第124話 焚き火

 焚き火を囲んで夕食。

 シヴァが香草をすりこんだ魚が遠火で炙られ、串の先に付けられたベーコンやチーズが焼かれる。


 鹿肉も少々。ただ大部分は寝かせるために俺が保管中。ディーンやディノッソは堅くてもいいみたいだけど、今日は魚もあるし。


 正直に言おう、内緒で麹を持ち込みました。鹿肉に塗りたくってます。魚用に昆布も持って来たけどな!


 今回は馬なので行きの荷物が多少かさばっても平気なのだ。馬たちのいる場所もシートをかけてある。最初は馬カバーというか、馬の背にかける寒さ避けを作ろうかとおもったのだが、種類によっては暑く感じてしまうかもと風除け雨除けに落ち着いた。


 燕麦の入った袋の口を開けて木にくくりつけてあるので、ルタたちもおいしくモグモグしているはず。


 真っ暗な中、パチパチという焚き火の音が小さく響き、オレンジ色の火が辺りに陰影を作り出す。


「チーズとハム〜」

「ベーコン! チーズ!」

「チーズとベーコンと鹿!」


「楽しそうで何よりだが警戒しようぜ、警戒」

同じ間違いはしないぞ、俺はちゃんと警戒している。あと野菜も食え。


 問題は【探索】を使わず、自力の場合はさっぱり気配がわからないこと。チーズをうっかり落とさないように慎重に溶かして、串の先を引き寄せてパンに乗せてパクリ。


 チーズは当然ラクレットチーズ。スイスで暖炉で溶かすといったらこのチーズだ。そのままだと俺の感覚では臭いんだけど、焼くと臭いも緩和されて、とろけたところとカリッとしたとしたところが混じってとても美味しい。


 焼いた玉ねぎにかけてよし、蕪にかけてよし、ベーコンにかけてよし、何にかけても美味しい。


「俺の知ってる野営と違う」

「しばらく冒険者家業からはなれているうちにだいぶ便利になったのね。他にも何か変わったのかしら?」

ディノッソとシヴァが戸惑っている。


「最近流行の野営ですな」

微笑む執事。


「流行ってんの!?」

「主にこの面子で」

魚に手を伸ばしながらレッツェ。


「お前かっ!?」

ばっと俺を見るディノッソ、ばっと顔を背ける俺。


 犯人を特定するのはやめてください。


「ハンモックはツノアリのオオトカゲの皮だし、くるまってた方がこの辺の魔物に対しては安全かもしれないとかなんとか」

視線を逸らしたまま性能説明する俺。


「小鬼は火を使うから絶対じゃないが、反撃するなり逃げるなり時間には余裕ができるな。あとオオトカゲとかはっきり言うのやめろ」

レッツェの補足に、思わずホイル焼きを想像した。小鬼はサルの魔物のことだ。


「今更でございます、が」

「人が全力で気づかないフリをしてたっつーに、バラすんじゃねぇよ」

「どう考えても私たちが狩ったものと、量が合わないからね!」


 微妙な微笑みを浮かべる執事と、ベーコン付きの串の先をぷらぷらさせて俺に向けるディーン。周囲のタープとハンモックを見渡して、案内するように手を体の中心から外側へ持ってゆくクリス。


「む、これは……」

我関せずでマシュマロを焚き火にかざすアッシュ。


「木苺のジャムあるぞ」

チョコレートとかバナナも投入したいが、叱られそうなので自重中。


 アッシュは甘い物が好きだけど、酸味があればなおよし。苺と生クリームの組み合わせがイチオシのようだ。


「爆弾発言しながら絶対目を合わせない男がいるよ」

気のせいです、レッツェの声は聞こえません。


 話しながらきれいに食べて、食事の後始末。


 俺と子どもたち、ディノッソとで臭うものは魔物や肉食獣はもちろん、ネズミなどがよってこないように川に流しにいく。


 子どもたちと手を繋いで歩く真っ暗な森は、どこか肝試し大会を彷彿と……しない。明かりがないことに慣れている子どもたち、ディノッソちちおやがいれば暗かろうが森だろうが絶対安全と安心している気配。


 戻ると杉っぽい青々した葉を焚き火にくべて食べ物の臭い消し兼、虫除けをしているレッツェ。


「雨が降るだろうから意味ないだろうが、虫除けに下に置いとけ」

白い煙の上がる枝を渡され、それぞれハンモックの下に設置。


 ハンモックはいざという時に降りやすいように大人の膝の高さくらいにしようと思ったのだが、雨の気配が濃いので腰の高さ。


 慣れずにバランスを取ろうと力むと疲れるけれど、身を任せればだるんといい感じ。そのままシュラフ――袋になってないけど――にくるまってお休みなさい。


 俺の見張り番は、朝の最後から三番目。見張りをしたらそのまま起きて、家に行くからもう寝る。


 早寝早起き! 明日の起きる時間は朝というには早すぎるけど。眠りに落ちる間際、シートを打つ小さな雨音がポツポツと聞こえて来た。


 見張りは寒そうだけど、眠くなった俺の耳に心地いい。

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