第138話 ただいま準備中

 今日は鍛冶小屋にこもるのでおにぎり準備。カリカリ梅とジャコ、焼きたらこ、鮭、しそ味噌、葉唐辛子、あさり、ツナマヨネーズ、肉巻き結び、鰹節と胡麻をたっぷりいれた焼きおにぎり。


 具材をちょっとずつ用意するのが面倒だったので、大量に作って【収納】に放り込む方向。これまでも何度か作って、料理するのが面倒な時に食べている。


 孟宗竹もうそうちくの大きなたけのこの皮をぺりぺり剥いて洗い、一晩乾かしたものに3個ずつ包む。筍はあとで混ぜご飯を作る。


 日本には約六百もの竹があると何かで読んだんだが、とりあえず孟宗竹と真竹、メンマ用に麻竹まちくの筍は食料庫にある。あ、いかんラーメン食べたくなった。


 畑で作った食材を使っていると、台所で精霊の姿を見る。大きなものではなく、意思がないような小さなやつ。家には進入禁止の結界があるので、こいつらは俺の持ち込んだそれぞれの野菜や果物の精霊だ。


 植物系――例えば果樹は木と花や実に生まれる。樹木の精霊は長く生まれた木にいることが多いけど、花や実に生まれた精霊はすぐに離れてしまうことが多い。同じ種類の別の花に引っ越したりね。


 花や実の精霊は固有の形を保っていられる時間も短く、細かい粒子になって種や元の木、大気や地面に溶け込んでゆく。細かい粒子に砕ける時、なぜかとても楽しそうなので、形を保ちたいらしい他の精霊とちょっと違うみたい。


 最初に野菜を切った時、隣で砕けて食材に吸い込まれてった時は驚いたし、どうしようかと思ったし、罪悪感が生まれそうだったけど。


 様子を見ていると鍋にダイブはするわ、嬉しそうに動き回っているのでどうやら美味しく料理されるのは本望らしいと気づいて安心した。同じ野菜の精霊でも消えずに力だけ料理に注ぐやつもいるし、色々謎だ。


 昼を用意し終えたら、今度はお湯を【収納】にたっぷり用意。たらいを小屋の外に設置、マスクをして準備完了。


 本日はまず炭切り作業、炭は松から作られた木炭、着火しやすく熱量に勝る。燃費が悪すぎて大量に使うんだけれども。


 松炭は用意してあるんだけど、不揃いなのを約二から三センチの四角体に切りそろえる。木の目を読み、粉を極力出さず思い通りの大きさに切るのはなかなか大変。全身どころか鼻の穴の中まで真っ黒になるね!


 カンカンするにはそれなりの準備がいるのである。ふくら雀みたいな丸くてふわふわした指先ほどの小さな黒い鳥が飛び回っている。


 とりあえず俺に炭の粉で落書きするのはやめろ。


 作業を終えて用意した盥に湯を入れて真っ黒になった体を洗う。着てた服は再起不能な気がする……。これでも洗濯屋さんは綺麗にしてくれるだろうか? 炭とか墨汁って落ちるイメージないのだが。


 さっぱりしたところでお昼、リシュと並んで外で食べる。外で食うおにぎりは格別だ。


 中身の区別がつかなくなってロシアンおにぎりになりそうだったけど、【鑑定】してことなきを得た。好きな具材ばかりだから何が当たってもいいけどね。


 家の周辺はもうだいぶ春らしい。クローバーと似た、それより小さな草が広がっている。


 だいたい同じような長さなのだが、時々ひょろりと飛び出た草があり、気になるらしいリシュがじゃれてぱくっと。楽しいようでなにより。


 庭には虫がいないのをいいことに、寝転んで俺は昼寝。リシュがもどってきて隣に陣取り、やっぱり草にじゃれている。


 午後は坑道で集めた魔鉄を溶かして鋼に変えて、水に入れて急冷焼き入れして、よろしくない部分を落として……。


 贅沢に魔鉄だけを使っております、でもお値段据え置き。今ならもう一本――テレビショッピング風のセリフを思い浮かべつつ真面目に作業。


 子どもたちは今回、精霊なしで! と保護者から言われているので精霊を立ち入り禁止にしてカンカン。作業してると細かいのが生まれるんだがどうしたら……?


 まあいい、火属性とかつくわけじゃなくってちょっと丈夫になるくらいだろう、気にしない方向で。


 バクには力を乗せてダメージを与えるタイプの肉厚の剣、エンには刀身が短く湾曲した片刃の剣。


 エンは派手なの! というリクエストをしてディノッソとシヴァに叱られていた。俺も今はダメだろうと思うけど、基礎ができてそれを守れるようになったらいいんじゃないかな、テンション上がるし。


 子たちの剣を作り終えて終了。翌日は執事と属性の希望が被ったシヴァと執事の剣を打つ。


 執事とシヴァの希望は魔銀の武器。レイスとか幽霊系、吸血鬼とかの魔物に効果があるそうだ。――いるのか吸血鬼。


 二人ともメイン武器はすでに持っているからサブ武器になる。


 シヴァのリクエストは長さの違う双剣、速さで斬るタイプ、氷と片方は別の属性希望。氷が効かない魔物と遭遇するかもしれないからだって。そういえば北に行った時にそういう魔物がいるって聞いた気がする。


 執事は袖口に入るサイズのナイフを三点、属性は闇か氷希望。


 俺やエンの【収納】のように大きなものはしまえないけど、ポケットや袖口から入れられるサイズであれば収納可能な能力持ちだそうだ。


 時々ノートはタオルとかどっから出してるんだろうと不思議だったけど、執事という職にあった能力持ちなんだろうと思っていた。


 ちなみに【暗器】と呼ばれる能力だそうです。名前が物騒すぎる、執事用の能力じゃない。

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