第127話 棒
七、八匹のネズミが群れたところを、子どもたちに倒させ、取り逃したものは執事が突剣で突いたり、クリスが華麗に一撃を入れたり、シヴァが包丁で仕留めたり。
「いや、シヴァ? それは何かな?」
ディノッソが引いた笑顔だ。
「大丈夫、お料理には使わないから」
いい笑顔のシヴァ。
俺を見るのはやめてください、ディノッソ。責めるのは自分が奥さんに勝ててからにしろ。
シヴァの本来の武器は短めの双剣、そしてシヴァに憑いている氷の精霊が力を貸す精霊武器。ここは狭い上に人が多い、そして周囲が冷えるので使えないのだそうだ。
振るうと温度が下がって、寒くていられないだろうからって。本人は吹雪いていようが平気らしい。
「うーん、この辺のネズミは魔鉱石の量が少ないな。砦の連中がアメデオたちの取り巻きが何度か入ってるって言ってたから、浅い層は
レッツェが芳しくない顔で言う。
魔物化した奴らが体内に魔鉱石を溜め込むにはそれなりの時間がかかる。レッツェいつのまに情報収集したんだ?
「移動だ、もう少し奥行くぞ」
「はーい」
「はい!」
子どもたち三人の声を追って、ディノッソの言葉にきらきらしたかんじの返事をするディーン。
クリスもいつもより行動は張り切ってるけど、いつもの美辞麗句を並べたセリフが鳴りを潜めてるし、ディノッソって本当に憧れられてるんだな。
レッツェも行動は変わらないけど、すごいって言ってたし。ただなんかディーンとクリスの様子を見て、浮かれた気持ちが引っ込んだとも言ってた。気持ちはわかる。
坑道の立坑を降り、さらに下の階層へ。下はさらにじめじめ、水がしみている。落盤・落石などを防ぐため、天井や坑壁を支える木材が湿度により腐食劣化し、石も崩れてる。
大丈夫なのかこれ?
「剥がれるように一枚が落ちて砕けた後だな。絶対崩れないって保証はできねぇけど、ここの岩盤は硬いからそう簡単に一気に崩れるってことはないと思うぞ」
崩れた石を見てたら荷物をゴソゴソしながらレッツェが説明してくれた。
「この層になるとミミズと幼虫も出てくる、濡れてるとこより乾いてる場所が崩れるかもしれねぇから気をつけろ」
ディノッソ。
ミミズと幼虫が穴を開けるから、そっちに水が流れるらしい。
「どれ、試そうか」
カンテラに明かりが灯る。
「うを、なんだそりゃ?」
ディーンがレッツェに聞く。
カンテラの上部に円錐を逆さにしたような反射鏡をつけてあるので、火の大きさの割に光が拡散されるようになっている。
菜種油から卒業しようとして、木酢液の蒸留をしてメタノールをつくったんだが、失敗。メタノールとかエタノールを使うアルコールランプは照明じゃなくって加熱用でした……。コーヒーのサイフォン用にしたからいいけど。灯油が欲しい。
「流石に松明よりゃ暗いが、取り回しも楽だし、やっぱいいなコレ」
レッツェがカンテラを振る。そりゃ、松明に比べたら軽いし小さいし。
「ほう? 中は蝋燭ではないのですな?」
執事がカンテラを興味深げに眺める。
「美しいね!」
「うむ」
クリスとアッシュ。
子どもたちも見たことのないものに興味津々。
「蝋燭よりゃ火が消えづらいんで野外にはいいぞ。ただ魔物を焼くとか威嚇するとか……、そっちの使い方はできねぇな。ほれ、ちょっと交換してやるから松明貸せ」
レッツェがそう言って、エンの松明とカンテラを交換する。
「落とすなよ」
「はい」
「次、僕持つ!」
「ダメ、さっきの順! 次は私!」
カンテラ【収納】にあるんだが、ここで人数分出すのは何か違う気がする。さっきレッツェに松明に他に使い道があるのを聞いたしね。
ディノッソはなんか眉間を抑えてるけど。レッツェから俺の名前は出されてないのに俺の方をチラ見して頭を振るのは何故だ。
執事は料理に、シヴァは刃物に興味を、レッツェは鞄とか道具類に興味があって甘いことはわかった。
カンテラが子どもたちの手に渡ったので、棒の役目は怪しい場所をこんこんするだけになった。
「ああ、乾いてる。穴があるな」
ごすっと穴に棒を突っ込んだら、戻した棒に白いものがついてきた。
ぶにぶにとして、頭部がオレンジ色した幼虫。カブトムシの幼虫っぽいが、大きさが二リットルのペットボトルくらいある。ツノが一本あって、ギチギチ音を立てている顎が、牙と言って差し支えないくらい鋭いし強そう。
「なるほど、長い方が便利だな」
感心するディノッソ。
「よく皮を破れたね!」
「結構丈夫な上、中身が動いて衝撃逃すから破れねぇんだよな」
「細さと速さの問題か」
クリスとディーン、アッシュが感心してくれたけど、狙って倒したわけではなく、たまたま突っ込んだ穴に魔物がいただけです。
穴の中に潜む魔物は突剣組が活躍。ただ、大物は頭が大きくて穴から狙えるのが硬い頭だけなので大剣組のディノッソとディーンに軍配が上がった。
魔物なので穴に閉じこもっているってことはなく襲ってくるのだが、獲物が近づくのを待って、穴から顔を出して酸を吐いてくる。なので俺は棒で穴の近くを遠くからこんこんやって酸を吐かせるお仕事をしてた。
子どもたちはお父さんに習って石を投げて吐かせてたけど。
「……」
こうか?
こんこんして顔を出したところを酸を吐く前にゴスッと。
「凄い。凄いけど解体大変だから酸は吐かせろ。あと全部棒で済ませるな」
レッツェが感心しながらも教育的指導をしてくる。
「ジーン様の新しい武器は棒を……いえ、なんでもございません」
「魔鉱石で作る棒……」
執事とディーンの会話がひどい。
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