第112話 商売

「教えてもいいですが、条件次第です」

「条件?」

「この島に家を。アラウェイ家でしたら出来るでしょう?」


 この島はとても小さいくせに、ひしめくように家が建っている。ここに本拠地を置く商館はもちろん、大陸の国々の大商人が持つ支店、季節ごとに訪れる商人たちの宿など。


 家や部屋を買うにしても空きがない状態なのだが、海運で財を成すアラウェイ家ならば空けることが出来るだろう。面倒だけど大きな店に話を持ちかけたのはそのためだ。


 まあ、こんな緑のないとこに住みたくないんだけどね。ふっかけておいて一段条件を下げる手法です。


「それは難しい――それに理由は分からずとも、方法は元をたどればわかりますから」

「そうすると調理法が限られますね。まあいいでしょう、おいとまいたします」

さっさとじゃがいもを回収する俺。


「いや、時間をいただけませんか? 主に話を通してみます」

そうね、毒抜きの方法はともかくとして、俺の持ってるじゃがいもは魅力的ですよね! 他の商会に持って行かれたくないくらいには。


「話を通すためにも現物をお預かりしても?」

「ではこちらをどうぞ。食べていただいても結構ですよ」

丸のまま茹でたじゃがいもを渡す俺。


 ちょっと残念そうな相手。種芋になるものを渡すわけないじゃないですか、HAHAHA! 栽培簡単なんだから。冷めた芋は美味しくないからちょっと不本意なんだけど、あんまり好意を持てる相手じゃないし、いいとする。


 結果、近隣のもっと小さな地図にも載らないいくつかの島の居住権を獲得。大きな船がつけられるような港がないので、商いをするには小舟でわざわざ海を渡って来ねばならないけど、これで庭付きが買えるはず。


 俺に移動はあんまり関係ないし。小舟で移動するにしてもそこまで頻繁に商いするつもりないし。“ソレイユ”のための住所が欲しいだけだ。


「条件を叶えられませんでした代わりに、商談で困ったことがあればご相談ください。場合によってはアラウェイ家の名を出すことも許可するとのことです」

当主とは結局顔を合わせることなく商談成立。


 文章にした契約は命がけで守るのがナルアディードの商人だ。契約書の種類によっては時間が経つと精霊のいたずらで無効になるし、逆に精霊の呪いの制約付きとかもあるんだけど。


「では先に毒の増える条件をお教えしましょう。ひとつ、未熟な芋は濃度が濃い。ひとつ、光に当てると増える。ひとつ、傷つけると増える。ひとつ、芽と緑の部分は濃い、皮側にも少し。剥いた方が無難です――苦味やえぐみを感じたらそれは毒ですので吐き出すのが良いでしょう」


「なるほど。お詳しいですな」

半分【鑑定】でカンニングしてるけどね。記憶だけで喋って説明に抜けがあっても困るし。


 見本に持ってきた少量のじゃがいもを渡して商館を後にする。数日後に商業ギルドで金の確認をとって土地の売買許可証を受け取ったら、三樽分のじゃがいもを引き渡す予定だ。二樽分は残して、神々が食べる分と、また日本産じゃがいもと混合予定の種芋分を確保。


 渡すのは三樽分だけど、これから大々的に広がるだろう作物の元ということでけっこうな大金ですとも。


 連作障害もあるけど、それは後で教える。せめてこのままくらいの関係が維持されてたらだが。俺が契約したのは種芋と人体に影響のある毒素のことだけだ。だんだん収穫量が減っていくとは思うが、二、三年同じ場所で続けて作ってもすぐに大きな変化はないだろうし。


 さて。服用の布を買ったら、島を見て回ろう。北側は陸に近いし、空気が澄んだ晴れた日には南にも陸が見えるので波の心配はしなくていいのか。波が大きくなるほど海が広くない。なるほど、それで海から建物が生えてるみたいなギリギリな建て方が許されるのか。


 南の大陸は見えているけれど渡ることは難しい、ドラゴンの住む地だからだ。人を襲わないという約束事は、ドラゴンのテリトリーではさすがに無効。精霊は身近なものの形をとることが多いので、時々海の上を飛ぶドラゴンを眺められる島で精霊を探すつもり。


 図書館のあるテルミストの方がぐっと近いんだけど、あっちは商売するにはさすがに遠い。俺が表に立つ気はないので、大陸中に販路を持つ大商人が幾人もいるナルアディードがやりやすい。


 俺が扱うんじゃなくって、を売って表に出ない方式。信頼できる人がいたら、店長を任せてお店出してもいいんだけど。


 そういうわけで海に面している土地が第一条件。嫌な記憶が蘇ってくるんで、民家がない山っぽい島はパス! そもそも民家がない島は流石に遠すぎるけどね。ナルアディードに近いほど、家が多い。隣の島なんか地面ないんじゃないのかな? 


 あ、あの島いいな。切り立った岩みたいな島にそこそこ緑があって、漁師の家みたいなのが五、六軒ある。


 俺が家を作りたくなるのって絶対あの島のサバイバル生活のせいだな。【収納】があるのにカヌムの家にも結局食料を溜め込んでいるし。

 

 とりあえず島民とちょっと話してみよう。


 突撃したら島民が十五人程度と判明。空き家もあって俺が思っていたより人が少ない。島の周辺に隠れた岩礁が多く、大きな船どころか二人乗りくらいの小舟が通り抜けるのが精一杯。舟が小さければ当然取れる魚の量も少ないため、どんどん人が減っていった結果らしい。


 あの辺りで争いが多かった時は、敵の上陸が防げてよかったってことらしいんだけど、中原と違って今は長く平和なので便のいい島に移る家が多かったんだそうだ。


 島に住んだら、必要なら移動の時に船頭をしてくれるという。金は払うけどね。

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