第129話 置いてきぼり
「お父さん? お母さん?」
ティナが急に立ち上がってあたりを見回す。
「あれ?」
オオネズミの解体をしてたら、二人の姿がない。トイレ? いや、執事もいない。
「二人と執事は下を見に行った」
「下?」
「そ、俺たちは上に戻るぞ」
「なんで?」
レッツェの話に疑問を返したら足を踏まれた。
「……お父さんもお母さんも、黙っていなくなる時って危ないことしてる時」
自分の上着の裾を持って泣き出しそうなティナ。
「え」
金ランクで危ないって何するつもりだ?
「泣いて騒ぐと魔物が寄ってくる。二人を心配させたくなかったら我慢を」
アッシュがティナに言う。
ぶっきらぼうの怖い顔。たぶんどう言っていいかわからない顔。レッツェが俺の足を踏んだのも、子どもたちに余計なことを聞かせたくないからだろう。
聡いティナには即バレしたが。
オオネズミの三本ツノ。
三本ツノが現れると周囲を調査する。
魔物の生まれる理由は無理やり力を奪われ傷を負った人を憎む精霊が黒く染まり、それが動物などに憑くこと。
黒い精霊は、そばに憑き易い生き物がいれば、共食いよりも
黒い魔物は黒い精霊同士が共食いして強くなったか、もともと強い個体が憑いたもの。もしくは、魔物が強くなった存在。
戦争とかで魔法が使われまくると、傷を負う精霊の数が多いため、森に着く前に共食いをしたりで強い精霊が生まれるが、距離のせいかほぼ二本ツノ止まりなのだ。
だが、大規模魔法などでさらに消費される精霊が多くなると、三本ツノが出る。三本ツノが増えて、氾濫を起こすこともたまにあるが、あまりまとまりがなくすぐ沈静化される。
ただ、その上の黒が広がった魔物が出現すると、強い個体に惹かれるのか、どんどん魔物が集まる。そして魔物の数が一定量を超えると魔物は狂乱し、人を襲い、自身かその黒い魔物が死ぬまで止まることはない。
三本ツノの出現は黒い魔物の出現の前段階。一匹だけならよし、大量にいる場合は黒い魔物がいるのを疑う。
多分、その調査に行ったってことなのだろう。で、俺は内緒にされたらしい。気づけばレッツェが持っていたカンテラがない、多分三人に持たせたのだろう。
金ランクの二人と、執事にとって三本ツノの強さは脅威ではないけれど、闇とこの壁が邪魔をする。
特にディノッソは憑いている精霊からして火を使う。
まあ、火の魔法を使うっていうのは俺の予想なだけだけで、身体強化系なのかもしれないけど。
ディーンたちも置いてきぼりってことは、余裕があるのか足手まとい扱いなのかどっちだ? 黙って行ったってことは後者だな?
ディノッソたちが降りて行ったらしい立坑の縁に立って中を眺める。近い場所は松明の明かりに照らされて、壁の補強兼足場の板が見えるが、真っ暗な闇に飲み込まれてその先は見えない。
眺めながら【探索】の範囲を伸ばしてゆく。小さな気配がいくつか、ディノッソたち三人の気配、そのすぐ先に大量の気配。
「お父さん……」
「お母さん……」
「大丈夫、お父さんもお母さんも強いもん」
泣きそうな双子に自分も泣きそうなティナが言う。
ああ、やっぱり世の中には良い姉というものも存在するらしい。
「うん、大丈夫。お父さんもお母さんも、それにお兄ちゃんも強いから。ちょっと行ってくる」
ティナたちに笑顔で言って後ろに飛ぶ。
「ジーン!」
「アホか!」
立坑の縁に立っていた俺はそのまま穴に落ちてゆく。アッシュが名前を呼ぶのと、誰かの叫びが聞こえたが、あとは耳元で鳴る風の音で聞こえない。
結構深いが落ちながら新たに風の細かいのに名付けて、床が迫る前に下から風で押し上げてもらう。
ディノッソたちの気配に向かって走る。【収納】から『斬全剣』を取り出し、腰に引きつけるようにして走る。
走りながら火と光の精霊の細かいの――たぶんカンテラの火かディノッソの精霊が力を使った残滓――に名付ける。
坑道ワンとか坑道ツーなのは目をつぶってもらおう。
「俺の魔力を使え! 『灯り』」
明るくなる周囲、その間も足は止めない。
名付けなくとも周囲の精霊に力を借りて魔法は使えるけど、火の精霊も光の精霊も
ああ、もうディノッソたちが魔物の群れに着いてしまう。レッツェがやけに詳しく部位の説明だとか、子どもたちの喜ぶ例え話を持ち出してたのは、後追い防止の時間稼ぎかよ。
俺は強いんだぞ! 多分だけど!
「何!?」
「明かり?」
「ジーン様!?」
狭い坑道の先、三人が交戦中に駆け込んでオオネズミを倒す。
「置き去り禁止!」
着くまでにも名付けをした結果、結構広い範囲が明るい。薄明るいくらいでいいから広範囲を念じたせいもある。
「ははっ! おう、明るけりゃこっちのもんよ」
「敵はともかく、足元が見えないのが辛かったわね」
十二畳くらいの部屋、四方に通路、【探索】結果の敵のつまり具合から言うと、通路の先にも部屋がいくつか続く。
足元は幼虫かミミズが開けたのか、所々に穴が空いているが気にしない。森で黒精霊を追い回しながら魔物を払うのに比べれば、楽だ。
速さ重視で足運びはつま先を前に向けて、踏み込む。ネズミを斬り捨て、邪魔な幼虫を小石の精霊の力を借り、『
「って、お前! 力強いだけじゃなくって、普通に強かったのかよ!?」
「あらあら」
「普段、隙だらけでございますのに……」
正面の敵を袈裟懸けに切り下げ、横の敵を切り上げる。倒しても通路から敵が入ってくる。
そういえば人前で倒したのは一本ツノのウサギとオオカミとかのほかは、レッツェの前でキツネ倒したくらいか? あれも返り血を盛大に浴びて失敗したけど。
【探索】で背の敵も、敵に隠れた敵の存在も、ディノッソたち三人がどこにいるかも把握できる。常時展開と、結果を確認をするまでもなく把握できるようになるまで練習をした。
三人の攻撃の邪魔をしない位置どりをしながら動き、敵を倒す。
狭さ? 森の木々のほうが近かった。最初は敵ごと木を斬ってしまい、とんだ森林破壊だったけど。
それにこの狭さは時代劇で敵の屋敷に乗り込んだ時の広さだよ!
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