第95話 ご案内

 レッツェご案内〜。


 借家人第一号はレッツェに決定した。一回目の討伐の間に場所によって家の価格が動いて、この辺は安くなったけど他は高くなった。予測はしてたらしいけど、冒険者としての地位を上げる方を優先した形だ。


 安い場所を買い、住みながら手入れをして付加価値を上げて買った時より高く売って次に行く方法もあるが、レッツェは食事も外だし手入れをする自信がまったくなく、家は本当につい住処すみかにするつもりだったらしい。


 そういうわけで、値段が落ち着くまで待つそうだ。


「トイレの個室化と風呂と倉庫か」

トイレと風呂はいいけど、倉庫は普通の食料庫の他に武器や取得物を保管しておく個別のものが欲しいそうだ。


 レッツェと執事の希望を聞きながら間取りを考える。もういっそ冒険者向けの間取りでいいかな?


「台所側だけじゃなくてこっち側からも井戸に行けるよう扉をつけて、洗い場を広くするか」

魔物も家畜も街の中の決まった場所か、外の決まった場所で解体することになっている。臭うからね……。


 ただ小型のもの、鳥とかウサギとかは家内で解体するし、冒険者は魔物の部位を持ち帰ったりするので洗い場は広い方がいい。井戸の周辺にも洗い場はあるけど、排水がしっかりしないまま井戸端で洗うのは少々怖い。飲み水なのに、まぜるな危険である。


 水脈はつながっているし、二軒か三軒変えたところで仕方がない気がするけど、しないよりはましだろうと思い、自分とアッシュの家は井戸や地面に浸みないようにした。そもそも流れ込ませる先の地下にある下水からすでに浸みている疑惑もあるけどね!


 階段下は薪置き、冬の間に使うだけで小型バスくらいの容量を使うし、毎日のことなのですぐに取れる場所にないと不便だ。地下は薪の残りを置く場所と食料庫、これも変わらず。


 そんな感じで数日ごそごそと活動。その間に三回目の討伐もあったようだ。討伐の間はアッシュたちもレッツェも元の熊狩りやら何やらに勤しみ、俺は両ギルドから回復薬の納品を頼まれたり。


 さて、完成披露だ。


「もうできたのか早いな」

「頑張りました」

自慢じゃないが身体能力フル活用だよ! ついでに乾燥とか時間経過が必要な場面は精霊に手伝ってもらいました。


 レッツェとアッシュたちを案内する。


「一階は居間と風呂と台所だな。あと荷物の一時置き場か」

この辺りだと職人家族が大家として住んで、一階は作業場と家族の居間や台所、二階に家族の部屋で三階に徒弟を住ませ、屋根裏は倉庫か貸し部屋というパターンが多い。徒弟がいない場合は三階も貸し部屋だ。


 この家は大家が一緒に住まないけど、将来は家が職人向けにも売れるように風呂場の設置以外には大きな変更はしていない。


「ああ、なんか居心地良さそうになってる」

レッツェが言うが、絨毯を敷いてテーブルを置いただけだ。


「最初に地下かな?」

地下に降りる階段は広いとは言えないが、一応一般的なワイン樽が通せるサイズではある。


「手前は共有、奥は部屋数分に区切ってある。鍵は部屋のものと共通だな」

「おお、格子扉ついてるのか」

まだ鍵をかけていない扉を開けて中に入ってみるレッツェ。


「高めの酒や予備の武器はここかな」

もうすでに置く物を検討しているようだ。


 二階は部屋を三つ。台所の上に当たる場所に一部屋、玄関側に二部屋。部屋には押入れと納戸の中間みたいなのをつけた。


「これはベッドか? ……あ、やべえいいわ」

「時々干せよ」

藁を束ねたベッドマッドは俺が嫌だった結果、ベッドフレームにオオトカゲの皮をトランポリンのようにピンと張って、毛織物を敷いている。


「ここは何ですかな?」

ベッドにごろごろするレッツェをよそに、執事のチェックは続く。


「納戸だな」

「む……」

「アッシュ、押しても開かない」

それは引き戸です。


 カラカラと開けて見せるとちょっと驚かれる。こっちの世界の引き戸って城とかで部屋の間仕切りに使われるくらいで、あまり存在しないらしい。引き戸はすぐ外せるし、治安のよろしくないこの世界では普及しないのも当然だろう。


「ほう、どっちからも開いて中が見えるのか」

珍しげに戸を開けたり閉めたりしている面々。


「明かりを持って入るのも面倒かと思ってな。開け閉めがしづらくなったら、戸の下の溝の掃除をしてろうを塗ってくれ」

引き違い戸にしたので中は見やすいと思う。


「壁の石の出っ張りは棚用なのだな」

「うん、二枚はつけといたから移動させるなり増やすなり自由にどうぞ」

アッシュが言うのに答える。


 ベッドと暖炉、納戸が部屋の装備だ。部屋は狭いが納戸の隣は空けてあるのでワードローブを入れるなり、暖炉にあたる用の椅子を買うなり自由にするだろう。


「執事の部屋の奥にも銀器などをしまう倉庫がある場合がございますが、これはもっと個人的で気軽、冒険者でなくとも鯨油などを寝室にしまい込まれる方は多いと聞きますし便利ですな」


 執事のお墨付きをもらった。こっちの世界、出回ってるうちに買い溜めたり作ったりして、半期から一年分を保管するような勢いなので収納はどれだけあっても足りないくらい。


 大抵、地下が塩漬け肉やワイン――水代わりに飲む度数が低くて薄いやつ――屋根裏が乾燥肉とか藁などの保管場所になっている。普通の家のベッドは藁束を並べてあるものがマットレスだからね。ついでに鶏やヤギを飼ってると飼料も家の中に保管だ。


 三階も同じ作り。貸し部屋としては広いしかなり贅沢なのだが、あまり大人数を入れたくないので、料金お高めで人数を絞った感じ。別に借り手がいなくてもいいしな。


 レッツェは布団を買って明日にも引っ越してくる気満々な感じ。

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