第115話 練習が必要なようです
ディノッソに魔物狩りについていっていいか聞いたら、じゃあちょっと準備して奥に行くかという了承の答え。天気が良ければ五日後出発。
問題が一つ。
「馬で行くって。アッシュと執事は絶対乗れるし、ディーンとクリスは城塞都市まで馬だって言ってたし」
ディノッソの子ども三人も普通に乗れるので、俺が馬に乗れないなんてまったく思っていないらしくですね……。
「え、乗れないのか?」
「ってことは、レッツェも乗れるのか」
俺だけか、俺だけ乗れないのか。
レッツェも乗れないんじゃないかと期待を込めて聞きに来た。いや、ディーンたちと仲よさそうだし、乗れるんだろうなーとは思ってたけど。
「そりゃまあ、冒険者はフットワークが軽くないとな。護衛の仕事もあるし、この街のギルドだって魔物の
「必須教科か何かなのか!」
馬を買う金がなくても馬を飼う場所がなくても、貸し馬屋があるので問題ないのは確かだ。おとなしいロバだって貸し出してるし。
日本の駅が遠い田舎で車が必須っぽいのと同じか? 免許ならとったけど、この世界は車がないです。
「俺だってここに居つく前に周辺の町や村、主要な場所には情報収集の顔つなぎを兼ねて回ってる。一度も乗ったことねぇの?」
国際情勢っぽいことにもやたら詳しいと思ってたら、昔からそんな根回しを。
「鹿ならある」
「普通、そっちの方がねぇよ!」
真面目に答えたのにツッコミを入れられた。
「……まあ、鹿に乗れるなら馬もいけるだろ。乗ったことねぇから分からないけど、馬より鹿の方が簡単ってことはねぇだろ。貸し馬屋の中でもおとなしいの選べばいい。いざとなったらエンかバクに乗せてもらえ」
体重的に馬に負担がない選択するとそうなるよな。
「カッコ悪いけどしかたない。後で乗り方を――。あ」
「なんだ?」
「馬に心当たりがある」
「どんな心当たりだよ。乗せてくれそうな馬のか?」
「そう。馬に断られたらユキヒョウに頼んでみる」
正しくはユキヒョウに鹿に乗せてもらえないか頼んでみる、だけど。
「まて。ちょっとついていけなくなったぞ?」
組んでいた足をとき、座り直してレッツェが言う。
「大丈夫、ディノッソが行くの森の中だって言ってたし。ついて行ける、ありがとう解決した」
森の中ならたぶん馬の行動範囲内だと思うんだ。
「いや、そうじゃなくて……」
「おう! 来てたのか」
ディーンが二階から下りてきた。
手に袋を下げている。軽そうだし、洗濯物だろう。この家の三人も執事オススメの洗い物屋を使っている。
「俺も洗濯物まとめないと」
明日は洗い物屋が顔を出す日で、洗濯物があれば回収していってくれる。シーツやらひっぺがして袋に詰めておかないと。
紹介された洗い物屋は精霊憑きがいるそうで、指名には普通の倍の値段がかかるがちゃんとふんわり真っ白にしてくれる。
「あ、明日ディノッソから仕事の誘いがあると思うから、ディーンもクリスも都合つくようならよろしく」
「おう、どこにでも行く」
ディーンがどさっと洗濯物の袋を入り口付近に置き、カップを持って来て椅子に座る。
「レッツェも」
一回断られてるけど、駄目元で。
「……森の中で馬で行くとこっていったら廃坑か」
お?
「興味がおありですか? 今ならもれなくこのワイン付き」
先ほど差し入れに持ってきたワインの壺に向かって両手を広げてみせる。
ディノッソの家に持ってったワインと同じ物だ。もれなくこれがついてくるというか、もう渡してレッツェは今現在飲んでいるわけだが。
「どういう勧誘だよ。すでにお前がやらかす未来しか予想できないからついてくよ。その前に乗馬の練習な」
さらりと釘を刺してくるレッツェ。
「俺、参加ね。それにしてもジーン、乗れないのか? 意外だな」
宣言して壺からワインを注ぐディーン。
「日が決定してるんなら貸し馬屋におとなしい馬の予約取っておいた方がいいぞ」
からかわれるかと思ったらそんなことなかった。
「明日本当に誘われたら全員分の馬を予約しちまおう。一頭は明日からでも練習ってことで同じ馬を押さえとけば慣れられて楽だろ」
レッツェが言う。
「うう。頑張る」
鹿に乗った時は角に掴まって跨ってただけだからな。牛とか豚とかは世話したことあるけど、馬は触ったことがない。
「慣れないと尻の皮が剥けるぞ」
「ええっ!」
ディーンがニヤリとする。
なんというか、魔物の討伐より大変じゃないですか? 試練すぎる。
ナルアディードの拠点の選定と整備も進めたいけど、馬が最優先だなこれ。
一番見晴らしのいい場所に、戦争やってた頃の名残で崩れかけた館と砦の中間みたいなのがある。幸い廃棄されて長い上に島自体が過疎ってるから安かったのでそこを改装することにしている。
今回、俺はあんまり頑張らないで各職人さんを雇うつもりだ。関わる場所だけの設計書を渡して、全体は分からないように分散するつもりだけど。
俺と関わらず、たぶん規格外になる家と関わった状態で、どう噂が広まるかの実験も兼ねている。まあ、回復薬が作り手の話題はあまり出ずに薬の効果で話題になるかんじだったので、家もそうなる気はするんだけど。
例えるなら、商品名は有名でも製造会社を大多数が知らない感じだね。う◯い棒とか。
俺が認識されるのを最小限に抑えるために、間に一人置きたくてそれで迷っているんだけど。設計書だけガリガリ書いとこう。
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