第123話 野営準備中

 オレンジで執事に教育的指導を受けつつ、森のヘリを北東に進む。 


 だって家に鈴なりだし、日本のスーパーでのイメージもあるし。特に日本での価値観を払拭するのはなかなか難しい。確かにカヌムはオレンジが育つにはちょっと気温が低い、せめてみかん?


 それはおいといて、この辺では城塞都市が森に切り込むように一番東にある。目標の廃坑は城塞都市のさらに東に森に埋もれている。城塞に寄る予定はないが、あんまり森の奥では馬が進めないので、時間を考えると森のヘリを進むこのルートが一番早いのだ。


 水場の関係でまっすぐ向かってるわけでもないし、整備された街道もないから記憶と地形頼りだ。大まかな方向はともかく、途中の森の中にある池の場所とかよく覚えてるなと感心しきり。


 普通は遠回りでも街道を行くけれど、ある程度強くて狩りが上手ければ森に近い方が水にも食料にも困らない。街道筋にある宿屋とかぼったくりだし、芋洗のように部屋に詰められるし。


 それでも屋根と壁があるのはありがたい、あの最初の島での生活を考えるとそう思う。


 一度、結構大きなサルの集団にあったけど、最初の数匹を倒したら出てこなくなった。


「黒い色のサルの群れは一匹を倒すとその群れ全部が執拗に追ってくるから気を付けろ」

ディノッソが子どもたちに教えるのを真面目に聞く俺。


 黒いサルは避けられるだけ避けよう。


「もっと南にいるピンク色のサルは、一番色の薄いサルを倒すと恐慌状態になるのだよ!」

ビシッとポーズを決めるクリスにお子様大喜び。


 クリスは子どもに人気、オーバージェスチャーを面白がってるだけでなく、たぶん子ども相手でも大人の時と態度をかえないから。


 レッツェも執事も三人が見ていると分かると、手順がわかるよう説明を挟みながらいつもよりゆっくりこなす。


 ディーンも気のいい兄ちゃんみたいな感じで相手をしている。アッシュは怖い顔にならないように頑張った結果怖い顔になっている。それでも子供たちの方が慣れたらしく、だんだん交流が増えてきた。


 こんな具合に便乗学習する俺。


「いいか、ジーンをお手本にするなら普通に戻れない覚悟を決めろよ?」

真面目な顔で子ども三人に言い聞かせるディノッソ。


「なんかひどい」

「私も同意見でございます」

笑顔の執事、それはディノッソに? 俺に?


 ハンモックを設置してみただけなんだが。空模様もあやしいし、地面に近いのはちょっと不安、森の中だしロープを結ぶ枝には困らない。


「しかしながらこれについては戻らずともよい気にもなっております」

オオトカゲのシートの端に並ぶハトメにロープを通して両端をキュッと絞り、ロープを木に掛ける。


 さっさと真似してハンモックにしている執事。その上にロープを張って、シートをかけてタープを作るのも一緒。


 シートは大小一枚ずつ、全員に渡っている。リュックともどもご愛顧いただいています。オオトカゲの皮は丈夫でちぎれたり破れたりがほぼないんで、とても便利。


「戻った」

「お魚がたくさん取れたわ〜」

「またやらかしている気配がする……」

アッシュとシヴァ、レッツェ。


 本日の食材調達班はこの三人とディーンとクリスの五人。取れなくてもそんなに困らないだけのものは各自持ってきているけど、腹一杯食えるならそれに越したことはない。


「留守の間に寝床の用意はしておいたぞ」

「いやもう寝床とか言われても見たことない風景がだな」

森にお子様大喜びの一角が出来上がったことについては同意する。


「たっだいま! クロジカ!」

「大物なのだよ!」

ディーンとクリスが肉を抱えて帰ってきた。皮を剥がしてすでに処理済みなため、俺には元の判別がつかないんだが。


「おお、素晴らしいですな」

「お帰り、お疲れさま」

執事と俺とで肉を受け取る、魚はシヴァとレッツェにお任せ。


「で、なんだここ?」

「なかなか個性的だね!」

ちょっと半眼になってるディーンと笑顔であたりを見回すクリス。


「揺れるの、楽しい!」

「ベッド!」

「寝床!」

きゃっきゃとはしゃぐ子どもたち。


「こら! 今は危険な外で野営中! 楽しむのもいいけど、やることをやる!」

子どもを叱るお父さん。


 いくら人数が多く、魔物が近づいてこないとしても、少しの油断がひどいことになる可能性がある。


「はーい」

三人分の返事を残して、他の手伝いにパタパタと走ってゆく子どもたち。


「あらあら、これの犯人はジーンね?」


 うっ!  


「悪気はない」

絶賛目を逸らす俺、子ども三人がはしゃいでるなって微笑ましく見ていたのは俺です。


「いいのよ、これは快適そうだし、最初から完璧にできるほうが怖いもの。叱って教えられるのは親の特権。ただ、ジーンもうちの子たちみたいに警戒心がないみたいだから――」

笑顔で気をつけなさいとシヴァに注意される俺。


「お前、作業に夢中になると魔物が出ても気づかなさそうだしな」

ディノッソにも駄目押しをされる。


 ディーンもクリスも騒がしいし楽しそうだけど、魔物の気配に敏感ですぐに対処ができる。というか、俺と子どもたち以外の全員が差こそあれ対応できる。


 十八年間日本で培ってきた警戒心のなさは、なかなか治りそうもない。精霊に危険物のお知らせを頼めるし、いざとなったら【探索】をかけっぱなしという手もあるけれど、せっかくなので人がいるうちに学習しなくては。


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