第94話 昼飯
壁を任せて屋根に上がると、オレンジっぽい屋根瓦が所々割れている。
瓦の色はどの家もほとんど一緒。同じ土から〜というのもあるけど、素焼きっぽいままだから。赤い色の元、土中の酸化鉄は燃料の薪が少なくてすむ酸化焼成では赤いベンガラのまま。赤からオレンジ、ちょっと茶色がかったやつまで町によってちょっとずつ違うけど、大体素焼き。
日本より雨が少ないから助かってるけど、割れてなくても雨漏りがですね……。素焼きは水がしみる!
割れてるのは煙突掃除で屋根に上がるからかな? 煙突掃除屋で作業するのは子供がほとんどで体は軽いけどやっぱり割れる。素焼きは脆いしね。
きっちり焼き締める還元焼成は、黒っぽい瓦になる。吸水率が低く、雨漏りしない瓦だ。釉薬を使った瓦は見かけない、なので金持ちの家の屋根はたいがい黒っぽい。
目立つのが嫌なので赤い瓦のままにしてある。今のところ垂れて来るまで行かず、しみてきたかな? というのが二回くらいだし。
割れた瓦を取り除き、新しい瓦に替える。中庭の窓、外から見えなければガラスにするんだが、煙突掃除人には丸見えなので諦めている。中はいいけど、目立たないよう外観はあまりいじらない方向。
一階の石の床はともかく、二階三階の木の床はだいぶくたびれているのでこっちも何箇所か張り直す予定だ。貸し出し予定のこの家は、カヌムで手に入るもので修繕している。
「昼にしようか」
「おう!」
「楽しみだ」
「はい。ジーン様の料理は美味しゅうございますので」
声をかけると三人とも嬉しそうで、俺もちょっと浮かれる。執事がお茶を淹れてくれる間に準備。
本日はキノコとマカロニのグラタン、昨日のうちに仕込んでおいたのでチーズをたっぷりかけて、焦げ目をつけるために炭の位置を調整して窯に入れるだけ。適当な大きさに切ったフランスパンにバター、にんにく、オリーブオイルをつけて焼く。
皿を用意して、暖炉でコトコトと煮込んでいたポトフを盛っているうちにどっちも出来上がった。マカロニとキノコのグラタン、ガーリックトースト、ポトフ。デザートにシフォンケーキ。
精霊に対して頂きます的な挨拶をして食べ始める。さて、できはどうだ?
「うまい」
「これはまた……」
「美味しい」
こっちの料理って切って煮るか焼くかみたいな感じなんで、美味いって言われるか、食べなれないので不味いって言われるか、どっちかな気がしているので毎度ドキドキする。
塩味とチーズ、ハーブの類はよく使われてるんでちょっと安心できる。
みんなの反応を見てから食べ始める。うん、美味しいけど作業をして暑くなってると思うからここまで熱々の料理じゃなくてよかったな、ちょっと失敗。
「この上のとこがいいな」
「私は中のクリーミーなところが……」
「こちらのスープも美味しゅうございます」
ポトフはコンソメ作るの頑張ったから褒めろ。灰汁がとってもとっても終わらない無限地獄。基本のスープだしあらかじめ作っておこうとして大量生産した結果だが。
ああでも八つに切っただけで突っ込んだキャベツが柔らかくて甘い。こっちの深緑色したキャベツじゃなくて日本で見慣れたキャベツに近いヤツ――俺の畑産のキャベツだが特に疑問は持たれていない様子。
「酒が欲しい」
「作業があるから却下」
ガーリックトーストをかじりながら洩らすレッツェに答える。アルコール度数の低いワインは食卓に出てるんだけどね、度数が低いこれはレッツェにとって水代わりで酒ではないらしい。
「そういえば飲み会の後、大丈夫だったか?」
結構寒いのに床に転がされて。
アッシュが挙動不審だけどスルーしておこう。絡み酒だったわけでもうるさかったわけでもないし、特に迷惑かけられた覚えはないのだが気にしているようだ。
ただ危ないから外では泥酔しないように。
「まあ、雑魚寝も酔っ払いの相手も慣れてるからな。相手より先に酔っ払うのがコツだ」
ニヤリと笑ってワインのカップを持ち上げるレッツェ。
そんなコツいらぬ。
金ランクパーティーは大所帯、上位メンバーはともかく下位のメンバーは日銭を稼ぎたいのか、狩に頻繁に出ているそうで、元からいる冒険者と揉め事も多く、レッツェもアッシュたちも森に行くのは控えているのだそうだ。
街から日帰りできる狩場は限られてるし、金ランクパーティーがどうこうではなく、人が多いとどうしてもね。
おかげでリフォームを手伝ってもらえているので俺としては悪くないんだけど。
「む……」
シフォンケーキを食べてご満悦っぽいアッシュ。
メープルのシフォンケーキにゆるめの生クリームをたっぷりそえてある。
「これはまた不思議な食感ですね。ふわっとしてしゅわっと溶けるように縮む……」
「甘いものって保存食兼用してて固めのものが多いから珍しいかもな。材料的にはそう珍しくないんだが」
こっちのお菓子ってお菓子自体も珍しいけど、ずっしりどっしりな感じのものが多い。
バリエーションが少ないのは、ちょっと前までお触れで、特別な祭日しか職人がお菓子を作れなかったらしいので仕方がない。贅沢品より素材をパンに回せとかそんな感じで、小麦粉を使うパン以外のものは普段は家庭でしか作れなかったらしい。
自分で収穫して作れるひとか、料理人を抱えるような金持ちしかお菓子を楽しめなかったそうな。それがだんだんパンにチーズやベーコンを混ぜることが許され、甘いパンが許され――ナルアディードとか場所によっては菓子職人がすでにいる。
そもそも家庭にパン焼き窯があるところは少なく、だいたい
砂糖が貴重なんで塩味やチーズ味のお菓子がほとんどだが、カヌムではメープル味の菓子が庶民のちょっとした楽しみになっている。
「もっとかけるか?」
俺はシフォンケーキの甘さで十分だが、甘いもの好き用にメイプルシロップの小瓶を用意してある。
「俺はこのままで十分満足」
レッツェはしょっぱいものが好きそう。酒好きだからそう思うだけだが。
「私めも」
執事は甘いものというより濃い味がそう得意ではないっぽい。グラタンよりもポトフみたいにさらりとした方がいいっぽい?
「頂きたい」
アッシュはちょっとかけすぎだと思います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます