第100話 隠し扉

 執事に借家を売って、俺が隣の家を買った。


 逃走ルートに使うなら持ち主が違う方がいいだろうということで。襲撃犯が周到ならば、周囲の家の持ち主と住人をチェックするだろう。


 ベッド共々借家は色をつけて買ってもらったのでなんか儲かった。というか、ベッドのうち三つはレッツェとディーン、クリスが個人的に買い上げてくれた。もし引っ越すことになっても持ってゆく気満々のようだ。


 俺は材料を持ち込んで部屋で組み立てたけど、完成品を持ち出すのは大変な気がする。


 執事は調査と討伐に参加した銀ランクということで、冒険者ギルドから推薦をもらって来た。――アッシュと一緒に冒険者登録をしたのかと思ったら、しれっと銀ランクだったし。本人は若気の至りです、などと供述している模様。


 商業ギルドのほうは、アッシュとともに黄斑病の薬の作成手伝いをしたのは知れているので審議で反対は出なかった模様。買いたい場所も人が流出している地区ということで埋めたいのもあったんだろう。


 金ランクの取り巻きも一部をのぞいて引き上げちゃったし、商業ギルドで一時預かりにして貸家にしても暫くは部屋が埋まるのは難しいだろうし。


 俺、リフォームばっかりしてるな、好きだからいいけど。


 また水回りの工事を頼み、俺は壁を少しガリガリやって整える。こっちの家は壁を共有してるから全部はできないんだけど、けっこう隙間がですね……。まあ、その隙間風防止のためにタペストリーを掛けてるんだろうけど。


 俺の家側の壁に窓があった痕跡がですね……。全部漆喰で窓枠ごと埋められている大雑把さ。なんか事件現場というか、ホラー風味なんでやめていただきたい。


 俺の家は後から通りに無理やり作ったかんじの家なので、左右の家にも影響があったんだなこれ。これもガリガリ削って、窓のあった場所は全部小さな棚にした。


 残っていた家具類も全部売り払ってまっさらにしてある。窓の鎧戸も俺の家とお揃いに作り直す。貸家の時と同じ工程だが、今回は屋根裏部屋の石壁を抜く。ズルをして『斬全剣』で斬ったのだが、誤魔化すためにちょっと割る俺。だって断面つるつるだったんだもん。


 縦横一メートルの穴を開け、その前に下段の背板が開く細工をした棚を設置。ディノッソたちが住まないのなら、アッシュたちの方からしか開かなくする予定だ。


 隠し扉の開閉を試しつつ、アッシュの家に同じ棚を作るための材料を運び入れる。


「お邪魔します」

「うむ、いらっしゃい」

一応、正面から回ってアッシュの家にお邪魔。


「お手数かけます」

執事とアッシュに案内されて屋根裏部屋へ。


「隠し扉に鍵というわけにはいかないし、部屋ごとに鍵になるのかな?」

「そうでございますね」

三階への階段を上がりながら気になることを聞く。


「部屋の鍵はあまり好きではないのだが……」

「何故?」

「どうも閉じ込められている気がする」


 アッシュが嫌なことを口にするのは珍しい。聞いたら、子供の頃は夜は部屋に閉じ込められてたんだってさ。こっちの世界では赤子と言えども一部屋与えられて、ある程度育ったら夜は部屋から出してもらえないらしい。ある程度広い家、というか貴族では大体そうなんだという。


「トイレとかどうするんだ?」

「私は控えの間に乳母か侍女がいたが……」

そこまで広い屋敷じゃないところはどうするんだろう……って、トイレ自体部屋に壺でしたね。


 屋根裏部屋へは梯子なので、貸家の方はこれもなんとかしたい。荷物持って上がるのに危ないし。


「もうあちら側は出来ているのか」

「ああ。こっちも組み立てるだけだ」

当たり前だが背中合わせの部分は同じ広さなので棚のサイズも同じ。


 棚の組み立てを手伝ってもらいながら構造の説明をする。壁の穴の場所からずれないように棚はかなり重く、背板も厚めだ。


「ほう、よく出来ている」

「棚としても良いものですな」

「置く場所が置く場所なんで、シンプルにした。背板が壁に沿ってスライドするから棚のこっち側は、荷物は壁から三センチくらい離しておいとくといいかも。下段に何を置くかも難しいかな」


 隣に逃げたことをできれば隠したいので、荷物を放るのもまずいだろう。


「籠に古布でも入れておきます」

「なるほど」

その辺はお任せだ。


 それにしても隣同士壁を共有、後ろも家もぴったりくっついてるせいで窓が中庭と通り側にしかない。アッシュの家とレッツェたちの借家は、間に路地があるから、片側にはあるけど。


 家と借家に屋根に窓つけるかな。屋根から出っ張ってる窓、ドーマーっていうんだっけ? 窓なだけに。


 屋根裏に上がる階段を作り変えて、屋根裏部屋を寝室にしたら秘密基地みたいでティナたち喜ぶかな? いや、これは日本人おれの感覚か。でも作りたいから作ろう。


 階段はあえて狭めに作って、天井を持ち上げて入るような――うん、ちょっと作る俺の方が楽しい。ああ、でも夏暑くて冬寒そうだ。


 寒いのはともかく、暑いのはエアコンもないし困る。でも奥さんの精霊でなんとかなるような気もそこはかとなく……。


 いいや、俺の家の屋根裏をまず改造しよう。

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