第119話 普通、勇者は国に囲われる
「いや、でも姿どころか性別が変わることもあり得るか。やっぱり見ないとわからないかな」
なんか変な設定作ってるってことはないと思うけど、姉の友人二人のことはよく知らない。
姉は自分大好きだし、そう変わってはいない気がするけど【美貌】とか【若さ】とかつけてそうだ。男の方はなんか自信満々だったからいきなり幼女になってるとかそういうことはないだろう。女の方は色々言いかけてはやめる系だったのでよくわからんけど。
「忘れてくれ。近づく気はないからわからん。無意味だった」
配られた手札に目を戻す俺。
「名前はハルカ、ヒサツグ、ユカ、ジンだそうだ」
レッツェがカードを替える。
「あー。確定確定」
おざなりに返事をして、俺もカードを二枚捨てて二枚引く。
テキサスホールデムでも流行らしたら面白いだろうか。手札が最初から五枚って、小学生のころやったポーカーだなこれ。分かりやすいけど、運の要素が強くて高度な心理戦とはいかない。
やめよう。駆け引きじゃ俺が負ける未来しか見えない。
それにしても、姉が俺を愛してるとも思えない。でも執着はされてそうではある、自分の所有物だと思ってるくさかったからな。
……なんか姉に心から従順な弟に改変されてそうで気持ち悪いな。
「――勇者召喚は四人喚ばれた、であってるか?」
視線は俺に向けたまま、カードを替えるディノッソ。
「勇者は三人、俺は巻き込まれ」
「能力的には同等ということでしょうかな?」
執事は一枚交換。
「さあ? 俺はものを作る方に全振りだし、祝福をうけた神も違う」
「かつて魔の森にリシュという神がいてだな……」
レッツェが半眼になって言う。
祝福を受けたのはリシュからだけじゃないし、元の条件も違うけどね!
「戦闘スキルに傾いてたらお前より強いのかよ……。戦い方に慣れる前、育ててる神が強くなる前に倒さないとやばいんじゃね? よっぽどのことがない限り勇者のチェンジリングは勇者によって守られるって聞くぜ?」
ディノッソ。
「ジーン様は勇者たちを放って置かれてもよろしいので?」
執事。
手番にならないと話せないルールでもあるのか?
「そもそも世界は勇者が早々に自滅しても、強くなってもいいように出来てるっぽいし」
空気を読んで手番で発言しますよ。
「まあ、三、四人でガラッと世界変えられても困るけどよ。フルハウス」
「勇者は世界の安定のために喚ばれるって聞く割にゃ、毎度なんか起きてる伝承が残ってるな。フォーカード」
ディノッソの言うように、例えばあの図書館の元となった本の収集癖のある為政者の国は勇者が現れた年代に滅びている。
この世界の文明が進まないのは、定期的に破壊が行われ文明が衰退するからのようだ。そして大昔の話が残るのは精霊が長生きだから。
「
笑顔で手札を広げる執事。
どいつもこいつも強い役ばっかり揃えおって!
「安定は政争や暮らしの、じゃなくて精霊の、だな。精霊が偏ると人の生活に影響が出るから一緒だけど。精霊が増えすぎたり属性が偏るとそのまま一極化が進む。勇者が精霊を消したり強くしたりするのは、一極化して息が詰まる前に換気してるようなものなんだろ。――ロイヤルフラッシュ」
でも今回は俺の勝ち。
「ああっ! おま、ここで最強揃えるとかやめろ! あと換気とか言うな、換気とか」
「煙突が詰まると部屋の中の空気が体に悪いものに変わると聞きますが……」
「ノートは真面目に考察始めるな」
ディノッソが一人で何か忙しそう。
「身近なものに例えられると、世界規模の問題がいきなりハードル下がるな。お前、強く見せたいならその辺なんとかしたほうがいいぞ」
「小難しいことを喋れということか……」
レッツェの言葉に頑張って小難しい例えを探す。
例えば酸素中毒。超高分圧の酸素を摂取した場合や、ある程度高分圧の酸素を長期にわたって摂取し続けることによって、身体に様々な異常を発し最悪の場合は死に至る。ただ、圧力も問題で低圧にすれば問題は生じない。
空気が世界で、酸素が偏った精霊で、圧力が物質とかそういうこう……。
「まああれだ。全部の属性の精霊が平均的に増えて、物も増えれば問題ないっぽいけどな」
小難しい例えを諦める俺。
物質と精神のバランスがどうこういってたけれど、こっちの世界はバランスが取れているようには見えない。風と光の精霊が多すぎるし、聞いていた話より精霊が見える者が多い。
バランスをとるには精霊を減らすか、物を増やすか。勇者がやってるのは前者、俺がやってるのは後者。
物を増やすというのがこの方向でいいのかわからないけど、建物がにょきにょきはえてた帝国が長い歴史を誇った記録があるのでいいんじゃないかな、と。
ちなみに勇者の力を受けて突出して強くなると、精霊は
石化を止める方法は、他の属性の精霊の影響を受けること。そうとわかっていても、精霊が力を取り入れ眷属を増やすのは本能なので自分ではやめられない。
図書館に篭って色々調べた結果、俺はせっせと物を作って、細かい精霊と契約を結び、勇者たちが何をしようが放置することに決定した。
物質が増えてれば勇者召喚自体は必要なくなるだろうし、あっちは無視して商売を頑張ろうと思う今日この頃だ。
力が分散するように細かい精霊と大量に、属性に偏りがないようにせっせと契約を結んでいるけど、リシュが石化しないように気をつけないと。家で他の属性の神々とも交流があるし、大丈夫だとは思う。
三人分の力が流れ込んでいる光の玉は石化するんじゃないかな? 祝福を受けた神がいなくなった後の勇者がどうなったかの記録は少ないけど、少ないが故に国からどんな扱いを受けたか想像がつく。
人々を癒したり災害から守った勇者はちゃんと余生まで記録が残ってるのが多いし、その辺は普段の行いですね!
「なんか悪い顔してるな?」
「気のせいです」
レッツェのジト目が続いている。
「局所的にはた迷惑ではあるが、放置しといたほうがいいってことか」
「話を聞く限り直接的な被害がない限り関わらないほうがよさそうですな」
ディノッソのため息と執事の困惑。
「最初のディノッソの結論に戻っただけだろ」
俺は俺の周りが平和ならそれでいい。
「結論は戻ったけど、色々知らなくていい知識が確実に増えたからな? 特に巻き込まれ野良勇者の情報、俺ら三人胃薬買う話になりそうだからな? 一人で涼しい顔しない!」
「イタタタタ」
レッツェがほっぺたをつねってきたんですけど、酷くないですか? あと野良勇者とか言うな!
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