第120話 一応確認

「ずれてると思ったらルフじゃなくて異世界人かよ」

「ヤバイ情報だらけだった気がする」

「勇者たちとの関係を伺っても?」

「黙秘します」

姉との関係は未だ俺をイラっとさせる。


「情報過多で処理しきれないしツッコミきれねぇ」

レッツェたちがこぼしながら帰っていった。


 俺も火の始末をして家に【転移】。リシュが駆け寄ってきたのをなでて、暖炉の火をおこす。燃え果てているように見える薪は、炭になってくすぶっている。新しい細い薪を置いて、火かき棒で空気を送れば簡単に燃え上がる。


 なんか目新しい物を作り出すこと、精霊が見えて強いこと、その割に情緒が育っていなくて利用されるのではないかということ。


 色々狙われる点を並べ、自覚するよう口を酸っぱくされた。俺としても色々オープンにして、さあどうだと驚かれるのに身構えていたのだが、驚くよりも心配の方が先に来たみたいだ。


 すでに勇者は三人いるし、精霊が見えるものは俺の他にもいる。物作りはするつもりだが、ジーンとしては表に出るつもりはない。回復薬は今更だけどね。


 レッツェはヤバイ情報だらけだと言ったけど、一番ヤバイのは契約した精霊を人につけられることだろう。下手したら精霊憑きで揃えた一軍とかできるし。


 アッシュはアズのことを執事にも詳しく言っていないようだけど。初期の頃は色々粗相がですね……。アズがアッシュにも懐いているからかもしれんけども。とりあえずは黙っておこうと思います。


 リシュと綱引きをしてしばらく遊び、風呂に入って寝る。


 本来、風の大神が石化するのを待つべきところ、リシュは戦っている。その戦いで風の大神の石化は早まり、リシュも力をつけ次の召喚を行う神に決まった。


 そしてリシュは世界への道を通すことに失敗して力の大部分を手放している。わざとかな? わざとな気がする。うちの子賢いから。


 ベッドの隣のリシュの寝る籠に手を伸ばし、ちょいちょいっとなでておやすみなさい。


 翌日、朝のルーチンは変わらない。今日は畑にパルとイシュが、果樹を植えてある場所にカダルがいた。


「精霊が石になる前兆ってあるんですか?」

「先ず、言動がおかしくなり、姿を消せなくなる」

表情も変えずにカダルが答える。


「ミシュトとハラルファは大丈夫ですか?」

彼女ら二人は純粋な光だけではないけれど、力を失った状態の光の玉より早く石化してしまうのではないかという不安がある。


「おや、心配してくれるのじゃな。可愛らしい」

「うをっ!」

いきなり俺の背後にハラルファが現れ、耳に息を吹きかけられる。


 飛びのいて距離を取る俺。胸の谷間、細い腰、丸い尻、張った太もも、それらを強調する服。楽しそうに細められた目に、ニィッっと両端が上がった唇。


「これ、揶揄うでない」

「相変わらず堅いのぅ」

ブラッドオレンジの実をつけた枝を眺めていたカダルがハラルファをたしなめる。


 安全圏はカダルの後ろか。いやでも美女から隠れるのは男としてどうだ?


「おぬしが予想よりはるかに多くの精霊と契約しておるのでな、我らの眷属が増えておるのじゃ」

「眷属が増えれば力の器も広がる、少なくともナミナより先に石化することはない」

なるほど、俺が契約した精霊が自分と同じ系統の強い精霊の眷属になってゆくのかな?


「物質と精神は?」

「今は精霊が多すぎる、このまま増やせばよい。だが建物のつなぎ・・・は感心せぬ。精霊の宿る灰を混ぜるか、蜂蜜と小麦粉を使うがいい」


 などと意味不明なことを言って姿を消すカダル。


 聞けば答えてくれるけど、勇者を守護した神は勇者の行動のぞみを制限してはいけないそうで積極的な指示はない。逃げてきた精霊と契約してくれって頼みだけかな。それもカダルは注意したみたいだけど。


 俺も全部聞いてやるのはがんじがらめになりそうなんで、必要最低限にしてる。自分で調べた方が楽しいし。


「ほほ、あの堅物が照れておる。珍しいものを見たぞぇ」

カダルが消えた場所を見ていたら背後にハラルファ。


「明日の準備しなくちゃ!」

慌てて逃げ出す俺。


 そういうわけで昼前に明日の出発の準備。


 回復薬よーし! シートと寝袋もどきの天日干しよーし! 【収納】の中のもののチェックよーし! 家畜の餌の買い置きよーし! 弁当以外のリュックの中よーし!


 特に買い足ししたいものもなくあっさり準備完了。しばらく日本食が食べられない気がするので昼は魚介にしよう。


 お寿司、お寿司。さくにとって寝かせておいた魚の皆さんの出番です。ショウガよーし! わさびよーし! もみじおろしよーし! 万能ネギよーし!


 鯛は新鮮なものと昆布締めにして寝かせたものの2種類、前者はコリっと味は淡白、後者はねっとり甘い。春子鯛も旬。

 スミイカ、ヤリイカ、コウイカの食べ比べ。イカは透明に近く、綺麗だ。【探知】のおかげで寄生虫を処理できるのが素晴らしい。

 サヨリはちょっとショウガを乗せて。引いた皮は香ばしく焼いて箸休めにパリッともぐもぐ。

 ヒラガイ、ホタテ。ホタテは浮気してバター焼き! バターと醤油って食欲を煽ってくるよね。ガリと緑茶で口の中を流して再び寿司。

 クロマグロの赤身と中とろ、大トロはそれぞれ厚みを変えて。すし飯はふわっと板に置いたら隙間が埋まってネタの重さで沈む。

 美味しい海苔と新鮮なきゅうりで河童巻き。細かく千切りにしたきゅうりにゴマ。

 お吸い物はハマグリの潮汁。


 一人寿司を堪能、これで自分じゃなくて誰か握ってくれたら最高なのに。イクラはもうお腹いっぱいなんで、そのうちイクラ丼にしよう。柵も全部使ったわけじゃないので、しばらく寿司セットは【収納】に常備。


 夜はラーメンにしよう、そう思いながらちょっと食休みして図書館に転移。


 建物のつなぎってなんだろ?

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