第143話 二日酔い
「とりあえずきれいに解体できるよう、スパッといくやつだな」
「スパッと」
なんかレッツェが半眼だけど気にしたら負けだ。
「うん。ただ何でか知らんけど本当に解体だけ、倒した後じゃないと鈍だ」
「何で作ったやつが知らないんだよ」
疲れた声を出すレッツェ。
たぶん俺のぼんやりした考えを読みとって、なるべく希望は叶える! いらない機能は棄てる! みたいな協力してくれた結果なんじゃないかとそこはかとなく思うが言えぬ。
子どもたちの武器を作っていた時は、「子どもは成長が早いからサイズが合わなくなるかな?」と思ってたし、やたら麻痺が多いのも俺が敵を無力化するイメージが「殺すこと」よりも「動けなくさせること」だからだろう。
ディノッソとディーンの火とクリスの光はイメージしやすかったのでそのまんまだけど。
クリスの光のレイピアは魔力を込めると明るくて坑道に行ったら便利そう――じゃなくて、敵を怯ませ一時的に視力を奪う。ついでに味方の視力も奪うけど、単純に強い発光物なのでまあ仕方があるまい。
ところでなんかディノッソがビールを立て続けにあおっているのだが、あれは後でシヴァのお説教コースじゃあるまいか?
「俺も飲む。強いのあるか?」
「気持ちはわかりますがあまり無理はされないほうが……」
「いや、もう意識を飛ばしたい」
執事がやんわり止めるが、レッツェは酔っ払い志願者だった。
初めて酔って醜態を晒した時は別として、それ以降は酒のせいではなく本人の資質だと思う。なので酔っ払ってる時に付き合いたくない人とは通常時も疎遠にしたい、と思う。
俺自身がまだ酔ったことがないからそう思うのかもしれないんだけどね。なお、ディノッソ、ディーン、クリスは酔っ払わせると面白いので飲ませる方向。
「じゃあこれ?」
強い酒というとテキーラやウォッカが浮かぶけど、あいにく食料庫にない酒だ。俺の持ってる酒の中ではたぶんウイスキーが一番度数が高い。
棚からグラスを選ぶ。【鑑定】さんのいうことには、グラスの縁が薄いほど口当たりが良くなるそうだ。他にグラスの膨らみやら口径の大きさなど、ウイスキーを【鑑定】すると口内へ流入する角度と速度で味がだいぶ変わるからグラスを慎重に選べって出るんですよ……。
まあ適当でいいか。一応なるべく縁が薄いグラスを選んでウイスキーを注ぐ。
レッツェは酔うと少しぞんざいになるのだが、それは酔っ払ったディーンたちの扱いとしては妥当。
「はい」
綺麗な琥珀色。
「こりゃまた割れそうなグラスだな」
「美しゅうございますな。グラスも酒も」
「いい香りだ」
興味を示した執事にもウイスキーを渡す。執事が酔ったところは見たことがない。
「ジーン様のところの酒は見目も綺麗で素晴らしいです」
「ああ」
笑顔でグラスを傾ける二人。
「ぶっ!」
「……」
一瞬、吹き出しそうになったところを飲み込む二人。
「火酒かよ!」
「これはまたキツイ酒で」
執事は平気そうだが、レッツェがちょっと咳き込んでいる。
火酒は北の民族が好んで飲む酒でビールなんだが度数がすごいやつ。日本では酒の種類ごとに度数が定められているので作られてないけど、海外では度数の高いビールが存在している。アルコール度数六十度を超えるんだったかな?
もともとウイスキーはアイリッシュコーヒーが飲んでみたくて確保した酒なので飲み方に詳しくない。
だけど考えてみればストレートで飲む時はワンショットとかツーショットとか――少量だった気がする。なみなみと注いだね! HAHAHA!
翌日、レッツェを転がした大福の部屋を覗くと大福がいた。レッツェに寄り添って寝てるのだが、寄り添ってる部分がケツ、しかも顔に。添い寝をうらやましがっていいのかちょっと悩む。
窓の鎧戸を開けて部屋にこもった酒の匂いを払う。昨夜窓辺においたレッツェ用の剣がちょっと陽の光に喜んでいる気配。得意げに尻尾を振るう大福を撫でさせてもらおうとしたらレッツェが起きた。
「おはよう」
「おはよう、すまん。頭いてぇ」
起き出したレッツェをつまらなさそうにちらりと見て、俺を踏み台に棚に飛び移る大福。さっさと箱に入ってしまった。
ふむ、籠もあるけど箱の方が好き、と。ああ、でも暖かくなったら籠も使うかな?
「……なんかいるのか? 猫のやつ?」
「そう」
俺の視線の動きだけで、多少ヒントはあるものの寝起きの頭ですぐ精霊だと答えを出すところがすごい。
いや、俺が分かりやすいだけなのか? 執事やアッシュは――ああ、執事は笑顔で目を細めてるし、アッシュは怖い顔で目をすがめてる。視線の動きを悟らせないためかもしかして!
「また何か変なこと考えたな? 目を開け、目を」
薄目にしたら却下をくらった。
おのれ、酔っ払って潰れたダメな大人のくせに!
「って、待て。ひどい」
レッツェが窓辺に置いておいた剣を見て言う。
「なんで植木鉢にささってんだよ!」
「え、いやツルだし? 水やりはしといたぞ?」
「……っ」
自分のあげた声が響いたのか、レッツェが頭を抱えてベッドに倒れ伏した。
「頭痛え」
「二日酔い」
「……。絶対違う」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます