレッツェに扱い方を伝える。


「およそ剣の手入れ方法じゃねぇな。まあ、頑張れ」

「話を聞く限り、敵の足止めには有用かと」

うわ〜って顔しながら投げやりに言うディノッソと笑顔の執事。


「最後はアッシュの剣ね。こちらになります」

青みがかった両刃の大剣。


 大剣と言ってもディノッソやディーンの重量感のある殴るタイプの剣ではなく、すっきりと長い。二人のも斬れるようにはしてあるけど、アッシュのは完全に斬るタイプ。


 刃の上を常に薄く水が覆い、剣をふるいながら魔力を込めればその水を鋭利な刃物のように風で飛ばす事もできる。


「美しく、清廉な剣でございますな」

剣を眺め満足そうな執事。


「こちら、水に麻痺毒が混ぜられます」

固まる執事。


「清々しい顔してひどいこと言うんじゃねぇよ!」

「何をどうしたらこうなるんだ?」


「子どもたちの分の時は精霊を出禁にしたんだが、その場で生まれるのは如何ともし難く。出禁を解いたら解いたでなんか張り切っててですね……。決して俺が選んで付けた効果じゃないぞ?」


 俺は頑張ったので、無罪ということでひとつ。


 ――ディノッソに頭頂部をげんこつでグリグリされました。ハゲる。


「最初に預かった剣は売っちまってよかったんだよな? アメデオとかいうのまでまとわりついてきて面倒なんで他の誰かに譲りたいんだが」

ジャーキーを片手にビールを飲むディノッソ。


「アメデオに売ったらどうだ? 法外な高値で。そのあと誰か面倒なのに精霊剣のことを聞かれたら余ったのはアメデオが持ってるってなすりつければ」

まとも・・・なビールを三人に出し、俺は炭酸水。


「一番しつこいのがアメデオたちなんじゃねぇの? ――この酒やばいな。美味いし、すっきりする」

「いやあ、そのうち勇者の使いっぽいのが来るかと思って」

たぶん長旅を嫌がると思うので本人たちは来ない。


 一応、まだ大国がどーんどーんとあって、こんなに分割されていなかったころに旅人用に三日に一軒は宿屋にたどり着けるように整備されたらしいのだが、潰れた宿も多いので期待はできない。


 大人数で天幕と風呂桶持って旅をしたとしても、少なくとも姉は一週間かからずギブアップすると思う。俺は最初が過酷だったから慣れたけど。


「いらっしゃるのですか?」

「わからないけど、希少とか一点モノとか大好きなのがいるし」

「面倒な者同士をぶつけるのか」

考え込むディノッソ。


「とりあえず他の精霊剣は見せてないんだろ?」

「俺とシヴァのは契約してる精霊が力を込めてくれてるタイプの精霊剣、剣自体は業物ではあるが普通だな。長年使ってるんで属性剣くらいにはなってっけど」


「まあ、剣のことは任せる。ドリアが焼きあがった」

「チーズ焼きですか?」


 クリーミーな牡蠣ドリアにしようかとも思ったのだが、今回はチーズがっつりのベーコンとほうれん草のドリア。肉が食いたい気もするので、でかいソーセージを一本乗せて出す。


米と牡蠣と食べたことがないもの二つ重ねるのを避けた。ほうれん草もないだろうけど、味が濃いわけじゃないしそこは気にしない。


「お、美味い」

「これも美味いな。こっちのフライドポテトだっけ? これも塩気がいい」

「この酒に合いますな」


 とろりととろけたチーズと焦げてパリッとしたところを一緒にすくって口へ。熱いが美味い。一口目は美味しいが、食べ続けるとしつこくなりそうな濃厚な味をご飯が和らげちょうどいい。


 固めのソーセージをバリッとやって炭酸水で熱々の口の中を冷やす。


「ああ、そうだ。複数でも大剣でもない人には鉱石の差分、解体用ナイフつけるから」


「また変なヤツじゃねぇだろうな?」

ジト目で見てくるディノッソ。


 普通ですよ、普通。

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