第101話 到着
朝のリシュとの散歩から始まって、昼前まで家畜の世話と畑の手入れ。昼を食べたらカヌムの家の改造、夕方は森の奥で黒精霊を捕まえ、夜は家で名付け。雨が降ったら図書館にこもる。
三日にいっぺんくらいアッシュとお茶か食事をして、二週間にいっぺんディーンやレッツェたちと酒を飲む。
まだ森の聖地は手付かずだけれど、ローザたち金ランクパーティーの主要メンバーは城塞都市のほうに行っているので森での活動を再開した。
のんびりしているのか忙しいのかわからない中、ディノッソたちが到着。精霊からの連絡がないままだったので無事だろうなとは思っていたけど、やっぱり姿を見ると安心する。
「やあ」
「ちょっ……、おまっ!」
訪ねてきたディノッソたちに笑顔で挨拶したら、何故か口を押さえられて家に引きずり込まれた。子どもたちが三人、びっくり顔でこっちを見ている。
「って、違う! シヴァ!」
間違えたのか。なんで俺が襲われるんだろうかと思った。
「はい、あなた。――口を開いちゃダメよ? さ、とりあえずお邪魔させてもらいましょう」
シヴァがこっちから子供たちに視線を移動させて言う。
む、塞ぐ口を間違えたのか。子どもたちが何を言うかわからないから?
「はーーーーーーっ」
全員が家に入り、シヴァが扉を閉めたところでディノッソが俺を離して座り込み、盛大なため息をつく。
「ジーン!」
「ジーン! 何で?」
「ジーン! どうやって来たの!?」
シヴァが子供たちの肩にかけた手を離すと三人が一斉に抱きついてくる。
「お前、ちょっとは隠せよ……」
疲れた顔でディノッソが言う。
「いや、移動はもうバレてると思ったし。こっちで人に聞かれたら即バレだし」
「ああもう! ――ここはお前の家か?」
「うん、一応?」
笑顔でぐりぐりと頭をくっつけてくる三人をなでつつ答える。
人の体温を感じるような接触は久しぶりだ。というか抱きつかれた記憶も、抱きついた記憶もほぼない。ずいぶん前に祖母にしがみついた覚えがあるが、後はこの一家だけだな。――
「一応って、お前なあ……。隠せっていってるのに」
「親しい人に隠してるのが面倒になってくるんだよな」
「あ〜……」
「はい、はい。ジーンがここに来たのはいつ? 私たちは何年前に会ったことにすればいいのかしら?」
シヴァがニコニコと聞いてくる。
「えーと、去年の秋頃? いや、夏だったっけかな?」
こちらの世界に来たばかりはあちこち転移で見るだけ見て回ったので、季節感がですね……。
島では初冬に入る頃だったけど、家に転移されて季節が戻った覚えがある。
「じゃあ、一年以上前に会ったことにすればいいわね。ティナ、エン、バク、ジーンにいつ頃会ったのか聞かれたら、ずいぶん前とかちょっと前とか言うのよ? はっきりいつと言っちゃダメ」
「はーい」
「はい!」
「おう!」
シヴァが子供たちに言い聞かせると、元気な返事が上がった。……お手数おかけしたします。
「よし。飯は?」
「食った」
「残念ね。ジーンがいるのが分かってたら、食べてこなかったわ」
短く答えるディノッソと、頬に手を当てて残念そうに言うシヴァ。
まあ、人のうちを訪ねるのに空腹でこないよな。
「食べる!」
「バク、入るの?」
食べると言い切るバクにエンが驚く。
「ジーンのなら入る!」
「私も一口食べたい!」
「え、じゃあ俺も」
ディノッソ、子どもに乗るのはどうなんだ?
「じゃあ一口サイズのつくるか。荷物は?」
「馬と一緒に宿屋」
馬も健在なようで何より――いや、違う馬だったりして。
「ずっと宿屋暮らしするのか?」
「いや、一年契約くらいで借家の予定。子どもいるしな」
きゃあきゃあと喜ぶ子どもたちをシヴァに任せてディノッソと会話。
「じゃあ、ちょっと隣見てみないか?」
「隣?」
「うん、条件付きの借家。ディノッソの希望の借家が見つかるまででもいいけど、宿屋よりは過ごしやすいんじゃないか? 俺が飯作ってる間に、ちょっと覗いてみてくれ」
そう言って、台所にある裏口から通りに出て案内する。
「お隣さん!」
「お隣〜」
「お隣なら結婚してもずっと一緒ね!」
俺の後をついてくるディノッソ、ディノッソの後をついてくる子どもたち、三人の後を笑顔でついてくる奥さん。
「鍵これな」
レトロなでかい鍵。日本のあの薄い鍵とは違って立体的でかさばるのだが、なんかちょっと浪漫を感じて嫌いじゃない。
「鍵持ってんのかよ」
「俺の持ち家だもん」
「大家かよ!」
はっはっはっ!
「ここ、カヌムの中では魔の森に近いし、一回防壁崩されたことあるらしいから。周囲に子どもがいる家族は見ない。それも考慮に入れてくれ」
「あいよ」
俺は台所に戻って軽食の用意。俺がいなければ家族で良いところも悪いところもわいわいと言い合うだろう。
さて、何を作ろうかな?
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