第106話 騒がしい遭遇
プルは刻んでオリーブオイルとニンニクで炒め、色が地味なんでイタリアンパセリを少量刻んで散らした。ニンニクはこの時期、まだ大きくなっていないけど畑から一つ引き抜いて新しいのを使ってみた。
オリーブオイルはつかるほどたっぷり、ニンニクは少々控えめに。俺はちょっと食い慣れないというか、香りをそれほど求めてないんだけど。こっちは来る前に準備完了済み。
食材のメインはキノコなんだが、料理のメインは肉。肉は焼く時は常温――にもどすまでもなく、食料庫のはいつでも常温だけどね。厚さ四センチ、余分な脂とスジを取り除き、岩塩を荒く挽いた塩を表面にべったり塗りつける。扇状になるように四本の金ぐしを刺し、暖炉で赤く熱した炭火の場所を作って、返しながら焼く。
弱火になるように同じ暖炉の壁に寄せてある、コンソメスープに八つに切っただけのキャベツを入れたスープもそろそろいい具合だろう。
執事はパンを取りに寄るはずなので、レッツェたちにアッシュも呼んで来てもらった。
リシュはアッシュの匂いもふんふんとしっかり嗅いで、アッシュはリシュが満足するまで怖い顔で微動だにせずにいた。犬が苦手なのか好きなのか、どっちだか顔で判断できない!
パチパチと爆ぜて塩が落ち、脂が落ちてじゅっと音と煙を立てる。その煙を肉に
付け合わせは
「好きなだけ載せて食え」
薄切りにしたパンを籠に山盛りにして、プルの器に添えて出す。
プルはパスタかリゾットにしようかと思ったのだが、冷めるとおいしくない。後から来る執事やディノッソたちを考えてやめた。
机には三人が持ち込んだ度数の高いワインがすでに並んでいる。
「いただきます!」
「おお! いただきます」
「頂くとも!」
「いただきます」
このキノコに興奮している地元民用に生をスライスして追加。なんかトリュフ以外でも生で食うキノコ多いんだよな。
「はぁ〜。良い香りだね! これぞ春の香りだよ」
「いいね、今年も食べられた」
プルをたっぷり乗せてパンにかぶりつくクリスとレッツェ。
「ふむ、香りが素晴らしい」
アッシュもかぶりつきはしないがプルから。
「肉ぅ! やべっ、うめぇ」
プルを傷だらけになって採って来たくせに、ディーンは肉にかぶりついた。
肉にナイフを入れると中もいい具合に焼けている。大きく切り取って口に運べば旨味が口内に広がる。鼻に抜ける香りもいい。
肉の脂をワインで流して、プルをたっぷり乗せたパンを一口。食感はエリンギっぽい、そして強い香り。クリスとレッツェの様子をみると、癖になったらたまらない感じなんだろう。
リシュにも塩なしの肉、こっちはだいぶレアだ。塩をしていないと焦げるしな。
「誰か来たようだぞ?」
クリスの言う通り、裏口を叩く音がする。
「ああ、執事とお隣さんだ」
「知り合いの一家来たのか?」
「今日ついた」
ディーンの問いかけに答えながら、燭台を持って台所へ回る。
「どうぞ」
「お邪魔いたします」
「おう」
予想通りの二人。
奥さんと姉弟は先に家に帰っている。俺が料理をしている間、隣には薪やら机やらディノッソが配達を頼んだらしきものが次々に届いていた。
「客か?」
「ああ、プルっていうキノコをたくさん貰ったんで一緒に夕飯にしてた。瓶詰めにしてあるからそれも持って――」
「いや、ちょっと待て。ちょっと待とうか?」
「なんだ?」
いきなり俺が話すのを遮って慌て出すディノッソ。
「責任の範囲外でございます」
笑顔で言う執事。
「先に答えるんじゃねぇよ! 俺のせいか? 俺が言ったせい!?」
「私も賛同いたしましたので同罪かと。――ですが、範囲外でございます」
「うん?」
「お前は! まさかこれ、誰かに見せてないだろうな!?」
ディノッソの指差す先は下。
「リシュならさっきアッシュたちに紹介したとこだ」
足元では俺について来たリシュが、ディノッソの匂いを嗅いでいる。
「お前はぁあっ!」
「アッシュ様もお三方も大丈夫だとは思いますが……」
無駄に力んでいるディノッソと、困惑しているっぽい執事。
「何だ? 精霊つれてろって言ったじゃないか」
「ええっ! 精霊なのかわんこ!」
「いや、ディーン。足音しない子犬なんかいないから」
「見えない私に見えるレベルの精霊、なのかい?」
「うむ……、そのようだ」
ディノッソが大声をあげていたせいか、食卓からこっちに来た四人。
ん?
「そうか、普段見えないやつに姿が見えるってことは強い精霊なのか」
リシュだけはいつでも見えるようにしていたせいでなんか抜けてた。
え、あんなに弱ってた上に仔犬なのにリシュって強いのか!
「今!? 気づいたの今なの?」
ディノッソが泣きそうだ。
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