第76話 掃除
森の家を建てるために、また石工や大工のところに行ってお勉強。でも俺の建てたい家レベルの新築って少なくって、改装方法や知りたくなかった知識だけがついてゆく。
ついた知識。高いところに玄関がある理由、道に汚物があるので雨の日に家に汚水が流れ込んでこないように。
馬糞やら何やら頼むから掃除してくれよ! 燃料とかにできるだろう!? あと、ノミ・シラミも殲滅しろ!
なんというか、貧富もそうだけど文化レベルに差があって、例えばベッド。町家では毛皮や羊毛フェルトを敷いてるし、貴族は羽布団を使っている。ディノッソ家は藁を敷いた上に布をかけてベッドにしてるけど、他の農家は納屋の藁に潜り込んで寝るとかそんな差がある。
ここまで差があると、身分違いの恋とかあっても限度があるなと思う。気のいい人も多いけど考え方が違うので行動も違う。今を生きるのに精一杯なので目先のことで判断する。だって、来年は生きていないかもしれないから。
なかなか世知辛くって近寄れません。俺は何とかしようと立ち上がるような性格じゃないし。
公僕にはなれないけど、せめて友人知人は清潔にしておきたい。
「やめろ! 何をする! 剥くな!」
あー!!! っとなって、関係ないディノッソ家の掃除を思い立った俺がいた。
農家でも清潔な方だけどね、ディノッソ家。というか他の農家にも学習のため手伝いに行ってたんだけど、環境に耐えられなくってディノッソ家のみに落ち着いた。
「洗濯するから着替えてくれませんか?」
奥さんに人数分の着替え、靴を渡す。
「おまっ! 朝っぱらから来て何をするんだ、しかも何で俺だけっ!」
子供たちののりのりの協力のもと、ディノッソだけとりあえず丸裸にした。俺は子供は加減を知らないことを学習。
「あら、いいお洋服。これから子供達は家畜の放牧で、この人と私は畑なの。汚れてしまうけど大丈夫かしら?」
奥さんには挨拶とともに、本日の目的を説明してすでに許可を取ってある。
「それは差し上げるので、とりあえずディノッソの丸洗いをお願いします」
「井戸端で水浴びさせてから着させるわね」
ディノッソが俺をスルーするな! とか叫びながら全裸で井戸に連れて行かれたところで掃除を始める。家の中の権限は奥さんにあるのだよ、ディノッソ。
清掃作業の仕方。
煙突や隙間を
消毒前に収納できるものは全て【収納】。家が煙でいっぱいな間に外で布類を出して洗濯、および【収納】に入った余計なもの――
もう一回家の中で【収納】を使って、死んだ色々なものをポイ捨て。ここで畑に昼を届けて、みんなで食事。何を蒔いたかとか、今年の天候など平和な話題を合流した子供達に抱きつかれ、ディノッソに嫉妬されながら聞く。
食事を終えたら薬草の煙の臭いが少々残っているので拭き掃除、がらんとした部屋なのでそんなに時間はかからない。
家具を戻したのち、新しい藁をベッドに用意して終了。あとは洗濯物が乾くのを待つだけだ。
窓の鎧戸の修理をしているところにディノッソたちが帰ってきた。
「ただいま〜」
「ただいま」
「ただいま」
「おかえり」
いつもは抱きついてくる双子とティナだが、俺が工具を持っているからか周囲を笑顔でうろうろ。謎の儀式っぽい。
「あら。本当にきれい」
「お前、掃除の天才か……っ!」
大人二人はまず家の様子に驚いていた。
「頑張った」
「あー、せめて鎧戸は俺が明日やるよ。茶でも飲め」
まだ修理途中の鎧戸をディノッソが窓に適当にはめて、俺を椅子に連れて行く。
「おう、ウズラ剥いてこい」
「あと卵をお願い」
「はーい」
子供たちにディノッソと奥さんが言うと、元気よく三人が飛び出してゆく。
奥さんがお茶を淹れてくれ、俺とディノッソはカードゲーム。模様は違うけどトランプだ。
暖炉でウズラの焼き具合を見ながらだが、子供たちが奥さんを手伝っているのにちょっと申し訳ない感じ。
こんがり焼かれたウズラは回収され、どうやら煮込み料理になるらしい。ポト酒という糖分が残っている間に発酵を止めた甘い酒をソースに使い、ネギと煮込む奥さんの得意料理だそうだ。
ディノッソが言うには、ウズラも美味しいけど、味が移ったネギがたまらなく美味しいとのこと。
ネギの季節も終わりだな〜などと感慨深く言うディノッソ。
ディノッソ家は俺の理想の家だ。ただ現実的に考えて俺の性格ではちょっと無理でもある。ふらふらあちこち行きたいし、一人で籠りたいことも多いからね。
「そういえばジーンは掃除好きなのか?」
「いいや?」
むしろ嫌いだ。
「じゃあ何でまた?」
「不衛生なのが耐えられない場所があってだな、発作的に掃除できる場所を掃除しに来た」
「ジーンはきれい好きだものね、できたわよ〜。運んで!」
何だこいつという顔を向けたディノッソの後ろから奥さんの声がして、子供たちが皿をかちゃかちゃと持ってきた。
俺のこっちの世界レシピにウズラとネギのポト酒煮が加わった!
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