第108話 鍛冶

 さて。精霊さん。


 名前を付け直して一緒にいる機会が増えるとでかくなるわけだが、その点はどうしよう? まあ、後で考えればいいか。まずは捕獲しないことには話が進まない。


 あれだ、竜じゃなくて龍ってどこかにいるのだろうか? いるとしたらやっぱり東?


「ジーン、お前、妙なこと考えてるだろう?」

「気のせいです」

レッツェに連れられて鍛冶屋回り。


 ローラ? ローズ? 違うローザか。みんなアメデオの方の名前をよく出すので、俺の中で他の名前があやしくなってきた。


 面倒そうな金ランクの手下が街から掃けたので、アッシュからもらった魔鉄まてつを加工してくれるところを探している。具体的にはクリスとディーン、レッツェ、それぞれの行きつけの鍛冶屋を案内してもらっている。


 なお、二人は朝早くから冒険者ギルドに嬉々として向かった模様。ディノッソたちは人の多い朝を避けて、ゆっくり朝食をとってから出かけたんだけどね。昨日渡し忘れた卵を届けたんで知ってる。


「本当は城塞都市の方が職人が多いんだが……」

「そっちはローザの手下でいっぱいだと思う」

実際、ディーンもクリスも、メイン武器の本格的な修理は城塞都市にわざわざ行っているそうだ。


 城塞都市は実は隣の国だったりするので、本来は人の出入りが厳しくて近くも遠いはずなのだが、冒険者には関係がない。王都に行くとか、魔物の湧く場所から離れると扱いが悪いが、近いところだと自由が多いのだ。


 こっちの鍛冶屋では、自分でする日常的な手入れでは行き届かない部分のお手入れを頼むほかは、解体用のナイフとかサブ武器の手入れが主だとか。


 城塞都市の職人は紹介がないと会ってもらえないらしく、二人にはそっちに行くなら案内するぞとは言われている。そして娼館の話が蒸し返された。


「お前、完全に悪役扱いしてないか? 彼女は慈悲深い回復の使い手として有名なんだぞ」

「俺にとっては面倒そうな相手としか思えない。精霊憑きばっかり集めてないでちゃんと国民集めりゃいいのに。いったいどんな国を復興させたいのかわからん」

レッツェと世間話をしながら歩く。


「強い集団になりゃ、どっと来るのが大半だろ」

レッツェの言う通り、農民も街の人間も旗色のいい方に付くだろう。最初から応援してたみたいな顔をして。


「で、どうよ? 気に入った職人いたか?」

「魔鉄って、加工は鉄と一緒?」

「火の精霊が憑いてる炉なら、粘りが加わってよりよくなるって聞くけど。工程は普通の鉄と同じ扱い方って話だな」


「うーん。案内してもらっておいて悪いけど、自分で打とうかな」

見学させてもらったけど、ぴんとこない。


 以前見た北方の民の鍛冶屋がすごかったのでつい比べてしまっているところもある。


「お前、器用だけど設備はあるのかよ?」

「あるある」

「……どこにあるのかは聞かねぇけどよ」


 屋台でモツの煮込みをパンに挟んだものを買って、端によってもぐもぐと食べる。肉は防壁の外に解体場所があって、そこで解体するのだが、そこから肉屋と臓物屋と別れる。けっこう扱えるものが細分化されてて、縄張りがきついっぽい。


 他と違って肉は豊富だし、料理が過剰に塩っぱくないのでカヌムの料理はいい方なのだが。味の基本が塩漬け肉なのか、やたら塩っぱい街が多い。


「ぐふっ。ちょっと臭うなこれ」

「そういえばちょっと臭うな」

レッツェは気にならないレベルのようだが、けっこうというかだいぶ臭い。いや、もう店のそばで臭かったんだけどさ。


 寒いところで大工や石工が鍋に誘ってくれたことがあったが、そっちの方が臭わなかったくらいだ。


「せめて七味が欲しい」

「七味?」

「唐辛子をベースに七種類の薬味を混ぜた辛い調味料」

「へえ?」

まあないだろうな、こっち。


「ジーンの料理に慣れると、だんだん外で食えるものが少なくなりそうで怖いよ、俺は」

「覚えればいいだろ、料理」

執事はだいぶ覚えて、先日はアスパラガスのピザを届けてくれた。


「料理ってほどじゃないが、今まで全部外で済ませてたのが、家で肉焼くようになったぞ」

「いいことです。野菜も食えよ」


 

 そういうわけで鍛冶です。


 材料は集めた。ふいごの用意よし、熱い金属を挟む柄の長いやっとこ、金床かなどこよし。叩いたり曲げたりするためのハンマー、丸頭ハンマーと平頭ハンマー、二つの金属を叩いて融合させる時に使う両手で扱う重い大ハンマー。ハンマー多いよ、ハンマー。


 水よし、炭よし、ホウ砂よし、藁灰やらいろいろよし、またもやオオトカゲ君の革で作ったエプロンよし。火の精霊のお手伝いよし!


 先ず鋼を叩いて四角いプレートに棒がついたような形にする。棒の部分は鉄でもいい。上にまた鋼を重ねて――。


 細かい精霊たちがちょろちょろと炉を動き回り、ふいごの風に乗ってオレンジ色の蝶の精霊が舞う。


 炭素量を平均化させるために、鋼を伸ばしては折り返して伸ばしては折り返して何度も鍛えることにより、粘りをもたせて強度を増し、不純物を叩き出す。オレンジ色に焼けた鋼の様子を見ながら強く弱く。


 ちろちろと長い舌で火蜥蜴がオレンジ色に焼けた塊を舐める。


 普通二人でやる作業な気がするが、代わりに火の精霊たちが手伝ってくれている。


 無事完成……は、明日。刃をつけるための砥石といしを忘れた!


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