第73話 水盆
黒くて大きな器に水を注ぐ。
「さて、見せてくれるかな?」
声をかけると風もないのに水面に波紋が広がり、それが収まった時には部屋でない風景が映し出されている。
片っ端から頼んだだけあって、映像は欠けることなくクリアだ。予想外は精霊の姿も映し出されるので、横切る精霊がいるとちょっと見にくい。街よりも森は精霊が多いのだ。
精霊を見えなくすると水盆の風景も見えなくなる。慣れたらこれも微調整できるのかもしれないが。
黒い精霊も映るけれど、その辺は普通の精霊と同じで小さな精霊ならば何かされても大したことはない。アズや顎の精霊みたいに小さくても長い時間同じことをされると目に見える影響が出てくるけれど。
見た事のない冒険者が置かれた火口を前に顔を歪めている。おそらく思うように火がつかず、舌打ちでもしているのだろう。
黒い精霊が出ると、普通の精霊が姿を隠すことのほうが問題かもしれない。すぐそばにいなくても少しでも
火の精霊がいないと火がつきにくい、風の精霊がいないと空気が淀む。俺がいた時は怖がってか近づいてこなかったが――これは過ごし辛そうだな。
そろそろトカゲの繁殖地を超えて、新しいところに着いた頃かとおもったのだが進みも悪いらしく、まだ俺も知っているトカゲの野営地だ。
俺たちが前回整えた野営地では知らない面々が肉を食っている。胡座をかいた大男、その膝に片手を置いてもたれるように横座りしているローブの女性、反対側の女性は何かを両手で持ってニコニコと食べている。
三人とも精霊持ちのようだ。これが多分金ランクなんだろう、そしてリア充、リア充だな? 今まで見たことのある人に憑いている精霊の中で一番大きい。どうやらこの精霊たちがいるおかげで、金ランクのそばにいれば黒い精霊の影響は大丈夫そうだ。
アッシュたちはまとまって同じ焚き火を囲んでいる。アズと顎好き精霊、匂いフェチ精霊が揃っている。離れた場所には執事の精霊もいるのだろう。俺が気にかけてほしいと頼んでおいた精霊の一人がレッツェの髭をじょりじょりしているっぽいのだが……。
俺の精霊に変なフェチつけないで欲しい。レッツェに抗議できないところが辛い。
次に覗いたのは昼間。アッシュたち五人は組んで動いている、二組でいけるはずなのに五人で動いているということは何かあるのか?
金ランクの三人は男が大剣でトカゲを一刀両断していた。精霊剣なのか、それともそういう能力が精霊によってもたらされているのか、どっちだろう。
この世界、妙に世知辛いくせに油断してるとファンタジーを突っ込んでくるからな。オリハルコンとかヒヒイロカネがあっても驚かないが、精霊が一緒に剣に手を添えているからどっちかだろう。
ローブの女性は魔法を放っていた。杖を一緒に支えている精霊が真剣な顔をしているのがちょっとコミカルに見える。
呪文に合わせてローブの女性の精霊が光る、精霊は少女型で金色の髪。たぶん光の精霊の系統だ。呪文の途中で光の精霊に他の精霊が力を貸す、同じ光の精霊が多いが火の精霊も。火の精霊は好戦的な性格のものが多い。
もう一人の女性は姿が見えないと思ったら弓使いだった。少し離れたところから正確にトカゲの目を射抜いている。離れてて別なトカゲに襲われたりしないのかな?
こちらは多分、風と緑の精霊。木の枝が弓を包むように生えているので、こちらは精霊憑きというより精霊武器使いなのだろう。女性のほうにも枝が伸びているので相性もいいように見える。
で、大男の精霊がどう見てもプレイリードッグなんだが。どこの大陸から来たの? この大陸にいるの? プレイリードッグの尻って可愛いよね。
大男の剣技は俺には参考にならなくなってしまった。ちょっと前までは真似する気満々だったのだが……。でも人の動きを覚えておくこともいいだろう。もし大剣使いと戦うことになったら、役にたつかもしれない。
平和に暮らしてるんで、絡んできたのを排除することはあっても人と真面目に戦う機会はないと思うけど。
クルミを
トカゲを仕留めるのを見ていると、一人様子のおかしいやつが。弓を構える女性に斬りかかっている。――想定内だったのか、女性の方が逆に思い切り短剣で脇腹をえぐってるけど。
なるほど、対象の数がわからない状態で離れてて大丈夫なのかと思ったら、接近戦もできる上に強いんだな。心配無用だったようだ。
腰の短剣を素早く左手で抜いて、迷いなくぐさっと、かなり手際がいい。金ランク怖い!
それはおいておいて、男は思い切り黒の精霊に憑かれてるようだ。まだ乗っ取られてはいないけれど、くっついてる。黒い精霊は、弓の女性に乗り換えようとして弾かれた。
憑かれる条件が何かあるんだろうか。それとも女性が何かした?
アッシュと執事、たぶん弓使いは黒い精霊が見えているはず。アッシュたちが一緒に行動していたのはこのせいかな。
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