第128話 さらに下へ

「あ」


 棒が折れた。


「お前、棒が折れただけでこの世の終わりみてぇな顔すんなよ」

「気に入ってたのに」

ディーンに呆れられたが、折れないように真っ直ぐ力がかかるようがんばってたのに。


「今まで折れないほうが不思議というか、お前の無駄な技量に感心してたよ……」

ディノッソ、無駄って言うな、無駄って。


「剣を使え、剣を」

レッツェに言われて棒を捨て……


「薪にできるかな?」

「いいから棒を離せ。そして解体を手伝え」

「やりすぎでございます」


 折れた棒を顔に寄せて言ったらレッツェにぞんざいに言われ、執事にはたしなめられた。


 幼虫とミミズの山の前で笑顔の執事。見ると子どもたちとレッツェ、アッシュまでが解体している。


「うわ、ごめん!」

やり過ぎた。


「あら、ごめんなさいね。ふふっ」

「すまん」

「悪気はないのだよ!」

「いや、まあ……。すまんかった」


 犯人は俺を含めた五人。シヴァ、ディーン、クリス、ディノッソがそれぞれ謝り、解体に加わる。


 途中で競争のようなことになって、この有様である。まさかお子様たちが解体しているとは……。途中までは一緒に狩っていたはずなのだが。


 レッツェにダメな大人五人組みたいな顔で見られながら、真面目に解体する俺たち。


 取れるのは主に銅・鉄・硫化鉄、次点で金・銀。他に硫黄いおう・クロムが少し取れる。


 硫黄は黒色火薬の原料で有名だが、この世界に火薬ってあるのかな? ゴムに数パーセントの硫黄を加えて加熱すると弾性が増し、さらに添加量を増やすと硬さを増すだったかな? どっちも出回ってない気がする。


 【鑑定】結果は、干し柿、干しイチジクなどの漂白剤、ワインの酸化防止剤に二酸化硫黄って出てるけど。


 クロムはクロムメッキとかステンレスに使うのかな? 


 そしてこれらの中でも魔鉱石化したものと普通のものがある。大まかに分類しながらせっせと解体してゆく。そんなに大きな魔物ではないので、数はあるが取れる量は多くない。


 だが、幸い鉄が一番多いので、鉄と魔鉄を合わせ、普通の剣であれば全員に行き渡るほどだ。ディノッソとディーンの大剣を考えると全く足りてないが。


「ふう、ようやく終わった。休憩しよう」

「この幼虫も焼けば独特で美味いって聞くけどな」


 やめろ。虫食は都会のもやしっ子にはきつい。なんか、休憩が飯かおやつに直結してる。


「ああ、カブト虫はダメだが、クワガタのほうなら」

おい、レッツェ。ディーンの話に乗るのはよせ。


「というか食ったことあるのかよ!」

「食えるって聞く、毒のない魔物は一回口にしとくことにしてる」

なんでもないことのように答えるレッツェ。


 そこまで知識蓄えなくていいと思います。何かの理由で食料が尽きた時に活用する知識、なのか。ただの趣味だったらどうしよう。


「じゃあ、もう二階層一気におりて、大ネズミを狩りながらイラド狙いで行くか」

ディノッソが言う。


 生まれた疑惑について考えてたら、話がまとまっていた。そう言うわけで休憩を終えて、立坑を降りる。


「あれ? なんでここに積んであるんだ?」

「重いから置いてったんじゃね? この層まで降りてきたら魔鉱石狙いだろ」


 降りたそばの壁際に鉄とか銅とかがちょっと積んであった。レッツェの言うようにここで地上うえに持ってゆくものを選別したのだろう。重すぎる荷物を抱えて立坑を登るのは大変そうだし。


「よし、もらって行こう」

「帰りになさいませ」

間髪入れず、執事に止められる。


「きゃっ」

ティナの小さな声。


「おっきい!」

「でっかい!」

双子から上がる驚愕の声。

 

 ここに出るネズミは最初に倒したネズミの比でなくでかい。どーんと軽自動車サイズ。


「ここのネズミ、クマより大きいのか……」

「アホか! こんなの普通はいねぇ!」

「三本ツノだよ宵闇の君! ……ジーン!」

感心してたら慌てた感じのディノッソとクリス。クリスは名前で呼べって頼んだら、頑張って名前で呼んでくれている。


 ディーンとアッシュ――俺と子どもたち以外がすでに戦闘態勢。シヴァは子どもたちを背に、後ろに下がっている。早いよ!


「聞いちゃいたが、強い魔物が増えてるな」


 ディノッソの大剣が炎をまとう。


 踏み込み、オオネズミが目測を誤って攻撃が逸れてしまったようにしか見えない少しの動きで尻尾と爪をかわし、力を込めたとも思えない一撃。それだけでオオネズミの頭がひしゃげ地に伏す。


 緊迫した雰囲気は一瞬で、あっという間に屠られる大ネズミ。


「さすがは王狼殿」

アッシュが剣を納めてディノッソに賛辞を送る。


「まあね。まだまだ若いものには負けられねぇし」

バチンとウィンクして笑うディノッソ。


 相変わらずちょっとひょうきんで気負ったところがなく、飄々ひょうひょうとしている。


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