第104話 狙われる可能性

「で? お前は隠す気があるのか?」

「あります、あります」

ディノッソがどっかり床に座って聞いてくるのに答える。


 抜け穴を見て屈んだままだったので、俺もそのまま向かい合って胡座あぐらを組む。


「行動が伴っておられないように見受けられます」

立ったままの執事からダメ出しが来た。


「あなた、私は心配だから子どもたちのところに戻ってるわ。後で教えてちょうだいね」

シヴァがディノッソの肩に手を置いて言い、俺の方に微笑みかけ部屋から出てゆく。


 知らない家で子ども三人で留守番、長時間は確かに心配だ。


「ジーン、ジーンは何を誰から隠したいのだ?」

アッシュが怖い顔で聞いてくる。


 そして俺とディノッソの真似をして胡座。ちらちら見ながら微調整しなくていいから。楽な姿勢で座っていいから! 


「面倒な相手から目をつけられそうな能力を」

究極は姉から俺の存在を、だが。


 俺の姿自体も変わってるしちょっと遭ったくらいじゃ思い浮かびもしないだろうし、まずこっちに俺がいるとは思っていないだろう。神々があの玉に言い含めてくれたのもあるが、速攻で縁を切ったから。


 あの玉は悪気なく約束を破りそうで信用ならん。勇者三人――四人だっけ?――から力が流れ込むあの玉より、神々が強いうちは【縁切】が効いている。四対一か、頑張らないと。


「ふむ。私たちにはバレてもいいと判断してもらえたということだろうか。礼を言うが、知る人間が多くなると情報は漏れやすくなるのではないかね?」

ますます怖い顔のアッシュ。


 喜んでるのか、怒ってるのか、胡座のバランスが取れないのか、どれだ。


「伝聞ではすぐ忘れられる。直接見ている間はともかく、言葉を交わさなければ覚えていられない――という便利な体質なんだ」

正しくは忘れられる、覚えていられないというよりは執着や注目ができない感じだろうか。書類は通るからたぶん。


「なるほど。それで絡まれると無言で殴り倒しているのだな」

それは大半がしゃべるのが面倒だからです。アッシュが納得してるようなので否定しないけど。


「いや、どういう体質だよ」

半眼のディノッソ。


「それで商業ギルドで、ジーン様の話題が出ないのですね。出るのが薬の製造を手伝っただけの私とアッシュ様の話題だけでしたので不思議でございました」

納得する執事。


「便利だとは思うのだが、それではジーンの得るべき名声が得られないのではないか?」

「書類通りに収入が入ってくればどうでもいいぞ」

「代わりに私たちが名を得ているようで心苦しい」

アッシュの様子では感謝されるたび律儀に訂正していそうだ。


「むしろ面倒を押し付けてるな。すまん」

「いや、そういうわけでは……」


 お偉いさんからの特別扱いとか、騒がれるのはいらんとです。対応してくれる窓口の人が親切になったのは嬉しいけど。


「色々脇が甘い自覚はあるから、集団行動には最初から参加しないことにしている」

「身体能力がおかしいのは最初から丸分かりだったけどよ。その割に精霊が不自然なほど寄っていかなくて、な」


「ディノッソ、見える人か」

「ここにいる全員見えるんじゃね?」


 執事も見えることはアッシュに話してるようだし、オープンでいいのかな? あと奥さんも見えそうだよな。エンはどうだろ? 見えてたらあのリスが収納しているところ見ながら真顔だったってことだよな……。


「俺の周り見える人多すぎじゃね?」

「引っかかるところはそこなのかよ。見える見えねぇじゃなくって、お父さんは何で影狼がここにいるかが聞きたいよ……」

がっくり来ているディノッソに執事が笑っている気配。


「カヌムって訳ありの逃亡者多そうだよな……。俺は逃げてないけど」


「お前が一番危ない気がする」

「ジーンが一番狙われるのでは?」

「ジーン様が一番気をつけられるべきかと」


 三人がそれぞれ同時に何か言ってきた。


「まあ、すぐ逃げられるんだろうけど。契約してる精霊か、親しい精霊がいるなら一匹つけとけよ? さっきも言ったけど、お前の身体能力でいない方が変だ」

ディノッソは俺の移動能力がおかしいのは知っているので、その点についてはあまり心配していない様子。


「冒険者の方々は見える方がおおうございます」

執事の言う通り、冒険者の自由さは精霊に好かれるらしく、精霊がそばにいる影響で後天的に見えるようになる者が多い。


 もともと見えて、もしくは憑いてて進路に冒険者を選ぶ人も多いしね。


 逆に冒険者をやめてひと所に落ち着いたら見えなくなる人もいるらしい。人に力を貸す傾向にあるのは気まぐれな風の精霊や、人の野心が好きな力や破壊を象徴する火の精霊一角、向上心や試練を乗り越えるシチュエーションが好きな光の精霊が多いため、落ち着くと離れてしまうのだそうだ。


「うーん。変な影響受けたら嫌だし、あまりごちゃごちゃしたところに連れて来たくないんだが。可愛いから変な人に攫われても嫌だし、変な精霊に絡まれても嫌だし」

ずっと一緒にいるならリシュを連れてくるのが一番だが、色々心配だ。


「どんだけか弱い精霊なんだよ」

「アズは特に問題なく過ごしているが……」

「ジーン様、普通の人間は精霊をつかめませんので……」


「むう」

後でちょっとリシュに聞いてみよう、返事はできないだろうけど意思表示はあるかもしれない。


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