第82話 ルフA・ルフB

 聖域がいじれないのでさみしく思いつつ、金貨草の採取。お高い草で乱獲されているため、人の出入りの多い浅い場所で見つけるのは大変だが、ここまで来れば話は別。


 地下茎と種で増え、元々繁殖力は弱くはないようで結構群生している。とりあえず場所を変えつつクマが半分入る例の袋一杯採取。


 根ごとなので、泥を落とす。井戸の水汲みが面倒なんで、笊に入れて家で洗った。洗ったというか家の周りに水が流れているので、そこに笊にいれて浸けておけばきれいになる。


 【収納】に入れて材料の準備は完了。作業台、銅製の蒸留機を三階に設置。なかなかかさばって困惑する俺。イメージ的にはシャーロック・ホームズの実験装置みたいなやつだったのだが、そうもいかないようだ。まずガラスのフラスコがね……。ほとんどが銅製か陶器製です。


 蒸留機、冷却用に水とか入れんでいいのかこれ? 蒸留したい物質を入れておくフラスコみたいな形の蒸留瓶に、管のついたドーム型の蓋みたいなのをかぶせてあるだけなんだが。


 蓋の内側の溝に溜まったものが管を流れる仕組みだけど、蒸留瓶を熱するのはいいとして、蓋のほうは冷やさないのか? 冷やして蒸気を液体に戻すんだよな? 海水から真水を作るのに海水を入れた鍋の中央にコップ、上に中華鍋おいて、冷却のために中華鍋にも海水を入れるのと同じ仕組みだろう?


 これは鍛治小屋の炉にいよいよ火を入れる時が来ただろうか? まあ、道具の改造は後にしよう。今回は完成まで時間がかかったほうがいいわけだし。とりあえず薬ができあがる前に、金ランク組にはさっさ二度目の討伐に行って欲しいところ。


 気のせいでなければやりたいこととか作りたいものが山積みなんだが……。制限されることがなくて、自分でやる順番を決めて、やりたいことができるのが幸せなんでいいけど。


 今回の薬が作れる装備を整え終えて、あとはパーティーまで図書館通い。


 司書にルフの民に関する本の場所を聞くと、明かりの灯る――精霊だが――鎖のついた香炉こうろを持って案内してくれる。香炉から上がる煙は微かな匂いがあるだけで、薄く広がり本の隙間に消えてゆく。煙には防虫効果があるっぽい。


 明るい通路から暗い方へと連れられる。人々の記憶が薄い本、目を背けたい記録、忘れられた物語は暗い場所にあるらしい。


 ルフの民と呼ばれるのは二種類。


 古王国時代にパサ国を作ったルフ人は誰もが必ず精霊から守護を受け、数は少ないが強国を作り、文化レベルも今より進んでいたとさえ言われる民だ。王位争いの疲弊と、数の多い野蛮な者たちに攻め入られたことによって滅ぶ。


 その後、いくつかの国が起こったが統治が上手くいかず、長く続かない。辺境で細々と命を永らえていたルフの女性を見つけ出し、女王と仰いでようやく安定したようだ。国名をルフと名付けて国民はルフの民と名乗るようになった。


「で、ルフ国が滅びる時に王家は皆殺し、と」

思わず半眼になって独り言が口をついてしまった。


 当然、精霊の系譜とされるルフは最初のパサ国のルフ人。そして今現在ルフの末裔を名乗っているのは、ほぼ関係ない人々の末裔。ただ、王家のおかげで国に精霊が多かったらしく、環境から魔力が多い国民ではあったようだ。それでなくとも古王国時代は今より精霊が多く、人々の魔力も多かったとされている。


 精霊の系譜と言われるルフAほどじゃないが、後から名乗ったルフBも今の人と比べたら十分強いし、精霊に近いというか扱いに長けているので誤解が解ける機会はなさそうだ。


 精霊がルフAを守護すると、呪文もなしに完全に自分のものとして精霊の力を使えたらしい。だが守護した精霊は見えなくなってしまう。もしかしたらルフAの受ける守護は、聖獣とか魔物のそれに近いのかもしれない。


 コーヒーを飲んで一息いれる。


 どっちのルフだかわからんけど、その後も国の盛衰にちらちらルフの名前が出てくる。伝説と言ってもいいけど、微妙に近い存在。これは痕跡があれば探したくなるわな。


 

「お疲れ〜!!」

カップをあげて乾杯。


 一キロはありそうな骨付きリブロースがそれぞれの皿にドーンと。皿というか、まな板っぽい器だけど。ちょっと固いがしっかりとした噛み心地で肉を食ってる!! という感じでテンションがあがる。


「牛も美味い!」

木製のカップに入った赤ワインをビールのように一気飲みして、肉を噛みちぎるディーン。


「あー、牛はクセがなくていい……」

「焼きたては素晴らしいのだよ!」

討伐中は干し肉とか現地で魔物の肉とかなので不満があった様子のレッツェとクリス。


 岩塩で味付けした牛肉の塊を炭火でじっくり焼いた肉をそぎ切っては、オレガノ・たまねぎ・塩が入ったソース、ニンニク・パセリ・酢が入ったソースのどちらか好きな方をつけて食べる料理も同時に出ている。


 というか机いっぱいに料理が広がっている。さすが牛一頭という感じで肉料理の数々がどんどんどん! っと。

 

 黒胡椒と赤ワイン、ローズマリー、ローリエで煮込んだ牛スネ肉の煮込み。レンガを焼く窯の片隅に鍋を置いて出来上がったとか。スパイシーで赤ワインが濃厚、食べ慣れたシチューとはちょっと違うけど美味しい。


 小麦粉の皮で餃子のように半月型に包んだ肉とチーズを揚げたものはもう少し肉汁が欲しいかな?


「むう。ミートパイはでないのだろうか?」

アッシュのつぶやきを拾って、ちょっと得意になる俺。


 根菜と牛乳、チーズのソースで煮込んだヒレ肉をスライスしてパンに乗せて食べる。これは後で作ろう、牛乳と生クリーム半々に変えればきっともっと美味しくなる。


 って、野菜が食べたい。さすが一頭、なかなかの肉の量……。






 

 

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