第132話 坑道終了

「さて、あんたはどうする?」

「ホワイルがおとなしいうちに移動します。ありがとうございました」

そう言って、丁寧な会釈をして通路に向かおうとするサラ。


 解体を手伝ってもらっている間、三人と話していたようだが条件の折り合いがつかなかったらしい。


 手伝ってもらったお礼は松明と少しの食料、魔鉱石をいくつか。坑道ここから出て、町で魔鉱石を売り払えばしばらくはやっていける。


「ん?」

箱が置きっぱなんだが?


「おいおい、精霊は置いてくのか」

ディノッソも気づいて声を掛ける。


「もともと契約精霊ではございませんもの。それにホワイルが寝心地の良い場所を見つけて離れるのも初めてではないのです、三日か一年か――その間に三食昼寝朝寝ができるくらい蓄えませんと」

足を止めておっとりと笑う。


「そんなに稼げるのかよ」

ディーンが納得いかない様子で聞く。


「わたくし、こう見えても『精霊のつぼみ』ですもの。ホワイルに憑かれなければきっと『花』になっていましたわ」


「食う寝るは外せないのか?」

蕾だの花だのが何か聞こうとしたらその前にレッツェが割って入った。


 あれか、聞いちゃいけないほにゃらら系か? 神聖娼婦系の。


「もともと眠るのは好きでしたし、食べたくても食べられない状態になってから食べることも好きになりましたわ」

「なるほど。あなたに精霊の祝福を」

俺の質問を邪魔できれば何でもよかったらしく、あっさり納得するレッツェ。


「ありがとうございます。わたくしを養えるようになったら声をかけてくださいませ。次お会いする機会があればお礼をいたしますわ」

そう言って、サラは今度こそ通路に消えていった。


「……」

「……」

「……行ったな?」

「お行きになりましたね」

じっと通路の暗闇を見つめている面々。


 松明は一本渡したけれど、あの格好と松明片手にどうやって立坑を登るんだろう? 腕の稼働に邪魔になりそうな胸してたな……。


「お姉ちゃん行っちゃた」

「やわらかいおっぱい〜」

「何を挟むの〜?」

知らない人がいて、少し静かだったこどもたちが一斉に話し出す。


「よし、お前らそこに正座しろ!」

ディーンたちに向かって、カッっと目を見開くディノッソ。


 エンとバクの発言からして、三人組――いや、レッツェは我関せずなので除外? ――はどうやら破廉恥な話をしていた様子。


「なんでジーンまで正座してるんだ?」

「いや、なんとなく」

先ほどちょっとエッチなことを考えました。


 小声で話してたのに!? とか、ぎゃあ! とか聞こえてくるのをスルーして、レッツェに言われて立ち上がる。


「で? この箱にホワイルとやらがいるのか?」

「ふむ、なかなか可愛らしい」

「ジーン様は、後先考えずにやりたいことをやるのは、お控えになった方がよろしいかと」

いつの間にか背後にいた執事にダメ出しをされる。


「箱を置いただけだぞ?」

「どこから出した箱だ?」

視線をそらす俺、【収納】から出しました。


 レッツェは現場を見てないのにどうして突っ込んでくるのか。


「あと『精霊の蕾』は精霊の枝や神殿が抱える癒しの魔法の使い手のことだ。『精霊の花』はその中でも抜きん出た存在で、高い能力と一つ以上の神殿に推挙されてなれるものだ。一般常識に近いから気をつけろ」


 特定の精霊を祀っているわけでない『精霊の枝』に対して、神殿は神と呼ばれる精霊を祀り仕えている。そして信者も多いのでお金持ち。


 それにしても、やっぱり俺も正座に加わったほうがいいだろうか? あ、でも痛そう。ディーンとクリスの方をみたら、ちょうどシヴァにアイアンクロー食らっているところだった。


「む、初めて会った時に案内しそこねているな。今度『精霊の枝』を案内しよう」

「ありがとう」


 アッシュは俺のことをどう思っているのだろう? 思えば会った時からこっちの世界を知らないのを丸出しだった。


 アッシュが王都で『精霊の枝』の案内を飛ばしたのは、まさか知らない、行ったことがないとは思わないような場所だったからだろう。


 あれから一度見学にはいったのだが、水は家で汲んだほうが早いし通っていない。普通の人は何もなくても月に一度は行くような場所なので、『精霊の蕾』を知らないというのは怪しまれる発端になる。


 ちょっと真面目にカヌムの中を巡ろうか。下手するとナルアディードとかのほうが詳しいわ、俺。

 

 ディーンとクリスへの説教も終わって、積んでおいた鉱石の選別も終え、個人で持てずに置いてくジャッジが降ったものの中で、良さそうなものをエンが【収納】する。


 俺も内緒でカンテラが離れた隙に、エンがしまいきれなかったものを全部回収。


「よし、魔鉱石も目標よりたくさん手に入ったし、帰るか」

「猫はどうする?」

「どうもできんだろ?」

ディノッソに聞いたら置いてゆくことを特に気にしていない様子。


「捨て猫……」

「いや、精霊だし。俺にはというか、大多数には見えないからな?」

レッツェが諌めてくる。


「見てみたいものだけれどね!」

クリスが見えたら顎割れの精霊にどういう反応をするのだろうか?


「ちゃんと世話をするといいたいところだが、俺はもう犬を飼ってるし……」

自分のキャパ以上に飼うとは言えない。家を空けがちだしね。


「レッツェの部屋で飼わないか?」

「飼わねぇし、飼えねぇからな?」

レッツェならそばに特定の精霊がいないからいいかと思ったのだが却下された。


「ここに飽きて行くところがなかったら、カヌムの『灰狐の背』通り31番地Aの二階、A室に来いよ」

「俺の部屋じゃねぇかよ!」

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