第109話 エクレア
こっちの剣は日本みたいにカンカンしないのが普通なんだよな。型に流し込んで作る。筒に剣の型を入れて、筒との隙間に砂を詰めて型に溶けた鉄を流し込む。カンカンするのはどっちかというと
どっちも下働きの手伝いをして学習させてもらった。盗み見て覚えられる【生産の才能】はとても便利。元の世界での知識も、テレビや本からの曖昧な知識でも補正がかかるのか、どうしてその工程が必要なのかわかるし。
料理みたいに
料理に関しては、反則を超えた何か。元の世界のものはオールマイティーだし、こっちの料理も字に残されてるのは知識としてある状態だし。出来上がりか素材を見れば作り方が【鑑定】で出るし。
とりあえず料理以外の生産物は現在もせっせと学習中。今は主に図書館で知識を仕入れている。その図書館の知識によると、北方に鍛冶が得意な民族がいて、カンカンするらしい。
ただ、技術を本に記すという文化がないのか調べても物品の注文書みたいなものしか出てこなかった。カンカンするというのも他の民族が記したものだ。
ちょっと謎の民族っぽいというか、ドワーフっぽい? あとで探しに行こうと思っている。謎をたどる時間と能力があるというのは幸せだ、楽しいし。
作った剣は西洋タイプの剣、何せこの近辺で日本刀は目立つ。でも、白装束までは考えないけどカンカンしたいよな、日本人として。そういうわけでカンカンした剣は、製造工程と魔鉄で与えた粘りで普通の鋼の剣より強いはず。うん、失敗してなければ。なんか予想と違う色をしているので心配なんだが。
「リシュ、当たると危ないからちょっと離れてて」
出来上がった剣を持って、鍛冶小屋の外へ。普通の剣より大ぶりで薄く、刀身の先がなぜか朝焼け色に染まった美しい剣だ。
一振り、横になぐ。
剣から炎が湧き出て軌跡をたどる。
二振り、下から斬りあげ反転し、斬りおろす。炎が尾を引いて火の粉を振りまく。
おお! カッコイイ!! 俺でもわかる、わかるぞ! これ怒られるやつだ!
思わず鍛冶小屋の入り口にちょこんと座るリシュを見る俺。目があうとちょっと首をかしげるリシュ。うん、可愛い。
いや、どうしようこれ。せっかくアッシュに魔鉄をもらったのに、使えない剣にしてしまった……。
日本でのガチお詫びの手土産は虎屋の羊羹だが、こっちの世界はなんだろう。酒か? いかん、わからん。
酒と菓子でいいだろうか。俺にまだ酒の味はわからないから、日本で美味しいと言われてたワインを瓶に移して。
菓子は――菓子はチョコレート生地のエクレアにしよう。カスタードに生クリーム、苺を挟んだやつならアッシュの好みに合うんじゃないかと思う。生地はチョコレートの甘さは控えめでほろ苦い風味を、上に塗るのは普通に。
その方向でエクレア作り開始。
心持ち固めに練った生地を絞り出して焼き半分に切って、バニラビーンズを多めにしたカスタードを絞り入れる。その上に生クリームを、こっちは飾りになるように絞る。クリームの上に苺を三つ、チョコレートを塗ったフタをそっと乗せて完成。
よし、怒られに行ってこよう。いや、アッシュは怒らないだろうけど。
「いらっしゃいませ、ジーン様」
裏口の扉をほとほとと叩くと執事がすぐに扉を開けてくれた。
「ジーン」
「こんにちは」
執事が声をかける前にアッシュが顔をのぞかせる。
貴族だからなのか本当は、台所に入らないらしいんだけどね。最初、執事が微妙な顔をしていたのだが、最近はそれもなくなった。俺が正面に回ればいいんだろうけど、だいたい食材持ってることが多いし。
「これ、酒とお菓子。今日は二人に謝りに来た」
「ジーンに謝られるようなことはされていないと思うが……。なんだね?」
アッシュが不思議そうに聞いてくる。
「魔鉄、俺が粗相して使えない剣にしてしまった。せっかくもらったのに、申し訳ない」
酒の瓶とエクレアの入った箱を執事に渡して手が空いたところで、一気に言って頭を下げる。
「謝ることはない。魔鉄はジーンに渡したもの、自由に使っていい」
気にしていない風なアッシュ。わざわざ集めてくれたのに、本当に申し訳ない。
「ジーン様は鍛冶もおやりになるのですね。
笑顔の執事が解決案を。
「なるほど。思いつかなかった、
もともとは鋼と魔鉄、どっちも溶けた。いけるか?
「……ジーン様。バルモア――ディノッソ様を呼んで、一緒にその失敗した剣をお見せ頂けますか?」
執事が笑顔という名の仮面をつけた気配!
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