第140話 島
翌日は昼前からナルアディードの商業ギルドで、俺が土地ごとアラウェイ家経由で買う城塞跡の持ち主というか、島の領主と交渉。
「島ごと管理を任せる代わり、税は年に三万でどうじゃろう?」
「特に島は不要です。ああ、窓を多くつけるつもりなので百なら考えます」
小舟での漁と出稼ぎで生計を立てている島民十五人の島の税収なんてたかが知れてるのに思い切り吹っかけてきた領主。
建物そのものの税金は普通間口の広さと窓の多さで決まる。
「一万では?」
ふっかけた自覚があるのか、いきなり半額以下にしてきた。
「窓を減らしましょうか、五十」
「はっ?」
固まる領主。
ナルアディードの周辺は商人が力を持っている。中には強権を持つ貴族が後ろについている商家も混じっているので、その辺の島をいくつか持っているだけの領主の権限は果てしなく低い。
ナルアディードの本島自体は市場税や、港の使用税やらで領主は何もしなくても潤っているのだが、周りの大小の島は人が住まないものも多くあり、なんの上がりもない場所のほうが多い。
「まあ、こちらはあの島でなくても構いませんし。……アラウェイ家がせっかく間に入ってくれたのですが、残念です」
にっこり笑う俺。
「……」
脂汗を流して黙り込む領主。
なんのためにアラウェイ家を間に挟んだと思ってるんだ。繰り返すが、この周辺は商人のほうが力が強い。
「ではこちらの内容で契約をいたします」
「お願いします」
「うむ」
二百で契約完了。商業ギルドで一番精霊の呪いの制約がきつくて期間がない契約
ちなみに精霊の呪い付きの契約と誓文の違いは、
結局島ごと管理を受け入れた。金額は島民の税金込み、俺が自由に賦役や税を課していいことになった。土地の売買の許可も俺だし、島民十五人ほどだけど実質領主代理みたいな何か。
まあ、大した金も取れないのにわざわざ人を雇い、舟を出して見回り税を取り立てるより断然お得だし、俺の方も年二百で島でやることに手出し口出しするのを封じたと思えば安いもの。治外法権、治外法権。
一番お高い契約の用意と立ち会いを商業ギルドに依頼したので、商業ギルドの保証もついたし。
顔の割にえげつないですな、とか言われたけれども。夜に叱られるイベントが待っているから領主に八つ当たりをしたわけじゃないぞ。
飯を食って島に渡って島民と話す。昼間は漁に出ていて留守が多いけど、残って漁具を直している老人や女性、子供がいる。
「領主代理、ですか」
「そういうわけで働いてもらいたい。――ああ、賃金は払う」
「徴税ではなく?」
「うん。とりあえず今は空き家を案内してもらいたい」
メインの働き手は海に出てしまっているので正式な交渉は明日になるけど、ちょっと前振り。なお、持ち主がいない家屋は土地ごと領主に戻されるので自動的に今は俺のものになっているという。
とりあえず領主へ払い忘れがないように気をつけないと。商業ギルドを通すことになっているので、金に余裕ができたらまとめて何年か分預けておこう。
子たちの案内でいくつか空き家を見て回る。金銀の分と、俺の家を建てる職人さんの仮住居にできそうな家を。
子たちの後ろをついてゆきながら、老人に集落の人たちに何ができるのかを尋ねる。
簡単な家の修繕、納屋の建設、井戸掘りなんかはできるらしい。あとは当然舟の操縦。隠れた岩礁の多いこの島の海を器用に進む、職人の迎えやらで働いて欲しいところ。
思いがけず島全体が利用できることになったけど、計画は当初通り。さすがに規模を広げるだけの金がない。領主に支払う金額も想定よりオーバーしてるし。ああ、でも空き家が自由に使える分は浮いたか。
一通り案内してもらって本日の島の訪問は終了。
昔は腕のいい漁師だったという老人にナルアディードに送ってもらう。行きに頼んだ船頭は、おっかなびっくり舟を進めていてすごくドキドキしたのだが、老人はるかに腕がいい。揺れないし、舟の針路に迷いがない。
「すごいな。あとで舟の操作を教えてくれるか?」
「はは、年季だけは入っとるからね。興味があるなら手ほどきはするが、島の周囲は岩礁だらけだ、危ないねぇ」
海は濃い紺碧、浅い場所は綺麗に澄んだアクアマリン。浅い場所にも深い場所にも岩礁が顔を出し、海水に隠れ数多く存在している。
昼間なら海が澄んでいるので、水に隠れた岩礁も近づけば見えるのだが、小舟は海流に流されやすく、その海流は風やナルアディードに寄港する大型の帆船の起こす波で気まぐれに変わる。
「でもナルアディードから島に行く時、あっちの船頭じゃ怖くて」
「はっはっ! 奴らは普段、安全な陸の近くで船から陸へ、陸から船へ人を送るくらいだからな」
とりあえず操船の先生ゲット!
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