第102話 久しぶりの食卓
あんまり時間がないし、簡単に。
まず小さなパイを数種。パイ生地は作り置きのものだ。パイ生地を四角く切って、こちらも主に作り置きの具材を乗せるか巻くかだけの手抜き。パン焼き窯に突っ込んで準備完了。
後はやっぱり作り置きを出してピンチョス作るか。串刺しにしてピンチョスだと言い張ってもこっちではバレまい。
トマトとモッツァレラを交互に串に刺して塩とオリーブオイルをかけたもの。瓶詰めのマリネを取り出して、それを刺したもの。タコとパプリカのマリネのものと牡蠣のマリネのもの。
せっせと刺していたらディノッソたちが戻ってきた。
「おい、なんか隣すげぇんだけど」
「そうか?」
「しばらく田舎に引っ込んでる間に家も家具もよくなっててびっくりしたわ」
ニコニコしているシヴァ。
「いや、あれ宿屋と比べ……」
「お部屋かわいいの!」
「二個重なったベッド!」
「僕、高いほう!」
ディノッソが何か言いかけたが、ティナと双子の声にかき消される。
ティナの部屋はベッドにピンク基調のパッチワークカバーかけといただけなのだが、好評の様子。双子はいきなり別の部屋じゃ寂しいかと思って二段ベッドにしてみた。ベッドも上と下に分けられるので一人一部屋に変えても大丈夫。
「よし、できた。隣に住まなくてもベッドと布団は持ってっていいぞ」
木の皿に盛ったピンチョスを持って、パン焼き窯と机のある部屋に移動。
「わーい! ジーンのごはん!」
「相変わらず美味しそうだわ」
「ディノッソ、そこから降りると倉庫だから好きな酒持ってきて」
「おう!」
納得いかない感じだったディノッソが酒という言葉に表情を変える。
薪の積んである端の床についた丸い輪は、持ち上げると九十センチ四方くらいの床が開き、階段が現れる。持ち上げた丸い輪は薪が崩れないよう止めている柵に引っ掛けて開けておける。
「はい、
るんるんと階段を降りてゆくディノッソ。
子どもたちが指差すカップをシヴァが棚から下ろして近くで見せては戻すを繰り返す。
俺も棚から適当な皿を取り出し、窯から出したパイを乗せる。この部屋は玄関入ってすぐの部屋だが、壁につけた上の方の棚には食器が飾ってある。下は工具とかだけど。
暖炉と窯がこっちにあるせいで、半分台所なんだよな。わいわいと楽しそうに選んでいる横でお茶の準備が完了してしまった。
「はいはい、お茶の人はカップ持ってきて」
「じゃあ僕これ!」
「僕はこれ!」
「んーっ! ピンク!」
「ふふ。ありがとう、これも私たちのために準備してくれてたんでしょう?」
エンが選んだのは薄い青、バクが選んだのは青。二人の髪の色のカップ。ティナが選んだのは双子と同じ形と模様のピンク色、シヴァが持っているのは大きさの違うやっぱり子どもたちと同じ形と模様のカップだ。
気を使ってくれたのかもしれないが、思惑通りのカップを選んでくれた。
「ディノッソのカップは大きすぎるかしら? これでお酒は飲ませられないわね」
シヴァはディノッソの分も持ってきたが、ちょっと首を傾げている。
「酒用は別に選んでもらっていいぞ」
お茶を注ぎながら言う。ディノッソの飲酒量では奥さんには逆らいませんよ!
「いい匂いがする〜」
「甘い匂いも!」
「お父さんこない!」
子どもたちが焼きあがったパイをチラチラ気にしながら言う。
「おう、待たせた」
赤ワインの壺を抱えて帰ってきたディノッソ。
「よし、じゃあ頂こうか」
短い精霊への祈りの後、ディノッソの合図で食べ始める一家。
「甘〜い」
リンゴのコンポートを乗せた小さなオープンタルトにかじりついたティナが満面の笑みを浮かべる。
「熱い!
エビのグラタンのパイを食べるバク。本人の言葉通りホワイトソースがパイからこぼれ出している。
「美味しい。伸びる!」
エンはソーセージとチーズを包んだもの。やっぱり子どもたちは温かいものからだったか。
ディノッソとシヴァは仲良くワインを飲んでいるのでピンチョスをつまんでいる。
「おしゃれだし食べやすいわ」
「美味い! 美味いけど隠せよ、本当!」
ああ、うん。トマトとかモッツアレラとかナスとかね。
「奥さんの料理美味しいから、俺は珍しい材料と甘いもので対抗するしかない」
「あら、ありがとう。私もジーンの料理、大好きよ」
いや、本当にシヴァの料理は不思議なくらい美味しい。優しい味で温かい。
「そういや、条件付きつぅのは屋根裏のあれか?」
「うん。よくわかったな」
「ふふん。俺が若い頃潜ってた廃城のダンジョン、あんなのばっかりよ」
得意げに笑ってウィンクしてくるディノッソ。
「見つけたのはお母さん」
ティナから暴露が来た。
……奥さんの方が冒険者としても強い疑惑。
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