第83話 酔っ払いから情報収集
「三本ツノ、二本ツノとも多かったが、黒魔が狼だったのがヤバかったな。おっと、親父! 五、六本まとめて持ってきてくれ」
ディーンがワインを水だと思っている気配。
黒魔は普段俺たちが狩っている魔物の目の周りの黒いところが広がったヤツだ。黒が回らないままツノだけ増えてゆくヤツとか、けっこう色々だ。ツノが多いのは
黒が全身に回ると、不思議なことに今度はイボや皺が消え綺麗になってゆく。
トカゲは力は強いけど長距離の移動は不得意なので平気だが、移動が得意な魔物が強くなると人にとっては脅威だ。街に攻め込むというか走りこんでくるから。なんか弱いのもつられて追ってくるみたいだし。
その街にとっての脅威の狼くんを討伐したらしい。要するに俺は魔物討伐のハイライトを見損ねている。まあいいけど。
「どう考えてももっといるだろ、あれ」
「中原の戦況を聞く限りもう少し余裕があると思っていたのだけどね、ギルドもこの私も。いや、ギルドは予測していたのか」
「金ランクの三人が参加していたからな」
クリスとディーンが飲みながら、ぼやきとも状況説明ともつかない会話を続ける。
俺はリブロースを骨から齧りとるのに忙しくて聞きに回っている。なんかこう、肉食ってるぅ! って感じだ。
「……似あわねぇな」
「宵闇の君はワイルドなのだね」
「いいから会話に戻れ」
俺の食べ方なんてどうでもいいだろう。
「ハルディアの他にもどっかの国がヤバい魔法を使ってる気がする。何にせよ手遅れになる前に分かって良かった」
レッツェが話題を戻す。
ああ、勇者と戦争の相乗効果か。俺は勇者ばかりに目が行ってたが、ギルドのほうは戦争のほうに注視してた感じだな。
それにしても野菜が食いたい。
「アメデオも次はパーティーのメンツ、国内にいるのは全部呼び寄せるつもりらしいし、参加何人になるのかね?」
「久しぶりの大規模討伐になりそうだね!」
金ランクが三人いるパーティーというのは魅力的らしく、日本のゲームの大規模ギルドとかクランとか並みにメンバーがいるらしい。水盤の映像だけじゃ討伐隊の誰がメンバーだったのかさっぱりだが。
「お二人はアメデオ様のパーティーにお誘いが?」
執事がディーンとクリスにワインを注ぎながらにこやかに問いかける。
色々聞かされたせいで、俺には執事のセリフが副音声でアメデオの部分がローザに聞こえた。人を集めて国の再興とか考えてそう。
「誘われたけど性にあわねぇから断った」
「私も騎士として美しい人の願いを叶えるのに吝かではないが、鶏口となるも牛後となるなかれだよ!」
その故事成語、こっちにもあるのか。いや、【言語】で俺にわかるように入れ替えられてるだけかな? あとクリス、騎士だったの?
「アッシュたちもあったんだろ?」
「む、あったが断った」
肉を切り分けていたアッシュがディーンに答え、執事は微笑むだけ。
「俺にはさすがにお誘いなかったな」
レッツェがちょっと口を尖らせて言う。
「それは見る目がない」
「ははは、ありがとう」
いや、本当に。レッツェはお世辞だと思ってる風だけど。
これやっぱり、精霊がいるかいないかで選んでる気配が濃厚だな。
「もう黒い精霊に憑かれてるやつが混じるなんてことはねぇだろうけど、ちょっと面倒だな」
「ああ、アメデオの
嫌そうなディーンに適当な応援を送るレッツェ。
「誘いを諦めてないっぽいところも、な」
「面倒そうだな、頑張れ」
同じく適当な応援を送る俺。
「宵闇の君は次の討伐も不参加なのかね?」
「もちろん」
クリスの問いに間髪入れず答える。野宿も嫌だし、面倒そうな人間に近づくつもりもない。
「ジーンの鞄、金ランクの三人にギルドが贈ったせいで評判だってさ。ギルドに注文が殺到してるみたいだぜ?」
「リスクなく、金が入ってくるのはいいことだな」
レッツェが教えてくれた鞄に関しては金ランクに感謝しよう。
パーティー規模が大きいのも大いに結構! 全員で鞄を揃えるのをお勧めする。営業がんばるのは冒険者ギルドにお任せだが。
「まあいいや。飲むぞ!」
そう言ってまたワインを一気飲みするディーン。
けっこう度数強いと思うけど、平気なんだろうか? 俺は【治癒】があるせいでほろ酔い以上にはならない気配。
「ああ、久しぶりの牛肉も楽しまねば」
シチューをスプーンでひとすくいすると、口に運ぶクリス。
「美味い! それにしても月影の君はきれいに食べるね、まるで貴族のようだよ」
「……そうか?」
隠れている身としては、貴族らしくないほうがいいのだろうか――そんなことを考えてそうなアッシュ。
ディーンとクリスが潰れるまで突然現れたルフの疑いがある
アッシュがいるのに下ネタや女性の吟味話になった時は焦ったが。酔っ払いは声がでかいし!
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