第131話 強さの種類

 サラの言葉に、ディノッソたちが俺を見るが、俺は荷物を【収納】してしまっており手ぶらだ。


「パンとチーズでいいかしら?」

「ありがとうございます。ホワイルのお陰か、食べなくても体形も体調も変わらないのですけれどお腹はすくんですの。一週間ぶりです」

シヴァの差し出したパンとチーズを嬉しそうに受け取る。


 体調がかわらないためか、長く食べていなくてもお腹が減らなくなるということがなく、ずっと空腹が続くのだそうだ。なかなか辛そう。


「ジーン、荷物を取りに行く・・・・・・・・ついでに上の連中呼んできてくれないか? まだ間に合うよな? 解体しちまおう」

「この子は大丈夫かしら?」

「落ち着いているので大丈夫でしょう」

箱の中を眺めながらシヴァと執事が言う。


「ああ、じゃあちょっと行ってくる」

たぶん俺を怪しさ満点のサラから遠ざけるディノッソの気遣いだと思ったので、箱から離れ、立ち上がる。


 にょきっと箱から耳が出た。ついでに鼻もふこふこはみ出している。


「すぐもどります」

ちょっとだけ嫌な予感がしたが、離れてもどうやら大丈夫。


 カンテラを持って走る、ディノッソたちの明かりが見えなくなったところで本気で走る。


 立坑は忍者みたいにタン、タン、ターンとやろうとチャレンジして壁に後頭部を打ちました。大人しく手足を使って登ります……。


「なんかすげぇ音したぞ」

ディーンの声。


「三本ツノか!?」

俺の後頭部です。


「いや、魔物の気配じゃねぇが」

レッツェの問いに答えているディーン。


「何でまだここにいるんだ?」

最後は踏み切って、華麗に着地。後頭部の件は言わなければ分かるまい。


「ジーン!」

子どもたちが抱きついてくる。


「ジーン」

アッシュは怖い顔です。


「おお、無事だったのかね!」

「怪我はないようだな」

「お前、下、壊してないだろうな?」


 レッツェだけなんか違う!


 クリスの勘が働かなかったので、このフロアは安全と判断し、子どもたちの希望で一刻にじかんだけ待つことにしたのだそうだ。


 いざという時はディーンが止めている間に三人が子どもたちを抱えて外に走ることと決めて、立坑を眺める子どもたちを見ていたらしい。


「下はほぼ制圧したんで、解体しようって。あと変な大ふ……精霊と精霊憑きの女性がいた。黒い魔物も氾濫もなし」

子どもたちの背中をぽんぽんしながら状況の説明をする。


「変な女?」

「やわらかい感じの痴女」

ディーンの疑問に端的に答える。


「お前、女の子に厳しくね?」

「そうかな?」

「偽告白三連ちゃんの名残か」


 ディーンと話してる間に、レッツェたちが下に降りる準備を整える。ちょっと深めの立坑なので、子どもたちと一人ずつロープで結ぶ。


 レッツェが話しているディーンに何も言わずにエンをロープで結んでいる。つっこむべきだろうかちょっと迷う俺だ。いざという時の腕力的なものを考えた結果なのだろうけど。


 俺が先に降りて、松明で下から照らす。持って来たカンテラはレッツェが腰につけている。もういっそ全員に渡してもいい気がしてきた。


「あー。三本ツノのネズミの巣って感じだな」

「バルモア――ディノッソ殿よりシヴァ殿の方が多く倒している?」

「ふむ、見事な手際だ」

ディーンとクリス、アッシュが倒れた魔物を歩きながらチェックしている。


 子どもたちもいることだし、一旦集まってから解体作業に移るため、戻って来た道を今度はみんなで歩いている。


 歩みは止めないものの、カンテラを近づけては魔物の傷をチラ見して確かめる四人。


「予想外に魔法で倒された魔物が少ないな?」

「何で俺を見る?」

「いや、手ぶらだったし」

微妙に視線をそらすレッツェ。


「君が大技で坑道を崩さないか心配していたのだよ! さすがに生き埋めは死ぬからね!」

クリスがいい笑顔で言い放つ。


「ひどい!」

「お前大雑把だし、精霊つけてるし」

苦笑いしながらディーンが言う。


 あ。ディノッソが言ってた「普通に」強いって、もしかしてそう言う意味か? 


 そうだな、精霊が消費されることを知らなかったら俺も派手な魔法をばんばん使っていたかもしれないし、自分や剣に精霊を憑けて何かやらかしてたかもしれない。


 戦い方なんか知らないし。もうちょっと慎重に戦い方の観察しないとダメだなこれ。気をつけよう。


 でも俺の扱いひどくない?


「お母さん! お父さん!」

ディノッソとシヴァの姿を見て駆け出す子どもたち。


 二人の持つカンテラの明かりでそこだけ明るく、なかなかな感動の再会風景。よかったよかった。


「そういえばそこにいる女の子、お嫁さん希望だそうだ。ただ家事育児は全くできないししない宣言があった。それでもお嫁さん欲しい人は頑張れ」


「美人か?」

「愛しき人であるなら私が家事育児をするとも!」

「……その場合誰が働くんだよ」

あれ、クリスもお嫁さん欲しいタイプなのか? レッツェはなんか本当に堅実というか現実的というか。


 サラに挨拶に行った男どもの後をアッシュとついてゆく。猫は箱から尻尾が出ているので、まだそこに詰まっている模様。


「ジーンは?」

「俺はパス」

「そうか」

アッシュと短く言葉を交わしながら親子の再会と、ディーンたちの騒がしいやりとりを眺める。


 やっぱりいいなあ。


 ……などとしみじみ思っていたのもつかの間、大量の解体作業を泣きながらやる羽目になって早く帰りたくなりました。

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