第118話 遠い国の情報

 遠乗りから帰った晩、集まったのはディノッソ、レッツェ、ノート。今度の遠征の打ち合わせだ。


「と、いうわけで宣言されたわけだが。俺って弱いのか? 世界の基準はどこ?」

「惚気はよそでやれ」

真剣な表情で手札に見入っているレッツェ。


「世界の基準ってなんだ」

「お嬢様は、騎士生活が長ごうございましたので……」

ディノッソと執事はカードを見るともなしに見ている感じ。


「一応、今ならこの街を更地にできると思う」

「さらりと嫌なカミングアウトしやがった!」

「ノート?」

「――対応の範囲外でございます」


 ディノッソ、レッツェ、ノートと机を囲んでトランプに似たカードゲームをしている。いや、今度の遠征の打ち合わせですよ、打ち合わせ。


 二階にゲーム部屋作ろうかな? カードゲームってなんか四角ではなく丸テーブルでやってるイメージあるし。


「お前、弱いというよりあんまり戦うイメージというか、命のやり取りするイメージねぇなあ」

カードを替え、一瞬渋い顔をするレッツェ。


「台所か井戸端で鳥をさばいているイメージだな」

「家を清潔に保っているイメージでございます」


 否定はできない。


「特に必要がないからやらないだけで、俺だって布団作るために鳥の虐殺とか普通にしてるぞ。ベット」

カードを引いて、コインを一枚追加。


「戦う理由がふわふわしてるんだな。……と、チェック」

レッツェはコインの追加なし。


「レイズ。まあ、ぷっつんきて更地にする前に相談しろよ?」

ディノッソは倍賭け。


「大量破壊兵器宣言を前に危機感が足りない気が致しますが……、ご人徳でしょうか。コール」

執事も同じだけコインを中央へ。


 人畜無害で有名だった日本人ですよ。


「フォーカード」

「うわっ。弱気チェックはブラフかよ」

そう言って投げ出されたディノッソのカードはキング三枚五が二枚のフルハウス。


「なかなかでございますね」

執事の役も同じくフルハウス、ディノッソよりいいカード。


 俺? 俺はツーペアです。


「急ですまんが、出発を明後日に早められねぇ? ディーンとクリスには話してある」

負けたディノッソがカードを新しく配る。


「可能かと思いますが、何かございましたか?」

「ジーンが言ってたローザ一味からニーナってのが来た」

「ローザ一味って……」

レッツェのこのつぶやきは流された。


「早いですな」

「疾風の精霊の魔法を受けて、一番足の速いのが来たらしい。二、三日中にはローザとやらが着くそうだ」

「ああ、それで出発」

合点した俺。


「勇者が召喚された話って知ってるか?」

「ああ、それも知ってる」

というか当事者に近いです。


「喚ばれた勇者は四人、だがどうやらその中の一人はチェンジリングらしい」

他の二人が頷いたのを確かめて、話を続けるディノッソ。


「チェンジリング? 取り替えっ子だっけ?」

妖精と赤ん坊の。


「普通は精霊が肉体にくを持った不完全な聖獣と、人間の子との取り替えだ。聖獣が自分で身を守れるほどに育てばどこかへ消える。だが、勇者のチェンジリングは違う」

カードを伏せて、ブランデーのグラスに手を伸ばすディノッソ。


「元の世界に残してきた愛する者の写し身、ですか。人の記憶は曖昧なもの、それにずっと姿を思い描いているなど不可能。不完全なそれ・・安定ちからを得ようと精霊を食らうと聞きますが?」


「実際に精霊を食らっているところを見た者がいるそうだ。ニーナの話じゃ、すぐ始末されて誰がチェンジリングか分かんねぇそうだ」


 なんで四人いるのかと思ってたらそんなことになってたのか。作られたの誰やねん、消去法で見ればわかるだろうけど。


「それは勇者ごと始末する話にはならない? 魔法ガンガン使ってて迷惑って聞くけど」

俺はコーヒー。これもガラス作りついでにサイフォンをようやく作った。


 部屋にコーヒーのいい匂いが漂う。


「なんねぇな。勇者は国にとって有益だし、精霊が魔物化するのは人の住まない遠い土地って考えだろ。辺境にいるこっちとしては飯のタネだし」

「そう言えるのはディノッソが強いからだ。俺なんかは強い魔物が増えるのは肝が冷える」

肩を竦めるレッツェ。


「勇者は神を育てると言われ、実際強大な風の神の影響はこの世界に今も色濃い。ちょっとやそっとでは国もそこに住む国民も手放すことはしないでしょう」

執事が補足してくれる。


「ニーナは真面目にそのチェンジリングをなんとかしたいらしいが、外から聞こえてくる噂を合わせると、ローザとやらは退治を建前に王都に乗り込んで王族を引きずりおろしたいんだろうな」

絡まれて面倒なのか、面白くなさそうな顔でブランデーをあおるディノッソ。


「チェンジリングは早いうちに何とかしときたいとこだろうが、国の自業自得なところがあるからな。今はエンに絡まれるのは避けたいし」

ディノッソは家族最優先を宣言している。国よりも人よりも何よりも大切なのだろう。


 わからないなら勇者ごとなんとかすればいいのに、と思ってしまう俺とはえらい違いだ。


「愛する人って言うくらいだから、見てていちゃいちゃしてて分かんねぇのかね?」

組んだ手の上に顎を乗せてディノッソを見るレッツェ。


「勇者の世界の関係の通りだったり、望み通りに変化した関係だったりで、外から見た印象は当てになんねぇんだわ。んで、今回カップル二組、兄妹・姉弟の二組だとさ」

面倒くさそうに言うディノッソ。


「あ、それ弟が偽」

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